2−4 2年1組の魔法の授業(1)
2年1組には入ったが、友人は出来そうにない。
私に近づく貴族はいない。
こちらも誰がマシな奴か分からない。
まあ、水曜以外は学院以外で人と話が出来るから去年よりは良い。
魔法理論の授業は去年よりは良かった。
教師の声が聞こえるからである。
時に教師は誰かと質疑を行うが、私と質疑をする事は無い。
王国史上、最年少の魔導師と議論をする気は無い様だ。
そこから教師の質が知れた。
では、魔法実技の授業はどうなるか、と思ったら、更に酷かった。
「君には水魔法師の指導をしてもらう。
好きに指導してもらって良い。」
魔法実技の最初の授業の開始直後に実技担当の教師が言った言葉である。
…せめて最初の授業の前に呼び出してその旨伝える位の事は出来ないのか。
無茶でも予定は知らせてくれるランディーが真人間に見えるよ。
パンパン、と軽く手を叩く。
「水魔法師の皆さんは集まって下さ〜い。」
見慣れた顔がやって来る。コリン・カーライル伯爵子息。
もう一人、要注意人物がやって来る。
カーラ・ハワード伯爵令嬢。ゴードン家の寄せ子の娘である。
つまり、グレース・ゴードン侯爵令嬢の手先と思われるのだ。
グレースは婚約者候補の教育の場では大人しくしているが、
あの要領の良さは情報をしっかり把握しているからだろう。
そう考えれば、私の学院での振る舞いはカーラ嬢を通じて筒抜けだと思う。
その他合わせて9人が集まる。
2年1組には私を含めて10人の水魔法師がいる事になる。
「先生からたった今言われたのですが、
水魔法師の指導は私がする事になりました。
次の授業には何らか資料を用意するつもりですが、
今回は無しでお願いします。
ところで、皆さんはスプリングの呪文は覚えてきましたか?
覚えてきた方は挙手して下さい。」
7人が挙手する。
「お二人はこちらに来て下さい。」
二人の前に土魔法で地面を隆起させ、
その上を平らにして呪文を刻む。
「ちょっと見にくいけどこれで我慢して下さいね。」
おおっ、と9人が小さな声を上げる。
土魔法だと十人並だからこんなもんだが、
水魔法で氷で作ればもっと大きく出来る。
でも氷に文字を刻んでも読み難いと思ったんだ。
「それでは、端から一人ずつ呪文詠唱だけして下さい。
魔力は込めないで。
まず詠唱状況だけ確認させて下さい。」
ここにいるのは上位貴族か裕福な下位貴族、商人の子女であり、
家庭教師は付いている。
だから呪文は一度ならず指導を受けているから、
変な詠唱は無かった。
覚えてない二人もうろ覚えというだけで、
指導は受けている様だ。
「じゃあ、コリン様に最初に魔法を発動してもらいます。
その後はまた端からお願いします。」
「え、俺が最初なのは何で?」
「詠唱が自信ありそうに響いたので。
魔力も問題なさそうでしたし。
という事で、お願いします。」
詠唱の後、彼の7ft先に泉が出来、排水溝側に流れていく。
「お見事でした。
練習ではもうほんの少しゆっくり詠唱した方が良いと思いますが、
魔法の制御も問題ない様です。ありがとうございました。」
「おう!」
無駄に威勢のいいコリン。お調子者だからね。
続けて端から魔法発動をしてもらう。
「少し詠唱の声が小さい気がしますが、
メリハリのある詠唱を心がけた方が呪文を覚えやすくなる
と思いますよ。」
とか
「すいません、今少し詠唱の単語が違う気がしましたが、
詠唱だけもう一度お願いします。」
とか軽い注文を付けてみる。
4人は問題なく魔法が発動するが、5人は発動しない。
魔力的な問題もあるし、制御上の問題もある。
個別指導で何とかなる者もいるが、
中級魔法を何度も練習するのは厳しい者もいる。
婉曲表現をしないと傷つけてしまうだろう…
「とりあえず、3回詠唱だけしてみましょう。
私の後に真似て詠唱してみて下さい。」
とりあえず詠唱に慣れさせる。
「発動できた4人は順番に魔法を発動してみて、
お互いに気づいた点を言い合って下さい。
発動できなかった5人はこちらに集まって下さい。」
2人は問題ないだろう。2組の平均は上回る魔力がある。
3人はどうしようかなぁ…
長くなったので2回に分けました。
…問題先送りではありません。多分。
でもちょっと見直しさせて。