1−25 下級魔獣討伐演習(2)
アーサー王子と共に歩き始めたのだが、
10分も歩くとやはり空気が淀んでいる。
ギルバート・フレッチャーが声をかけてくる。
「どうした?何か心配事か?」
眉をひそめ気味のエレノーラが気になった様だ。
「臭う気がして...」
「俺は屁をしてないぞ?」
「そういう事じゃなくて、瘴気が濃い様な気がして。」
「瘴気?分かるのか?」
「多少は...」
「下級魔獣がいるから、そのせいじゃないか?」
「下級魔獣位では、こんなに瘴気が濃くないと思うんですよ。」
横で聞いていたアーサーも話の内容が気になる様で、二人を見ている。
「気になるなら、騎士と話してみたらどうか?」
と声をかけてきた。
本来は中隊長だが、この班の前方で護衛の指揮を取っているニール・レイランドの元に
ギルバートとエレノーラが近寄って話かける。
「隊長、エレノーラが瘴気が濃いんじゃないかと言っているんですが。」
「瘴気?濃い場合は呼吸が困難になる事はあるが、そんな事はないだろう?」
「初級魔獣の生息地にしては濃い様な気がして。」
「そこまでは感じないが、気をつけておこう。忠告感謝する。」
ニールも騎士として討伐に多く参加していて、
確かに上級魔獣がいる様な場所では息苦しさを感じた事はあった。
だが、現在この場所でそこまで感じる事はないから、
女生徒が過敏になっているのではないか、と大して気にしなかった。
一方でエレノーラは、むしろ出発地点側にも魔獣の気配を感じていたが、
既に最初の相談を流されている後だけに言い出せずにいた。
そして王子の班の出発後20分ほど経過した頃、
出発地点にいた騎士達の前に黒狼の群れが到達していた。
黒狼は狼より少し大きい魔獣で、中級魔獣に分類された。
黒狼の小集団は4〜6匹で行動するが、
今回は30匹以上の大集団だった。
普通騎士団では黒狼の小さな群れに1個小隊8人で対処するので、
スタート地点にいた5個小隊で一応対処できる数ではあった。
但し、騎士達に心の準備が出来ていれば、の話だった。
「ええっ、何でこんな所に狼が!?」
「逃げないといけないんじゃないのか!?」
生徒や教師達が取り乱す中、騎士達は黒狼を押し留めるだけで精一杯だった。
なにせすぐ後ろに何をしでかすか分からない状態の護衛対象がいるのだから。
迅速にこの群れを排除して王子達と連絡を取るのが
本来この場所にいる部隊がやるべき行動だったが、
この群れを制圧するのに30分ほどかかった。
「第4小隊は先行する殿下の班と連絡を取れ!」
とこの地の指揮を取る隊長が指示するころ、
更に押し寄せた第2派の為、
王子達との連絡員が出発できたのはさらに30分ほど経った後だったし、
その連絡部隊は既に疲労困憊して、行軍の速度は遅かった。
その上、その出発した小隊が第3派の黒狼集団と遭遇し、
すぐに引き返す有様だった。
短めですみません。
小エピソードとの相性が悪く、削った結果です。
先日の短編投稿で世界の人々と愛美にはクリスマスプレゼントとしたつもりですが、
エレノーラにはプレゼントをあげられそうにないですね。
お年玉をあげられると良いのですが。