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2−1 新学年の始まりとキャサリンの呼び出し

*テンプレ注意*

いつもはモロテンプレは避ける様に努力はしているのですが、

今回ばかりはどうにもなりませんでした。

新学年開始の日、

入学式兼始業式が行われる。

本来生徒の入れ替えは無かった魔法学院なので、

1組と2組の入れ替えは生徒個人にだけ告げられた。

1組と2組で入れ替えられた生徒は二人ずつ。

エレノーラは入れ替えざるを得ないのだが、

代わりに2組に落とす生徒が一人に絞れなかった為、

二人が入れ替えとなった。

つまり、学業不振かつ裏金の多寡で総合的に同格の二人がいたのだ。

贈収賄のルールも中々厳しいらしい。


 斯くしてエレノーラは2年1組の教室に入ったのだが、

明確な敵意を込めた視線を向けられた。

キャサリン・フィッツレイ公爵令嬢である。

もちろん、魔獣に比べれば敵意は小さいのだが、

ここまで露骨に人に敵意を向けられる事は他にはない。

これは何かやられそうだ、とエレノーラは思ったが、

表面上は平静を装っていた。

2ヶ月間、王太后の下で鍛えたのだからこの位は普通に出来る。


 もちろん初日なのだから、授業はまだない。

細かい連絡事項と明日以降のスケジュールの説明のみである。

また、本来クラスの人の入れ替えは無い為、

自己紹介などもなかった。

男子は剣の授業で見ているから半分は分かるけど、

女子はキャサリンとその取り巻き位しか分からない。

まあ、ぼちぼちいきますか。

この中の何人が私と話をする気があるか分からないし。


 と、思ったら、キャサリンの取り巻き1が机の横を通り過ぎ、

紙切れをさり気なく机の上に落としていった。

「この後、裏庭園のガゼボで」

ああ、早速校舎裏へ呼び出しだ。

この後に授業がない以上、裏庭園に遊びに行く人間などいない。

貴族ならタウンハウスにすぐ帰るだろうし、

公爵令嬢が何をやろうが平民には口出し出来ない。

やる気ですか。

むしろ顔に傷でも付けられた方が色々ケリが付いて良い気がするが、

私がキャサリンの何らかの攻撃を避けられない筈がなく、

そういう問題が起きたらスタンリー家も無傷という訳にはいかなくなるだろう。

ちろん、と横目で見るとアーサーは女の子達に囲まれて色々挨拶を受けている。

隣のわんこを呼ぶか。

ギルバートに斬撃の気合を飛ばす。

単に斬撃の際に込める気合を相手に飛ばすだけだ。

気づいたギルバートが横目でこちらを見る。

視線で出口を示す。

廊下に出ると後ろからギルバートが付いて来て、

小声でつぶやく。

「どうした?」

「キャサリン様から呼び出し。穏便に済ますつもりだけど、

 相手が収まるとは思えないから、

 一線を超える前に介入して欲しい。」

顔も合わせず小声で呟き合う二人。

「分かった。」

距離を置いてギルバートは付いてくる。


 裏庭園は校舎の北側の林に囲まれている。

こういう人目に付かない場所をなぜ態々作るのか。

魔法学院に貴族議会の影響力がある以上、

これは貴族議会の意思だろう。

貴族って怖い。


 ガゼボにはキャサリンと取り巻き二人が、

その両側に男子が二人いる。

寄せ子の寄せ子、その子息だろうか。


 近づいていくが向こうは何も言わない。

こちらは発言する事を許されていない。

10ftを挟んで沈黙が場を支配する。


 焦れたキャサリンが口を開く。

「田舎者は挨拶も出来ないの?」

「発言を禁じられておりますので。」

キャサリンの首が赤くなった。

顔は白塗りの為、肌の色は見えないのだ。

「過ぎた事を何時までも引きずって!

 これだから田舎者は嫌なのよ!」

自分で言ったことを覚えているから頭に来るんだろう。

それ、こっちを批判する事じゃないよね。

発言を禁じられているのにどうすれば穏便に済ませられるんだろう?

「二度と言わないから覚えておきなさい!

 あなたの様な田舎者に殿下の婚約者など務まりません。

 身の程を知り、辞退なさい!」

そんな事を言われるだろうとは思っていたけど…

爵位が下の家の娘。田舎育ち。そんな事で下に見ている者が、

自分が決して敵わない姉と同格の王子の婚約者候補である事が我慢ならないんだ。

でも、口に出したら駄目だろう。王命に背け、って謀反指嗾になるから重罪だ。

「申し訳ありませんが、お諌めしないといけない事ですね。

 王命にて候補の選考をしているのに、

 それを候補者の家族が他の候補者に辞退を強要する、

 こんな事が明らかになればお父上にも姉上にもご迷惑がかかりますよ?

 撤回をお願いします。」

「あなた、何様のつもり!?

 公爵令嬢の言う事が聞けないの!?」

だから、王様の命令を覆す権限は公爵閣下にもないんだってば。

ましてやその子女にある筈もない。

この年になって自分の権力の及ぶ範囲すら理解していないのか。

そりゃあ、お姉様もお家もあんたの事は無関係に自分達と付き合え、

というある意味切り捨てた言い方をする筈だ。

そんなアンジェラの言葉を聞かせればもっと激昂するよねぇ…


 キャサリンは男子二人に視線を向ける。

「思い知らせてやりなさい!」

こんな事で暴力主義ごっこ?

人間と魔獣の境界では互いの未来をかけて命がけの暴力の応酬を行っていて

そのおかげでこんな所で平和に暮らしていられるというのに。

令嬢だから暴力なんて無縁とそういう事実を無視するなら良いけど、

あんたも暴力を使うってんなら容赦しないよ。

この学年十剣でもない子達で私をどうにか出来ると思ってるの?

獲物なんてなくても水魔法師は身体が凶器だよ?


「いい加減にしろよ、キャサリン。」

ギルバートが颯爽と現れた。

男の子二人が痛い目に合うのが可哀想だと思ったんだね。

「何?あなたの出る幕ではないわ!」

「そうもいかないだろ?

 王子の婚約者候補に暴力を振るう様に指示した、

 そんな事が明らかになれば、

 物理的に首が飛ぶぞ?

 お前等全員だ。」

分かっていなかったらしい全員が驚いている。

あの王だ、こんな事が分かれば上手く利用して貴族家の権勢をきっちり削ぐだろう。

とても残念そうな顔をしてね。ポーズとして。

「今回は見なかった事にしてやる。

 二度目はないぞ。」

「あなたの発言と私の発言のどちらが重視されると思っているの!」

「5人の意見は取り上げられないさ。

 全員王子の婚約者候補への加害者一味なんだから。

 対して、俺は第三者だから、俺の意見の方が採択されるぞ。」

キャサリンは首が赤いままだが、

他の4人は漸く事態の重大さを悟ったらしく、青い顔をしている。

「分かったな。

 十数える間に解散だ。

 一、二、三…」

5人は小走りに去っていった。


「お前な…やる気満々な顔してんじゃないよ…」

「男子ですもの、女の子から腹に一発食らって倒れたなんて言えないでしょ。」

「馬鹿な上司と学年で十番目に凶暴な奴に挟まれて、

 あいつら本当に気の毒な奴らだよ…」

「まあそれは兎も角、ありがとうございました。

 お陰で助かりました。」

「何か希望があるか?」

「穏便によろしくお願いします。

 アンジェラ様にはお世話になっておりますので。」

ふぅーとギルバートは息を吐いた。

「良いのか?暴力にまで訴えようとしたんだぞ?」

「生まれた時からあのお姉様と比べられ続けたら、

 そりゃあ馬鹿にする相手がいないと息も出来ないでしょうよ。」

「そういうお前も今はあのお姉様と比べられているんだぜ?」

「誰も本気で比べてないでしょ。

 私は能力的に前線向きの人間で、

 王子妃なんて言うのは前線から一番遠い王都に住んで、

 貴族相手に権謀術数を尽くす人で。

 家柄、人格、能力全てでアンジェラ様が適役と言えるでしょ。」


 ところがそうとも言えないんだよな、とギルバートは思う。

家柄って言うならキャサリンでも良いって事になるが、そうはいかない。

能力?そんなもんは周囲が補佐すればいいのさ。

人格は良いかもしれないが、じゃあ相性が良いかっていうとそうでもない。

男と女で互いにその気にならないとな。

結婚だけしてもすぐ妾を作るなんて事になったら、

離婚が基本的に許可されない宗教を崇めるこの国の

王としてふさわしくないなんて教会が介入して来かねない。

年上の女とアーサーがお互いに今一その気になってないから

同い年のエレノーラを候補に入れたんだと思うぜ?

だから、全然目が無いなんて事はないんだ。


「それは俺達が判断する事じゃないんだが…」

ここでギルバートが小声になる。

「気配が2つあるが、どうする?」

エレノーラは小首を傾げて微笑んだ。

…問題ないって事か?

「とりあえず寮まで送るわ。」

「ありがとうございます。今日は紳士ですね?」

「騎士だからいつも紳士さ。」


 エレノーラを送った後、ギルバートが教室に戻るとマイクが待っていた。

「馬車に行くぞ。」

アーサーが待っているのだ。


「かくかくしかじかで解散したぞ。」

アーサーの眉間に皺が寄った。

「キャサリンもどうしようもないな…」

「ああも立場に胡座をかかれてはな。

 警告はした。次があったら何なりと処分するしかないな。」

「エレノーラは大丈夫だったのか?」

「普段は格下相手には抑制的なんだがな、ストレスが溜まってるかもしれないな。

 怯えてはいないから、様子を見るしかないだろう。」

ストレスの原因が婚約者教育だとしたら、

嫌われないかな、とアーサーは朧げに危惧した。

「二人付いてきてたのは大丈夫なのか?」

「エレノーラなら誰だか分かるだろうから心配ないだろう。

 あとは監視の報告を待てば良いさ。

 一人は赤毛だろうしな。」

元々アンジェラとグレースに付いていた学院内の監視係が手すきになったので、

エレノーラの監視係にスライドしたのだ。

監視兼護衛だが、エレノーラなら学院内での護衛は不要だろう。

魔力を持つ者なら後ろから近づいても気付く筈だ。


 赤毛のポール・サマーズ公爵子息、エレノーラも敵わない強い男。

エレノーラもやっぱり強い男が好みなのかな、

とアーサーはぼんやり考えた。

彼がエレノーラを度々気にかけているのはアーサーも見ている。

エレノーラのどこを気に入っているのだろう。

剣の授業の合間に面防具を外した時に見せる端正な顔か。

乗馬の授業で見せる少し頼りなさげな顔か。

それとも馬に見せる年相応な顔か。


アーサーくん、体育の授業中に女子の方を盗み見るのは程々にしてね。


キャサリンは努力をしても褒めてもらえないどころか叱責される(全て姉に劣るから)ので、

努力を止めて下を見下す様になりました。

それは代償行為なので機嫌が悪い時に目についた相手にする。

態々人を呼び出して喧嘩を売ることはしません。

いつもは。

それでも今回しているのは、初対面の時に分かってしまったのでしょうね。

無意識に。

それはアーサーがキャサリンの事は何とも思わないけど

エレノーラは気になるのと同じ理由。

いつかマリーが言った通り、「目と髪の色を気にしなければ」の意味するところ。

つまり、見た目で負けている。

だから必死に否定しないではいられない。


流れよ我が涙、ですね。

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