1−34 魔法院(3) (含む 火曜の魔法学院)
火曜日1時間目は各クラスに教師の代わりに騎士4人がやって来た。
紙を渡され、質問に回答する様に言われた。
1.魔法理論の授業で今まで質疑応答があったか。
2.魔法実技の授業で今まで指導を受けた事があるか。
3.パルテナ語(外国語)の授業で今まで質疑応答があったか。
等々の質問回答を記入し、
騎士達が回収していった。
どうやら月曜に生徒が休みの間に何やら教師から聞き取りが行われ、
それに対して生徒から聞き取りをやる代わりに質問回答を集計しようと言う事らしい。
裏を取る、という事だ。
下級貴族の子供達はタウンハウスで親から月曜の捜査内容を聞いていたが、
渦中のエレノーラが2組には居るので口外出来ないでいるのだ。
だから、2組の寮生は学院で何が起こっているのか分からない者も多かった。
2時間目以降は通常の授業だった。
この日の午後には魔法実技の授業があり、
エレノーラは一心不乱に10の初級魔法を次々と練習した。
何せもうこれらの指導は終わりと言われていた。
後は学院で練習を続けて精度、速度、あるいは消費魔法力の削減などの向上を図るのだ。
教師や他の生徒達は渦中のエレノーラの能力を確認しようとチラ見していたが、
本人は夢中であり全く気が付かなかった。
その次には乗馬の授業があった。
エレノーラは乗馬の授業で殆んど男ばかりの他の生徒と話す事はほぼないのだが、
赤毛のポール・サマーズ公爵子息が遠慮がちに話しかけてきた。
いつも余裕の顔をしている癖に、何これ。
「ちょっといいか?」
「話によりますが?」
「大丈夫、お茶に誘おうとかそういうんじゃない。」
「あら、冷たい。」
「ああ、前置きが長くてすまん。
お前は先週の活躍のおかげで、噂の女になってるって気づいているか?」
「......男扱いされてると思ってましたが。」
「防具を着けずに武器を持ってなければ女だと思ってるよ。」
「...その言い草で喜ぶ女がいると思います?」
「さあな、俺はとりあえずお茶には誘わないが、
他に誘う男がいるかもしれない。
そいつにはそういう下心があるという事だけは覚えておけよ。」
「普通の下心はないんですね?」
「さあな?とりあえず気を付けろよ。」
返事も待たずに赤毛は去っていった。
ほぉ〜、女と思って無くても魔法師として評価が高くなれば待遇が変わるんだ。
何か、凄くイラッとした。
乗馬の授業が終わり、寮に帰って軽く汗を拭いてから馬車乗り場へ急ぐ。
魔法院に行く為だ。
魔法院でアマンダは離れた部屋を予約してくれたらしい。
この間ランディーの講義を受けた場所とは違う部屋だ。
「それで、何から聞きたいの?」
「魔法子の基礎的な事について。
学院の図書室にある本では簡単な事しか書いて無くて。」
アマンダとしては、図書室にある本の内容で学院生の間は十分だと思っているが、
何せあのランディーの講義を受けているのである。
そんな解説を求められても大した話はできないな、と思っていた。
そこへランディーがやって来る。
何この男、私には全く興味がない癖に、この娘の臭いでも覚えてるの?
「何をやってるんだ?」
「あなたの講義が難しいから補習をして欲しいって言われたのよ。」
「それならその都度、俺に訊け。暇があるなら風魔法の指導がしたい。
ついて来い。」
え、とエレノーラがアマンダを見るが、
アマンダとしてはエレノーラに要求される解説は出来そうになかったし、
ランディーと言い争って勝つ自信もなかったので、
視線を逸らして右手を小さく振った。
エレノーラとしては恨めしい顔をしながらランディーについて行くしかなかった。
こちらは当然部屋を用意している訳ではないので、
演習場の端で黒板を持ち出して板書していく。
「水魔法の場合は空気中の水分を抽出して利用するが、
風魔法の場合は空気自体を利用する。
火魔法は空気を加熱して発火させるが、
その様な温度変化は風魔法では発生しない。
純粋に動かすだけだ。
但し、地表付近では大気の圧力がかかり、
それは動かそうとする空気全体にかかっている。
それは水魔法も同じなのだが、
水魔法の方が重力の影響が大きく
空気の方が重力の影響が少なくなる。
よって水魔法の様に塊を動かそうとするより
大気圧の差を利用して風を起こす方が発動しやすい。
その感覚自体はもうお前は知っているのだから、
まず俺が発動させるのを見て真似するのが早いだろう。」
...風魔法の感覚と言われると胸が痛む。
それを水魔法の感覚と思っていたんだから。
風魔法の最初の呪文はブロウだ。
そのブロウの呪文を板書した後、唱えるランディー。
右手の先から風が発生する。
...確かにこの感じはよく分かる。
「やってみろ。」
言われた通り唱えてみる。
右手の先に慣れた感覚を覚え、それを向こう側に押し出す。
一回目から問題なく発動する。
続いて逆にこちらに向けて風を起こすバキュームを教えられる。
問題なく発動する。
風魔法の5つの初期魔法全てが問題なく発動する。
細かい発音と詠唱のリズムの指導を受けながら繰り返す。
水魔法であんなに苦労したのと対照的だ。
水魔法師なのに...
「風を起こし過ぎて制御困難という事はない様だな。
やはり風は第2属性以下という事なのだろう。
俺も風は第2属性の為、水魔法程の威力はないからな。」
私の第1属性は水、第2属性は土!
と断言したいけど、第2属性が風のランディーが機嫌が悪くなるかもしれないから
黙っておく。
「第1属性と第2属性は、
1日に使用出来る時間は合計して1時間になるのでしょうか?」
「普通はそうした方が良いが、魔法院に入る様な奴は個人差がある。
俺なら第1属性のみで1時間半ほど連続使用しても問題ないのは
確認済だ。
演習時に1時間以上断続的に魔法を使用していたお前なら
間に時間を空ければ1時間に加えて1時間の合計2時間位、
使用可能なんじゃないのか?」
「あまり無茶はしたくないのですが...」
「いずれ様子を見ながら確認してみよう。」
度々色々気を使って頂いてありがとうございます。
エレノーラはランディーの態度を好意的に見ているが、
この男はもっと自分本位の男である。
(魔法行使力が強く魔法継続力も強いなら、
早く戦力化して呪文研究の詠唱係に使わないと勿体ないだろう。
今詠唱係をしている連中は半時間で音を上げる奴ばかりだし。
土曜の午後に二人がかりでないと1時間の連続詠唱ができないで
時間外勤務手当も必要になっているが、
こいつにやらせればそれも節約できるから上層部も文句ないだろう。
問題はどうやって土曜にこいつを魔法院に来させるかだが...
俺が魔法院蔵書を借りてお前に又貸ししてやるから来い、
って言って来るのは俺みたいな奴だけだな。
策は考えないとな。)
まだ魔法院に就職していない学院生徒を酷使する気満々な、
中々の人でなしであった。
事故の報道があり、2024年を危ぶむ声もありますが、
どうしようもない災害はさておき、
安全は経験の積み重ねとかけたコストで確保できるものと信じております。
とりあえず原因究明を待ちたいところです。