1−36 魔法院(5)
土曜の魔法実技の授業は、もう初級10魔法の復習の場である。
一つ一つ呪文のアクセントや魔法操作を微調整して
正確性、速度、魔法力使用の節約等を考えながら練習を続ける。
元々月木の魔法院通いの予定が月火木通いとなってしまい、
祖母からは今後金曜は礼儀作法について
家庭教師の指導を受ける様にと言われている。
空いている水曜には中級魔法と風・土魔法を練習しなければいけないから、
水魔法の初級魔法は授業で習熟度を上げていくしかない。
元々真面目なエレノーラであるが、
ここに来て真剣度が違ってきている。
下位貴族の子女達も初級魔法の後半を家庭教師に習っているのだが、
それだけに最後に習うウォーターランスの威力の差に圧倒された。
いや、それもう違う魔法だろう、と。
そんな威力のある魔法の数々を時間一杯練習を続けるエレノーラは
早々に魔法機関のオーバーヒートを恐れて練習を止める下位貴族の子女とは
別格である事は明らかだった。
結局、その日の昼は学院の食堂で食べた。
スタンリー家の馬車はその後に来て、
魔法院の図書室で調べものをした後にタウンハウスに帰る事にしたのだ。
魔法院の図書室は3階層に渡っており、
エレノーラは聴講生の資格で入室が可能な第1階層しか入室出来なかった。
それでも、学院の図書室とは異なる圧倒的なオーラを放つ蔵書に感動した。
つまり厚みのある、風格のある背表紙が並んでいるのだ。
案内板に従い、魔法理論概論の本が並んでいる本棚を探す。
何頁か捲って、目当ての単語がありそうな本を探していたが、
どうやら参考になりそうな本を見繕って、
テーブルでページを捲り始めた頃、
何故かランディー・アストレイが姿を現した。
「何をしている?」
「……学院の本では教わっている事を網羅していないもので、
こちらに参考になる本がないかと調べていたんです。」
その、心静かに調べものをしたいのですが、と態度で示した筈なのだが、
人間には空気を読む能力というものは無い、と信じて行動する人はいるものだ。
あんたそれでも風魔法使いか!?
「それなら、後で俺が借りてやる。
ちょっと手伝え。」
借りて読めるならそれに越した事はないか…
心の準備が出来ずに予定を変更するのは抵抗があったが、
仕方ないので付いて行く事にする。
演習場で4人が待っている現場に着いた。
「中級魔法の呪文を一部変更した場合の効果を調べている。
同じ呪文を10回唱えたら、次の変更呪文を唱えてくれ。
威力と精度はこちらで確認する。
発動した際の魔法力の消耗や制御のし易さなどの感想を聞かせてくれ。」
呪文が書かれた紙を保持するスタンドの横に立ち、
標的に向けて右手を伸ばす。
「もっと背を真っ直ぐ伸ばせ。
体は半身に標的に向けて、首は標的に向け、
右手は真っ直ぐ標的に向けろ。
左腕は体の横に付けろ。
姿勢で効果が変わらない様に一定の体勢で詠唱するんだ。」
…細かいよ!
これで約半時間。
呪文が変わる度に体感効果を訊かれる。
確かに魔法力の消費が異なる気がする。
違う呪文の紙に交換されて、再び半時間詠唱を繰り返す。
時々喉を潤すことは許されたとは言え、
喉が疲れたよ。
「これで終了だ。よくやってくれた。」
観測係だったと思われる4人が片付けを始める中、
ランディーがエレノーラを図書室に連れて行く。
「片付けを手伝わなくて良いんですか?」
「まさか学院生に片付けを手伝わせる程、
連中も鬼ではないだろう。」
呪文詠唱実験を手伝わせて1時間詠唱させるのは鬼じゃないんだね…
図書室では、先程読もうとしていた本の近くにある、
より薄い本を勧められる。
それでも400頁越えの中々の重さだった。
「とりあえずこれを読んでみろ。
月曜に持ってきて返すんだ。
日曜1日だけでは1/4も読めないだろうが、
来週また借りてやるから土曜に来い。」
うん、これを餌に毎週魔法詠唱実験を手伝わせるつもりなんだね…
こちらも本を借りられるメリットがある為、
断れないね…
この日の実験状況を受けて、
月曜にはエレノーラが土曜の学院授業での魔法実習に加えて
魔法詠唱実験で1時間魔法を発動させても体調に問題なかった事が報告され、
土曜の魔法詠唱実験での1時間の魔法連続発動が許可される事になった。
本人の意思の確認は全くなく、
ランディーの独断だった。
前話も文字が少なめ、
今回も文字が少なめ、
次回も文字が少なめなので、
ニコイチにしようかとも思ったのだけど、
話しの間というか、そういうものが駄目になる気がして、
出来ませんでした。
なので、本日は2回更新予定です。
22時台も良かったら見て下さいね。