2−5 2年1組の魔法の授業(2)
家庭教師の指導の下、夏休みの間に練習してきた筈なのに
魔法が発動しない。理由は大体想像がつく。
1:コツが掴めないので練習に熱が入らない。
2:コツが掴めないので練習を続けるが時間がなくなり止めた
3:そもそも魔法行使力不足で発動が難しい
1組に多分金で押し込まれている彼等に、親が練習させない筈がない。
だから、練習が嫌だからしない、という選択肢はない。
それでも出来ないという人達に、
多分蔑まれている私がどの様に指導したら良いのか。
やはり問題先送りが良かろう。
ケント・バーナード男爵子息とヘレナ・バーグ男爵令嬢を
先に指導する事にする。
「バーナード家ご子息はもう一度魔法発動を行って下さい。
詠唱は皆に聞こえる様にお願いします。
他の方は魔法発動の具合を観察して下さい。」
ケントは魔法詠唱をするが、制御がよろしくない。
また、魔法行使力は十分だが、魔法影響力が若干弱いと感じる。
少し近くに目標を作ってみるか。
土魔法で地面を皿状に隆起させる。
向こう側を少し欠けさせる。
「その窪みに泉を作ってみましょう。
魔法行使力は十分なので、近めに目標を定めれば発動しやすいと思います。」
再度の魔法詠唱で、皿の中央に少し水が貯まる。
ケントの顔が明るくなる。そう、成功の目が見えると人間、やる気が出るんだ。
「少し休みをしながら、何度かやってみて下さい。
但し、窪みの中心部に魔法を集める感覚でやってみて下さい。」
一丁上がり。
「バーグ家ご令嬢はその横でお願いします。
窪みを作った方が良さそうですか?」
「すいませんが、お願いします。」
この娘は貴族の爵位を重視してくれる様だ。一対一なら。
土魔法で窪みを作ってあげる。
「他の方は魔力を感じられるか見ていて下さいね。」
ヘレナはケントの成功を見ていたから、イメージし易かったのだろう。
一度で水が溢れた。
「出来ましたね。まず窪みなしでこの位の距離でやってみて、
問題なければ少し遠くに発動する様にしてみて下さい。」
ここまでは予定通りなんだけど…
次がキース・クロムウェル子爵子息、
残り二人が商家の息子、ルーサー・コーンズとダニー・ホッジスだ。
「クロムウェル家ご子息は窪みがあった方が良いですか。」
「頼む。」
既に不機嫌だ。このまま上手くいかないと絡まれそうだ。
さりげなく今までの二人より近くに窪みを作る。
「気持ち、詠唱を大きめな声でお願いします。
問題があれば指摘し易いので。」
キースが詠唱をするが、魔法の収束が甘い。
これでは発動しない。どうしようかなぁ…
「まず、ウォーターボールをそこに出してみてはどうでしょう。
狙いをつける練習です。」
これでキースが切れた。
「何で初級魔法をやらなきゃいけないんだよ!
大体、お前何様だよ!
なんでこの順番で指導してんだよ!
しかもお前、全然魔法やってないじゃないか!
まず見本見せてみろよ!」
男爵家子女を先にして、子爵子息を後にしたのは気に障るよね。
でも、私だと見本にならねぇからやらないんだよ。
その位気づけよ。
と言ってもしょうがない。
相手は単に喧嘩売る理由として上げたんだから。
ここでコリンがこっちに来る。
「いいじゃねぇか、見せてやれよ。
俺も見たいし。」
いつも思うんだけど、あんたは本当に考えなしの言動ばっかりだね。
ふぅーと息を吐く。ちゃんと口から吐くのがポイント。
淑女は鼻の穴を膨らましたりしないからね。
「じゃあ、コリン様、呪文の 水 の後ろに わずかに と付けて
発動してみて下さい。」
「何、それ?」
「いいからやってみて下さい。」
コリンのスプリングは小鳥の水飲み容器ほどになった。
「なんだこりゃ?」
「そこにその単語を入れると魔法効果が小さくなるんですよ。
じゃ、私がやってみますね。」
普通は10ft程の距離で発動させるが、私の場合は倍の距離で発動させる。
いつもの事だ。
嗚呼、それなのに、今日もスプリングはファウンテンになった。
3ftしか吹上げてないからいつもよりはマシだが。
はぁ、おお、えっなどの声が上がる。
「そういう訳で、参考にならないので見せなかったんです。」
キースは上げた拳を下ろせない。
「何ズルしてんだよ!ちゃんとやってみせろよ。」
「同じ呪文でも、発動する人が違えば結果は違うんですよ。
コリン様、何故だか分かりますよね?」
「え、分かんねぇ。」
だからちょっとは考えてから喋れよ!
「しょうがないので、ハワード家ご令嬢、お答え頂けますか?」
「一々面倒だから、カーラで良いわ。
他の人も指導を受けてる間は名前呼びで良いでしょ?」
周囲を一睨みする。この中では伯爵家が一番爵位が高いから、
特に文句は言われない。
よし、カーラの威を借り名前呼び容認された。
「ではカーラ嬢、お答え下さい。」
「魔法行使力の差。」
男らしいのか、せっかちなのか。必要な答しか言わないよ。
益々、余計な事を言わないグレースの子分っぽい。
「と言う訳で、ズルでも何でも無いです。
だから、実演をする場合は今の様に呪文の効果を弱める単語を挟んで
やる事になりますが、
それでも良ければ実演はしますよ。」
コリンが余計な事を言う。
「ぜひやってくれ。魔導士の魔法なんて中々見ることが出来ないからさ。
後、キース、順番の事なら、それも魔法行使力の差で順番決めてると思うぜ。
だから一々文句付けると、多分お前が聞きたくない事実がどんどん出てくるけど
言われた後で文句いうなよ。
お前が言わせたんだからな。」
この男、頭は結構回るんだよね。根が馬鹿だけど。
キーズが悔しそうな顔をする中、ここでカーラが一言加える。
「この際、全員の魔法師としての評価、言ってみたら?
変に隠すより良いんじゃない?」
私の魔法感受性の能力について、確信してるみたいだね、この娘。
グレースに報告する為にも確かめたいんだろうけど…
「能力が高い人は良いけど、高くない人は聞いても辛いから、
言わない方が良いと思いますよ。」
ここでまたコリンが口を出す。
「俺は聞きたいな。聞きたくない奴は挙手しろよ。」
そう言われて挙手は出来ないよ。プライドにかけて。
「じゃあ、一人一人、話しますので、
他の人はあまり近づかないで下さい。」
コリンはまあそのまま言ってもいいか。
「コリン様は、普段強化魔法をある程度使いこなしているだけあって、
魔法行使力は1組の平均以上、魔法干渉力は普通位かな。
魔法継続力はこれから見てみないと分かりませんが、
悪くはないでしょうね。」
「以外と評価高いな。魔法師になった方が良いかな。」
「そこはお好きに。」
「冷たいな!」
カーラもまあそのまま言うべきだろうね。
変な事を言って、隠し事をしてると思われる方が不味い。
「カーラ様は魔法行使力、魔法干渉力共に1組の平均位でしょう。
魔法継続力は見てみないと分かりませんが、
魔法制御が良く出来ているので、多分良い方だと思います。」
「一回見ただけで良く分かるわね。」
「まあ、大体なので、今後評価が変わるかもしれませんが。」
「家庭教師に言われている通りよ。合ってると思うわ。」
その後も実力を婉曲表現して伝える。
キースには辛い内容だと思うが、
「魔法継続力の問題はありますが、何回かは練習出来ますから。
その中でコツを掴もうと努力すれば、
一つでも多く魔法を使える様になりますよ。」
と結んだ。彼がどこまでやる気になるかは分からない。
とは言え、相手の事も考えながら指導というのは辛い。
伯爵家以上の上位貴族の子女なら仮面位被れるが、
下位貴族の教育はその点、至らないのは昨年の2組で身に染みている。
結果が出れば違うのだろうが。
3話目で結論が出そうにないです。
明後日までこの話題で進めます。