1−47 下期の終わりとダンスパーティ(2)
漸く復活した赤毛は、エレノーラをダンスに誘った。
「ところでお嬢さん、一曲ご一緒頂けませんか?」
「ええ、喜んで。」
半眼で言うなよ、と赤毛は思ったが、
そんな彼女らしい姿に安心した。
それでこそだよ。
丁度ヱレノーラが上手く踊れない曲だったので、
これ幸いと何度も赤毛の足を踏もうとするが、
赤毛はダンスも上手く、さりげなくこちらの足を避けてステップを続けた。
一曲が終わって脇にそれた後、赤毛は尋ねた。
「ステップが乱れなかったか?」
「まだ修行が足りないの。」
武芸じゃないんだから修行じゃなくて練習と言えよ、
と心の中で突っ込む赤毛。
「無意識に正しいステップが踏めるまで頑張るんだな。」
と涼しく笑って去って行く赤毛。
意識して乱してんのよ、とエレノーラは心の中で突っ込んだ。
半分は本当に上手くステップが出来なかったのだが。
しばらくすると、コリン・カーライル伯爵子息と
デビット・マナーズ侯爵子息がやって来る。
失礼なことを言うのはコリン・カーライルだ。
「馬子にも衣装だな?」
「殿下と公爵子息は婉曲表現しましたよ?」
「言ってる中身が一緒なら一緒だろ。」
「相手で使い分けてれば良いですけど。」
「大丈夫、偉いさんには気を使ってるから。」
「なら良いですけど。」
「ところで、えらい厚塗りだけど、そういうのが趣味か?」
「そんな訳ないでしょ。
王家派遣のメイド達が別人にしてくれたんですよ。」
「正体がバレると困るのかな?
王家が。」
さすがに言い過ぎだと思ったデビットが止める。
「おいおい、四の五の言う程厚塗りじゃないだろ?
この位は皆やってるんだから。」
「なら、褒めてやれよ。」
「あー、品の良いドレスだな、
似合ってるよ。」
「ありがとうございます。
催促せずに似合うと言ってくれたのはデビット様だけですよ。」
「……」
二人共唖然としてしまった。
殿下も頼りない所があるが、
女性とはそつなく対応してると思っていただけに、
婚約者候補にそれはないだろう。
あと、赤毛もか。
あいつは微妙に言葉が足りない事があるからしょうがないか。
「よし、じゃあ殿下に成り代わって、俺がダンスの相手をしてやろう。」
コリンがフォローにならない発言をしたが、
まあ良いか、と連れられて行く。
…が、コリンはエレノーラ並にダンスが下手だった。
「痛っ、思いっきりぶつからないで下さい。」
「なら上手く避けろよ。
それなりに上手い女は避け方も上手いぞ。」
「10日も練習してないんだから無理言わないで下さい。」
「そうか、俺なんか3年以上練習してこれだぞ。」
「威張れませんって、またぶつからないで!」
「悪い、あ、ごめん、またぶつかった。」
1曲で8回もぶつかるな!
下級貴族やら、キャサリン・フィッツレイ公爵令嬢の周囲がせせら笑ってるよ。
まあ私は良いけど。
「コリン、お前酷いな…」
「相性が悪かったな。」
「下手くそ同士で相性も何もないでしょう…」
デビットもこれではエレノーラが可愛そうだと思ってくれたらしい。
「こいつに代わってマシなリードをするよ。
一曲相手をしてくれ。」
「足を踏んだらごめんなさいね。」
「まあ、そこは上手く避ける位には練習してるから任せろ。」
丁度スローな曲だったので余裕で話が出来た。
「しかし、急な話で大変だったな、婚約者候補の話は。」
「現実的には収まる所に収まるでしょうから、
あくまで名目的なものと思っていますので、
大変という事はないですけれどね。
良い教育が受けられると前向きに考えてます。」
「一応でも、殿下の婚約者とかには憧れないのか?」
「ふ、そういう人間だったら騎士見習いなんてやりませんよ。」
「それはそうか。」
「大変と言えば嫡男の方が大変でしょう?」
「これはそれこそ物心ついた時からだから慣れたさ。」
「そうは言ってもね、
領主らしく雄々しく剣を振らなきゃならないし?」
「まあ、得意な型がある方が楽とは言えるが。」
「でも、その型が崩された時の奥の手も磨かないといけないし?」
「ふ、敵わないな。」
本当に良く読めてるよな、エレノーラは。
朧げにでも努力を理解してもらえるのは
侯爵子息にとっても嬉しいことだった。
嫡男は努力して当然、
結果を出して当然と家の中では言われ続けていたから。
デビット・マナーズにとって、
エレノーラとまともに話したのは初めてだったが、
剣の授業中も相手を良く見て対応するエレノーラは
思っていた通りその辺りの貴族令嬢達より
よっぽどまともな人間だった。
このダンスパーティが終わるとアンジェラ・フィッツレイ公爵令嬢と
グレース・ゴードン侯爵令嬢はもう学院には来ない。
4人の婚約者候補が揃うのはこれが最初で最後だった。
少し遠出をしたので出先のショッピングモールに食事をする為に寄りました。
コロナ前に行った際には大穴子天が売りの天丼をやっている店が複数あったので、
穴子食べたいな、と思って。
ところが、行ってみると大穴子天はほとんどなくなっていて。
代わりにエビ天が売りの天丼が増えていました。
売れるものに手を出すのは分かるのですが、
猫も杓子も同じものを出すのはどうかと思いますね。
という事で、時間がなくて投稿前加筆が全然出来ませんでした。
明日の分もまだ完成してない…