1−37 余談 ランディーってこんな人、対してエレノーラは
ランディー・アストレイは幼少時に
「何で?どうして?」
を連発するタイプの子供だった。
子供達の教育を担当する子爵夫人に言う事を聞かない子とみなされ真っ先に嫌われ、
しかも3男だったので、侍女と家庭教師に教育は丸投げされた。
ところが夫人のランディーに対する扱いがそんなだったから、
侍女は躾の教育を実質放棄した。
優先順位の低い仕事と判断したのだ。
家庭教師は教えた事の根拠が答えられないとランディーに罵倒された。
ランディー本人は罵倒しているという自覚はないが、
「根拠も知らずに人にものを教えているつもりか!?
お前は鸚鵡か!?」
と6歳児に言われて罵倒されたと思わない人間はいるだろうか。
そうして次々と家庭教師が辞めてゆき、
10人が去ったところでランディーは言い方を変えた。
「分かった。
それを最初に誰が言ったかだけ教えろ。
後は俺が自分で調べる。」
そういう訳で彼は益々人の言う事を信じず、
自分で調べる人間になった。
家庭教師、侍女はランディーがその様な状況なのは
自分達の責任とは思わなかったから
夫人への報告はランディーが悪いという内容ばかりであり、
夫人もそんな子供に接して確かめる気はなかったから、
ランディーに関する夫人から子爵への報告は最悪だった。
母親がそんなだったから、兄弟のランディーへの当たりも悪かった。
そんなランディーの転機は9才の時だった。
自然科学の専門書、同じく実験手順書を手に入れたランディーは、
実験器具と実験用の小屋を要求した。
これを聞いて家内のランディー評に疑念を抱いた子爵が本人と話し、
この優れた資質を凡人達が潰しかけている事に気づき、
以後夫人にも子供達にもランディーの学習についての一切の発言を禁じた。
家庭の外でも、である。
そして科学の家庭教師を付け、
一緒に実験をやりながら結果を討論し、結論付ける事を厳命した。
領主などには絶対向かないが、将来人々の為になる研究をしてくれると
子爵はランディーの将来を夢見たが、
不幸な事にランディーには人一倍の水魔法の才能があった。
それが判明した後、
ランディーは自然科学から魔法科学へと専門分野を変える事になった。
そういう人物だから、
ランディーの信念は
「他人の事は分からない」
「他人の言葉は信用できない」
「実証した事実だけが真実だ」
となった。
だからエレノーラと初めて会った時、
泣こうがへたりこもうが言葉をかける事はなかった。
思いやっている訳ではなく、
どうせお互い他人のことは本当には分からない、
と思っていたからだ。
但し、自分がやってきた事を泣きたい位後悔できる奴は、
自分同様に精一杯努力をした奴だろう、と想像したから、
「努力を恥じるな」
の言葉をかけたのだ。
その努力を否定するのは、自分の人生を否定するのと同じだと思ったのだ。
そして、こうも泣き虫な奴には、褒めて伸ばす方針が良いだろう、
とこの男にしては優しい事を考えたのだ。
それに対してエレノーラは、そこまで実際主義ではなかった。
時間が短縮できるなら他人のやり方を真似るのに躊躇しなかった。
所詮は野山で花鳥を愛でていれば満足な田舎娘なのだ。
そんな彼女の今一番の問題は、
一読して理解できる筈がない専門書を1日で100頁読むという問題だった。
要点を書き出して後から調べるのが良いのだろうが、
どう見ても殆んど分からない内容ばかりだった。
しょうがないから彼女はガラス板とインクと紙を用意した。
この時代のガラスは品質が悪く、強風で割れる事もあったから
貴族の屋敷ではスペアのガラス板を用意していたのだ。
で、本の頁を開いた状態でガラス板を乗せ、
その上にインクの蚯蚓をのたうち回らせた。
本の文字の上にインクを重ねたのだ。
そのままインクを紙に移動させ、複写する事にしたのだ。
最初は半分以上がずれてしまい読めなかったが、
10回もやればそれなりに読める様になった。
そのまま100頁も複写すれば大体要領が掴めた。
但し、繊細なコントロールが必要だから精神的に疲れたし、
呪文を使用しないから魔法力の消費も大きかった。
100頁で頭が痛くなってきたので止める事にした。
でも、この調子なら4週で400頁の複写は出来る。
という事でエレノーラは満足した。
本当のゴールは400頁を理解する事だったが、
彼女は目先の課題に囚われやすい人間だった。
本日2回目の投稿です。
今回含め3話が短めだったので、
本日は2回投稿にしました。
あらすじに「インテリお兄さん」と追加してからアクセスが多いので、
今回投稿はランディーありがとう回です。