1−52 魔法院(11)
火魔法の初級魔法を検討したが、
まだ全く触れたことのない呪文がある。
聖魔法だ。
聖魔法は基本的には教会が独占しており、
魔法院にも一応聖魔法部があるが、
聖魔法の呪文、資料は管理されていて、
容易に閲覧する事ができない。
のだが…
「呪文研究の為に許可を取った。
図書室2階層の許可制区域で読んでこい。
最低限の書付けは認められている。」
ランディーを阻む物はこの世に無いのだろうか。
個人的には教会に借りを作る様な気もするし、
後で冤罪で捕まったりしないか心配だ。
まあ、頭に書付けてくれば良いか。
そんなに記憶力が優れていないんだけど。
しょうがないので、書付けには類似する単語をそれぞれ
1,2,3等と書き換えて
情報を持ち出していない、と後でアピール出来る様にしておく。
ところが、戻った後の事を考えてなかった。
そう、議論をしないといけないのだった。
「それじゃあ議論が出来ないだろう。
水魔法部にて書いてきた物の置き場所を管理すれば良いだけだ。
付いて行って話を通してやるから、
今度こそ書付けてこい。」
二度目となると少し見えてくる事もある。
書付けた内容を水魔法部に戻って議論する。
「聖魔法の初級呪文を読んでみて、
気づいた事はあるか?」
「父なる日輪とか、母なる大地とか、
神の恵みなど、
魔法が神々の恩恵であると示す表現が必ず入っていますね。」
「まあ宗教的なアピールだろうな。」
「神々の力を感じて魔法を発動する等と言う事はないのでしょうか?」
「自分で聖魔法を発動出来ない以上、憶測でしかないが、
聖魔法を使う度に神を感じる位なら、
権力欲やら物欲やらに惑う神職者はいないだろうよ。」
「まあ、神を感じているのに不届きな事は出来ないでしょうね。」
「神を感じる、ねぇ。
お前は魔法を発動する時、あるいは祈りを捧げる時に神を感じた事はあるか?」
「…冬休みにどうしても初級魔法が上手くいかない時にお願いしてみましたが、
何も答えてくれませんでした。」
ランディーは彼らしく無慈悲にスルーした。
「そういう訳で聖魔法は神なる言葉が入るが、
これが有効な単語かどうかは分からない。
それ以外を今後何度か確認して類似を見つけてみろ。」
…自分で振った話題をスルーしないでよ…
聖魔法の文法は独特の物があった。
「聖魔法も古い呪文なんでしょうか?」
「今この国にある聖魔法は改革派が広めている物だ。
本当に古い物は旧王都を去った古典派が廃棄した為分からなくなったと言うが、
眉唾だな。」
「初代聖女が最初に所属していたという古典派ですか?」
「伝説では初代聖女の能力に嫉妬した古典派の連中が虐めていたのを見かねて
改革派が初代聖女を育て、ものにしたから古典派の居場所が無くなって
散り散りになったというが、
見方によっては、下積みを嫌がった跳ねっ返りが宗旨変えして、
それを利用して改革派が権力を奪ったとも考えられるからな。」
「古典派から改革派に権力が移ったなら、古典派色を一掃したいでしょうが、
だからと言って廃棄しますかね?大事な呪文を。」
「じゃあ、考えてみろ。
俺が権力を奪われたからと言って、
調べて貯めて持っている呪文を、後の奴が使えない様に廃棄すると思うか?」
「…むしろ改革派に尻尾を振って呪文研究をするとか?」
「そんな所だろう。
だから大事な呪文を古典派が捨てた、
なんていう信用出来ない事を言ってる改革派なんて信用できないんだ。」
今日の上級呪文はスノーだった。
レインの雪版だ。
…真夏に雪を降らして良いの?
「積りはしないだろうから、
3回毎に広域ドライを唱える様にしろ。」
レインに比べると魔力が多く流れる気がする。
それでも40分間上級呪文を唱え続ける。
段々長くしているのは、
この実験自体が私の耐久試験を兼ねているのだろう。
「来週は魔獣討伐に出かける。
主武器のアイスランスを実戦で使える様にする訓練だ。
川を下って1日、馬車で移動して1日、
現地で2日、帰りの馬車で3日の行軍になる。
黒狼主体の魔獣狩りになるから、
着替えと装備を準備しておけ。」
また唐突に…
「王子の婚約者教育は休めるのですか?」
「魔法院から王家に休止申請をして受理された。
来週は移動と討伐に専念できる。」
「装備と言っても軽装しか持っていないのですが?」
「俺もローブに鉄板入りのブーツ位だ。
基本は距離をとって仕留めるから問題ない。」
「衣服と装備以外に用意するものはありますか?」
「移動の手段と宿泊地と食事は魔法院で手配するから
心配しなくて良い。
荷物は大きいトランク2個以内にしてくれ。」
討伐にそんな荷物は持ち込まないよ!
と思ったが、
現地の侯爵に挨拶するのでドレスを持って行く事になった。
…私のイメージする討伐と何か違う…
また恋愛小説から離れます。
説得力を持たせる為に必要な気がするんです。