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1−44 王子の婚約者候補(1)

ところが、すぐに学院の試験が始まる。

もちろん、全部が一夜漬けになる。

兎も角、紙の試験を終わらせる。

魔法実技の試験の対策も乗馬の実技試験対策ももうやる暇がない。

しっかり睡眠を取って、

実技試験の際に体調不良でミスをするのを無くすだけだ。


魔法の実技試験は二人の魔法実技の教官以外に、

魔法院から一人、更にもう一人が立ち会いの為に来ている。

後から魔法院で聞いたら、一人は貴族議会からの監視員だったらしい。


魔法院から来た人は見覚えがある。水魔法部の人間だ。

彼が始めにエレノーラを呼ぶ。

「お呼びでしょうか?」

「ああ、済まないが、模範実技として初級魔法10種を実演してくれ。」

「それなりに時間がかかりますが全部やってもよろしいのでしょうか?」

「まあ、時間をかけずにやってくれ。」

あのね、さりげなく全部やる必要があるのかと問うているのに、

有無を言わさずやれと言う事か。

ため息を隠して標的方向に向かう。

背筋を伸ばし、半身から右腕を標的に向け、

呪文を詠唱する。

傍目から見て、エレノーラの魔法を実演する姿は凛々しく、美しかった。

元々黒髪で端正な顔をしている彼女は、

真面目な顔をすると男子より凛々しく、

マリーが言う通り、

髪と目の色を除けばエレノーラより美しいと言える人物はこのクラスにはいなかった。

そんな彼女が魔法院仕込の呪文を朗々と唱えるだけで周囲を圧倒した。

魔法の威力よりその立ち居振る舞いの方が皆の印象に残った程だ。


ちなみに、乗馬の試験は馬が真面目に走ってくれた。

騎乗前に

「今日言う事を聞かなかったら噛み付くからね!」

と凄んだのが良かったらしい。

うん、ごめん。こういうのは今後無しにするから。


全試験の終了後、アーサー王子に呼び出される。

「魔導士試験の3属性合格おめでとう。

 それで、とても言いにくい事なんだが、

 …僕の婚約者候補として教育を受けてもらう事になった。」

また素が出てますよ。

「分かっております。

 以前、陛下からは私の縁談を王家で取りまとめて頂けるとの話を頂きましたが、

 まだ纏まらないところに魔法師としての商品価値が上がったので

 とりあえず確保する手段として婚約者候補の役を利用するという事ですよね。」

「それが第一だけどね。

 成績優秀者が魔法院入りを断れる理由は分かる?」

「…嫡男、ですか。」

「そう。

 王家も各貴族の家の存続には留意しないといけない。

 だからそれだけじゃなく、嫡男の婚約者も魔法院には入れられない。

 逆に言えば、そういう強硬策で有望な生徒を確保する事があるんだ。」

「伯爵家以下では上の貴族の誘いを断れませんからね。」

寄せ親がしっかりしてれば心配は不要なんだけどね、

とはアーサーは声に出さなかった。

こうなるとフィッツレイ家がキャサリンを放置しているのは困るんだ。

婚約者候補の家の人間が他の婚約者候補を貶める発言を続けているのは。

アーサーとの相性は兎も角、

アンジェラ・フィッツレイは最も有力な婚約者候補だから。

「只、それだけじゃない。

 魔法師枠で婚約者候補に入れろと要求する場合のレベルを上げてしまおうという

 狙いもある。」

…教会への牽制に私を使うと。

例の討伐時の広域浄化を聖女候補の成果と認めない王国側に対し、

まだ教会は聖女候補を婚約者に推しているのだろう。

そうなると凄い迷惑だけど、これはそれなりに危険な役目だから、

なんらか戦闘力を持つ者が適役という事だろう。


「それで、まず卒業記念ダンスパーティに参加してもらう必要がある。

 その際のドレスと、王城で教育を受ける場合のドレスも必要になる。

 急遽必要になるのは王室の責任なので、

 こちらで用意するが、

 採寸が必要なので、今日はこれから王城に来てもらいたいんだ。」

貧乏とはいえ伯爵家が王家にドレスを用意してもらうのは沽券に関わるのだが

…背に腹は変えられない。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、

 よろしくお願いします。」


その日はそのまま王子と共に王城へ行き、

採寸を行った。

ここまで用意してくれると言う事は、

王の手紙は覚悟しておけ、という予告であり、

上位貴族が動いた場合にこれを理由に断れという指示だったのだ。


「ダンスパーティまで2週間無いので、

 付け焼き刃でもダンスを覚えて貰わないといけない。

 明日から1時間ずつ学院で指導を受けてもらう。

 申し訳ないが時間の確保を頼むよ。」


採寸が終わるとアーサーが態々今後の予定を教えてくれた。

ドレスがまだ出来ないので制服で指導を受ければ良いと言う事だ。


「お気遣い頂きありがとうございます。」

「教師には現状は厳しい指導はしない様に依頼しておいた。

 それでも慣れない内は筋肉痛があると思う。

 申し訳ないが、一先ずダンスパーティまでは我慢して欲しい。」

「良い訓練になりますので、

 喜んで受けさせて頂きます。」


騎士的な運動能力の訓練と言う事だろうか、

君にはもうその未来は無いと確定しているんだが、とアーサーは思った。

だから、ごめんね、と心の中で呟いた。


本作、異世界魔法学院路線にも見えますが、

確かにそういうストーリーも平行しますが、

ちゃんと乙女ゲー風学院ものなんです。

転生はないけどね。

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