1−42 魔法院(8)
魔導士試験が終わったら、今度は本を餌に土曜に出席させるんだね、
と思っていたのだけれど、
それどころか風魔法でも魔導士試験を受けろと言い出した。
しかも2週間後だと言う。
え、いくら何でも無理じゃない?
しかしランディー曰く、
魔法理論の内、一般理論は水魔導士の試験で合格済の為、
免除になるとの事。
残りの風魔法専門理論の半時間の試験だけだ。
それなら2週間で何とかなる?
風魔法は水魔法程、回数をこなしていないんで不安だけど…
木曜には土魔法でも魔導士試験を受けろと言われた。
風魔導士試験の2週間後と言うから6月第1週になる。
「6月初旬なんて魔法学院の下期の試験と重なるじゃないですか!
絶対に無理!
せめて1週間前倒しにして下さい。」
土魔法の教官であるデニス・レイランドは困った顔をしている。
彼には予定を修正する権限が無いのだろう。
これはランディーと交渉して上司に談判してもらうしかないか、
と判断して二人で水魔法部内のランディーの下に向かう。
「土魔法でも魔導士試験を受けるという話になっている様なのですが、
6月第一週の土曜に試験をするとの事で、
魔法学院の下期試験の6月初旬とぶつかってしまいます。
共倒れに成り兼ねないので風魔導士試験の次週の5月最終土曜にしたいのです。
上司の方と交渉して下さい。」
「しかし、もう水魔導士資格を取っている以上、
学院の成績に関係なく魔法院への就職がほぼ決まっている。
学院の方は後回しで良いのではないか?」
「だって上期みたいな成績表をもう祖母には見せられません。
学生なんだから魔法以外の学問も大切だと思うんです。」
ランディーにとっては
魔法師なんだから魔法以外そこまで気にしなくても良いのではないか、
と思うのだが、
よく見るとエレノーラの瞼が熱を帯び始めており、
瞳に貯まる水が微妙に増えていた。
彼は女心などには全く配慮しない男だったが、
優秀な水魔法師なだけに人間の体調変化には敏感だった。
あ、まずい。
「分かった。それは交渉するが、
風魔導士試験の1週間後に土魔導士試験では、
準備期間が足りないのではないか?」
もう堰を切って濁流が流れる様な精神状態のエレノーラである。
普通なら思案し、配慮し、言わないと判断する様な言葉も口を出てしまう。
「これから3週間は水魔法の指導を一時停止して、
風魔法と土魔法に専念させて下さい。
例えば月様と土曜を風魔法の指導に、
火曜と木曜を土魔法の指導にしてもらえないでしょうか。」
精神状態が堰を切っているという事は、
他の場所も堰を切る寸前という事だ。
そこはランディーにも見て取れる場所だった。
もうちょっと我慢しろよ、13才にもなっているんだから。
「分かった。
取り敢えず土曜は風魔法の指導に使おう。
月火については我々で調整して土曜に指示する。」
「ありがとうございますっ。」
笑顔で勢いよく頭を下げるエレノーラの瞳からぽろりと涙が溢れる。
また俺が泣かせたみたいな噂が流れるじゃないか、
とランディーは思った。
3属性の魔導士試験の受験を主導しているのはランディーだったので、
その通りランディーが泣かせているのだが。
魔法院上層部も宰相も、本件は無茶だと思っていたが
魔法学院改革の為にはこれ以上ないデモンストレーションなので許可したのだ。
と言う事で、
月曜・土曜は風魔法の理論指導と実技指導、
火曜・木曜は土魔法の理論指導と実技指導となり、
並行して魔導士試験対策を進めていく事になった。
風魔法は元々ランディーが容赦せずに指導していたので
実際は復習主体だったのでまだ良かったが、
土魔法の教官役のデニスは学院1年生にはそれ相応の指導をしていたので、
理論、実技共に詰め込み指導になってしまった。
新たに指導した部分は当然睡眠を削って覚えるしかない。
こうして、5月第3土曜の風魔導士試験までは問題なく終了した。
下期は7月初旬に卒業式と終業式を行い、
翌日、卒業記念ダンスパーティを行います。
という事で、
夏休み前に魔導士試験を終わらせたい訳です。
ランディーは。
理由はお察しですね。
でも、波風立っちゃうんです。
ざば〜ん。