1−39 魔法院(6)
そういう訳で、
土曜に魔法詠唱実験にて扱った呪文は指導終了という事になった。
魔法院に来るようになって3週目には10の中級魔法の指導が終わった。
というか、10番目は武器への魔法付与だったので、
呪文詠唱の細かい指導だけで発動は全く問題なかった。
その前の9番目がアイスランスである。
魔法発動に苦労した、というより、
ランディーの細かい詠唱指示を再現するのに苦労したという感想だった。
指示に正しく対応できれば、アイスランスも苦労しないのである。
家庭教師制の効果の恐ろしさが身に染みた。
では、学院の魔法指導はどうすべきか。
初級魔法は一つ一ヶ月未満で身に付けないといけないが、
中級魔法は上期下期にそれぞれ試験前に3ヶ月の授業がある。
一クラス50人に一回ずつ直接指導をしてくれても良いのではないか。
ただし、4属性の指導ができるなら、となる。
2組は実技に二人の教師が付いていた。
普通に考えれば二属性しか指導できない。
…元々カリキュラムに対し人員が足りないじゃないか!
但し、学院が十分な指導力を持つと家庭教師達の多くが失業しかねない。
学院カリキュラムに問題があっても改善されないのにはそういう背景があるのだろう。
問題を認識しているのかも分からないが。
多分、学院批判を聞かされてもランディーにとっては迷惑だろう。
この思いは誰に相談する事もできずに胸に収めておくしかなかった。
そんなエレノーラの胸中を察することもなく、
ランディーは宣言した。
「5月始めに魔導士試験を受けてもらう。
もう指導が完了した以上、鉄は熱い内に打ちたい。
今後の指導予定としては、月曜は理論講義を行い、
土曜は実技指導代わりに実験を手伝ってもらう。」
「…すいません、魔導士試験はどの様な試験なのでしょうか。」
さすがに魔導士試験なんてものが
自分に関わってくるとは思っていなかったので、
エレノーラには魔導士試験の知識がなかった。
「初日に1時間の魔法理論試験がある。
理論試験後にその日の内に10種の魔法実技試験を行い、
翌日残りの10種の魔法実技試験を行う。
初級と中級合計20種類を全部試験官の前で披露する必要があるが、
その順序は好きにして良い。
普通は初級5種と中級5種に分けて行う。
中級魔法を10連発するのは普通の魔法師には難しいからな。
但し、お前の場合は魔法継続力に全く問題がないから、
1日で20種類やってしまえば1日で試験は終わるだろう。」
なんで2日にかけてやって良いことを1日でやらないといけないの?
「そういう事で、5月の第1土曜の午後に試験をやる。
試験の2時間と演習場への移動時間で試験は終わるだろうから
時間は気にする必要はない。」
うん、学院を休まなくても試験が終わるなら問題ない…
って問題じゃない!
「その、理論試験にはどの程度の知識が必要なんでしょうか?
実技も合格レベルというのが分からないのですが。」
「だから理論試験対策としての講義はこれから毎月曜に行う。
実技はお前の魔法の威力で不合格にする理由はないから安心しろ。」
いや、そりゃあ魔法がちゃんと発動すれば威力はあるでしょうよ。
他人より水量が多い事は良く分かったから。
その水量で度々決壊してたんだけど。
「安心しろ、土曜の実験で10の中級魔法を扱ってやる。
それで微妙な制御も身に付けられるだろう。」
うわ、もう土曜の実験が断れない様になってるよ。
エレノーラは土曜の魔法詠唱実験に参加する理由付けか、
という程度に魔導士試験の事を考えていたが、
実際にはもっと過酷な事をランディーは考えていた。
つまり、只の学生では無理でも、
魔導士資格がある者なのだから上級魔法の詠唱実験が可能だろう、
と言い訳が出来るという訳だ。
当然上級魔法を連発出来る様な者は魔法院でも限られていた。
ランディーは上級魔法の呪文研究にエレノーラを巻き込むつもりだったのだ。
明日の投稿はそれなりに文字数ありますので、
今日はこの辺で。