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1−30 謁見

その日の午後は早い内に寮へ帰った。

色んな魔獣の臭いが装備と体に染み付いていたから、

兎も角入浴をした。

昼食はタイミングが悪く抜きだったから、夕食を心待ちにしながら横になったが、

気づかぬ内に疲労が溜まっていたのだろう。

目が覚めたのは、翌日の早朝に寮監婦人のドアを叩く音を聞いた時だった。

「おはようございます。何か御用ですか?」

「何かじゃないわよ、昨日は大変だったのよ。

 お家から馬車が来て、家に呼び出しがあったのに、

 全然返事がないんだから。」

「すいません、ぐっすり寝てました。」

「それで、早朝に馬車が来るから乗って家に行く様に、

 との事だから、準備をしておいてね。」

「えーと、学院は休んで良いとの話だったんですか?」

「手紙があるから読んでおきなさい。」

「分かりました。学院の教師への連絡はお願いできますか?」

「ええ、お家からの手紙をもらってあるから、

 それを提出しておきます。」

「ありがとうございます。」


手紙には、午後一番に王城への呼び出しがあるとの事だった。

昨日の事か...

教会への疑念とか聞かれたらどうしよう。

下手な事を口に出したくないよ。

とりあえず朝食前に迎えが来た為、

タウンハウスで朝食を食べる事になった。


朝食中なのにお祖母様が話を聞きたがって仕方がない。

「びっくりしたよ、中級魔獣が出たんだって?

 しかもあんたが活躍したって話だからさ、

 びっくりしたのよ。」

びっくりしたのは良く分かりました。

でもね、その話って食欲無くなる内容なんだよ。

「あー、うん、詳細は食事中だから避けるけど、

 瘴気が臭うから気になってたら、強めの魔獣の気配がしたから、

 護衛の騎士達を手伝った位だよ。」

「それでどうなの?

 何が出てどうやって倒したのさ。」

「うん、詳細は後にしようね。

 昨日は汚れて気持ち悪くて入浴してそのまま寝ちゃった位だから。

 本当に話は食後にしようね。」

父親は眉に深い皺を刻んで黙って食事をしていた。


まあ王城に行って偉いさんに訊かれるんなら、

祖母にも父にも説明する必要はあるのだから、

一通り説明をした。

岩蜥蜴の件は父親も腑に落ちないでいた。

スタンリー領の騎士なら誰でもその生態はよく知っていたからだ。

「外部から連れてきた、そんな力は多分闇魔法しかないだろうが...」

大熊を6人で倒した下りは祖母も絶句していた。

魔獣の体内を凍らせる、それは魔法の常識を逸脱していたからだ。


王城に向かった一行は、

迎えの侍従に従い、公式な謁見というよりは私的な謁見の間に通された。


さて、国王ジョージは陰では凡庸な男と言われていた。

魔法学院入学前は同い年のいとこにも、2つ下の弟王子にも学業で負けていると言われた。

剣の授業でも乗馬でもいとこに勝った事はない。

但し、「持っている男」と言われていた。

結局、魔法学院3年の成績ではいとこに勝ち、

弟王子の3年の成績は兄に届かなかった。

在学中にちゃっかり温厚な美少女を落としていたし、

王太子期間中にも大きな失敗はなかった。

つまり実力以上の結果を幸運にも残してきた、と言われているのである。


そんな国王との謁見にて、許しを得て頭を上げたエレノーラは、

先程から得も言われぬ圧迫感を感じていた。

王は人当たりの良い笑顔を浮かべているのだが。

有り体に言えば、胡散臭いと思っていた。

「ジェイムス殿、この度はご息女の活躍により我が子の危機を救って貰い、

 本当に感謝している。」

スタンリー伯ジェイムスに対し、国王ジョージは常に親愛の情を示していた。

エレノーラの祖父ヒューゴーが早くして亡くなり、

苦労を続けるジェイムスをその態度で守ってくれているのだ。

「もったいないお言葉、誠に恐縮にございます。」

「母君も自慢の孫の活躍にさぞ鼻が高かろう。」

「色々至らない孫でございます。せめてこの様な時に陛下のご恩に報いられて、

 本当に安心しております。」

お祖母様まで畏まってるのも無理はないけど、似合わないね。

そして、国王ジョージの視線がこちらに向く。

この震えが気取られないと良いけど...

「エレノーラ嬢も息子と同い年ながら色々優秀と聞いている。

 此度の働き、本当に感謝しているよ。」

親し気に言っているが、それならもっと素直に接して欲しい。

そういう風に感じているから感じるだけかもしれないけど、

腹の探り合いをしている様にしか感じない。

「未熟者が出来ることのみ行っただけにございます。

 すべては指揮を取った隊長と、その指示に従った騎士様達の功績と考えます。」

もう本当に何もいらないから早く帰りたい。

王はにっこり笑った。止めて、本当に涙が出てきそう。早くお家に帰りたい。

「中々に麗しいお嬢さんだ。ぜひ王家で縁談を整えさせて欲しいね。」

ぎゃー!止めて!本当に王家絡みの縁談で縛られたくないー!

もちろん、ここは断る事など出来ないのだけど。

「お心のままに。父とお話し頂きたく思います。」

王は満面の笑みを浮かべた。ひぃー、止めて怖すぎる!

ここで王は控えていた侍従に視線を向ける。

その侍従が褒美について告げる。

「後ほどスタンリー伯爵には報奨を、ご息女にも別途報奨を用意しております。

 また、別途魔法院がご息女と話をしたいとの事、

 そちらのお話は別に席を用意してあります。」

報奨とセットで魔法院に縛るのね。素敵。涙が出ちゃう。


控室で3人だけになった所で、マチルダが口を開いた。

「縁談の話が出るとはね...本気で縛りに来た訳だ。」

「ありがたい話なので受けるしかありませんが。

 いきなりそこまで話が行くとは思っていませんでした。」

エレノーラは気になっていた事があった。

「麗しいお嬢さん、って言われたけど、嫌味?」

祖母も父もびっくりした。

「とんでもない事を言うんじゃないよ!」

「そうだ。王の言葉を疑うなど以ての外だ。」

「だって、今まで外見を褒められた事なんて一度もないよ。」

これこそ二人を絶句させた。

再起動したのはマチルダだった。

「何を言うんだい。孫の中で一番亡くなったあの人に似ているのはあんただよ。

 あの人は若い頃、色男としてそれは有名だったんだからね。」

いや、孫娘に爺さんに似てるっていうの褒め言葉だと思ってる?

お祖母様にとっては最高の褒め言葉かもしれないけど。

さすがに父親もフォローのしようがない言葉だった。


別途魔法院の人間と会い、翌々日の登院を約束した。

明日は魔法実技があるため、魔法院の調査には不適切だと判断したのだ。

城から帰り、タウンハウスからエレノーラを送り出した後、

マチルダが息子を叱責していた。


「女の子に外見を褒められたことがない、って言わせたら親失格だって、

 分かってるかい?」

「はあ、すみません。何分、娘と接する事が少なかったので。」

実態は両親共に娘と話した事は、少ないどころかほぼない。

乳母とメイドに世話を全て任せていたのだ。

「貴族だとて子育てになんらか関わる女の子には、

 外見はともかく可愛い可愛い、って可愛がってあげないと、

 親になった時に子を可愛がる事を知らない母親になるんだよ。

 一人を大切にしないことで、何世代も子供が不幸になるんだよ。」

「返す言葉もありません。」

「あの子はまだ良い。多分乳母が良くやってくれたんだろう。

 口は悪いが思いやりのある子には育ってるからね。

 ただ、次男のジョシュアが問題だよ。

 あいつは本当に人と話さない奴だったけど、

 家でも親と話してないんだろ?」

「ええ、ジョシュアともあまり話していません。」

こりゃ、あまりどころか全然だね、とマチルダは苛ついた。

「いくら領地経営を頑張っても、子供が問題を起こせば全部台無しになるんだよ。

 エレノーラが良い子だったのは本当に幸運だったよ。

 それこそ大事件を起こせる力があるんだからね。

 ジョシュアだって魔法が使えるし、男なんて生きてるだけで問題を起こせるんだ。

 ちゃんと話をしなさい。

 将来を考えない人間は刹那的な感情で問題を起こしやすいからね。」

「はい、戻ったらすぐに話します。」

「嫁にもちゃんと話して、親子の会話を少しでも増やすんだよ。」

「はい。」


その後、家への報奨は半分はエレノーラの花嫁教育に使う事、

エレノーラへの報奨はエレノーラの結婚資金に貯めておく事を決めた。


マチルダは王都でのスタンリー家の社交に専念していたとは言え、

改めて息子夫婦に子育てを任せていたのは失敗だったと思い知らされる一件となった。

エレノーラの行儀作法はれっきとした家庭教師を付けないといけない、

とマチルダは決心した。


笑顔が売りの政治家の事を

「あの人、優しそう」

なんて言う中高年女性がいましたね。

いい年して男に幻想を抱くのは止した方が良いと思いました。


ところで、某万能聖女がアニメ化された時、

一番ショックだったのは

......一番はざまあを薄める演出ですが、

次にショックだったのは王様があんな外観だった事です。

色気、とかいう人だった筈だから、

もっとダンディな、

女を口説く時に下心だだ漏れな男をイメージしてたんです。


ちなみに、ジョージ王は浜松のご当地キャラ、

をリアル化したみたいなイメージです。

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