1−57アーサーとエリカ と 魔法院(12)
次にエリカがアーサーの執務室を訪れる日、
エリカの挨拶に続いてアーサーから話しかけた。
「あー、えーと、
僕が色々頼りない点とか気の利かない点とか、
色々君が気に食わない点はあるかと思うが、
なるべく早く大人らしくなろうとは思っている。
努力は続けるから、
その、長い目で見て欲しい。」
ちろん、とエリカがアーサーを半眼で見る。
「何それ。
誰かに入れ知恵された?あんたの言う言葉じゃないよね?」
アーサーの握る手に汗が滲んだ。
努力して無理して言ってるんだから、ちょっとは評価してくれよ。
「えーと、エリカと喧嘩したと聞いたエレノーラが、
どうせ怒らせた理由も覚えてないんだろうから、
只管謝れと。」
「謝ってないよね?
それはともかく、あの娘何?
他の候補が喧嘩してるんだったらその間に色仕掛けして分捕る位
するのが普通でしょ?」
色仕掛けは不味いだろう。
向こうにその気は全く無いんだけど。
「多分、幼なじみと喧嘩してるのは気まずいだろうから、
早く仲直りしろ、と気を回してくれたんだろう。」
「と周囲が気を効かせないと仲直りできないんだ?」
「いや、男らしく前を向いて再発防止に努めようと思ってる。」
「ってあんたの使う様な言葉じゃないよね?
エレノーラがそう言ったんでしょ?」
「ぐぅ…」
これに割り込むのはマイクもギルバートも嫌だったが、
せっかくアーサーも頑張っているし、
エレノーラの気遣いが台無しになるのもあんまりだ、
とマイクが口を開いた。
「そう言うなよ。
エレノーラがエリカの為にアーサーを奮い立たせたんだから。」
はあ、と声が聞こえそうな程エリカが口を開いた。
「私の為にって何で?」
「さあ、好きなんだろう、多分。」
え、という顔をしたエリカの顔が段々赤くなる。
「好きって何!?
私あの娘に小言しか言ってないよ!?」
「知らねえよ、でも、これがアーサーの為か、
エリカの為か、って聞いたら、
アーサーの為、と明言出来なかったから、エリカの為なんだろうよ。」
「だから何で!?」
「だから知らねえよ!
でも、兎に角早く仲直りしろ、と釘を刺して行ったから、
エリカに機嫌直して欲しかったんだろうよ。」
「だからー!!」
ここでアーサーが割り込んだ。
「ちょっと待てエリカ。」
「何よ!」
「あんまり大声出すと、バレた時にお祖母様からお小言を貰うぞ。」
「ぐぅ…」
婚約者候補達がこの執務室を訪れるのは、
アーサーとの交流の為で、それがどの様な状況かは
現場にいる侍従・侍女から王太后に報告が行くのだ。
仲直りしようとしているアーサーに激昂していたらお小言ものだ。
アンジェラ達の様な2才年上はさすがに精神年齢の差がきつく、
少年達とは距離があるのだが、
1才しか違わないエリカは、
このキレやすい性格とお姉さんぶるところがなければ、
少年達とはそれなりに親しく話せるのだ。
魔法院では、
ランディーからこの前の討伐の総括が話されていた。
「まず、現地の状況としては領内に入り込んだ大熊が黒狼の移動の原因と思われる。
大熊の移動原因は調査不足だが、
普通に考えれば子育てをしたいが誰かの縄張りも奪えないから人里に近づいた、
という辺りだろう。」
「子育て、という理由で移動したのは間違いなさそうですね。」
「妊娠中か、子育て中に理由もなく移動するとは思えないからな。
続いて討伐自体についてだ。
大物について打撃力の大きい攻撃をするのは良い。
だが、軽量の魔獣についてあの質量の攻撃は無駄だ。
今後の方針として、貫通力のある魔法の練習は必須だ。」
「仰る通りです。」
「只、それは相手が変われば対策も変わる、という事だ。
今回、大猪等が現れる事も予想されたが遭遇しなかった。
他の領地の討伐に参加してその様な他の魔獣と遭遇する事もあり得る。
今後はそういった魔獣別の対策も練習する必要があるだろう。
つまり、魔獣の教育もしていく事になる。」
「後、これは学院の事だ。
新学年開始時に元1年2組の魔法理論と実習担当教員は更迭される。
一方1組の魔法の教員は不正介在の度合いが少なく、
交代要員が確保出来ない事もあり、昨年の教員がそのまま指導する。
お前には初めての教員だが、
まあ言う事が怪しいようなら聞き流せば良い。」
…あんまりな言い方だけど、
ランディーより知識のある教員がいるかどうかは怪しいので、
何か言われたら原典を示して反論すれば良いか。
そんな生徒は嫌われそうだけど。
この日の上級呪文の練習はブリザードだった。
晩夏にブリザード…
周囲からは涼しくて良い、と良い評判だったが、
発動する本人は猛烈に寒かった。
もう1日待って頂ければ、2年編になります。
その前に書く事があるので。