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1−24 下級魔獣討伐演習(1)

下級魔獣討伐演習は王都を離れて8マイル程の場所で行われる。

平民は学校が借りた馬車でまとまって移動するが、

1組は上位貴族や裕福な家の者ばかりである。

各自馬車にて移動して現地集合だった。

演習場近くの

馬車置き場で馬車から降りたエレノーラの服装は軽武装状態だった。

皮帽子に金属の前面装甲が縫い付けられ、

胸当てを付け、

ズボンを履き、やはり前面装甲付きのブーツを履いている。

そして背嚢に短槍を括り付けている。


1組の女生徒は殆んどが上位貴族であり、

濃紺、濃緑、臙脂など地味な色合いだがフォルムやデザインで

おしゃれをアピールする服装にフード付きコートを被っていた。

そんな彼女達から見たら、

エレノーラは場違いの服装だった。


「これだから田舎者は嫌ね!」

キャサリン・フィッツレイ公爵令嬢などは口にしていた。


だが、護衛の騎士達から見ればここは戦場で、

エレノーラも見習い騎士としてここに来ている。

脅威度の低い敵しか存在しないとは言え、

装備を固めるのは必要な事だった。

エレノーラの装備は護衛の騎士達とほぼ同じだった。

彼らは金属製のヘルメットを被っている、その位の差だった。


だから、一部の少年達は衝撃を受けた。

ポール・サマーズ公爵子息もその一人だった。

赤毛の彼は幼少時にその髪の色で悪い評判に苦しめられた。

だから、将来の騎士団入りを目指す彼としては、

今回下級とは言え魔獣が出るのだから、

何かが起きる可能性に備えて軽武装で参加すべきか、と思ったが、

他人と違う服装をして何か言われる事を恐れてマントを付けた普段着で参加している。

だから、エレノーラが騎士としてあるべき姿で現れた、

その孤独にして凛々しい姿は眩しかった。


デビット・マナーズ侯爵子息もショックを受けた。

彼は侯爵家の嫡子として、将来騎士団と同行して戦闘をする事もあるから、

剣の腕を人より磨いてきた。

しかし、今彼は他の有象無象と同じく通常の外出着にマントを羽織っただけだ。

これから戦闘を行うのに。

いつか将来、騎士団が戦闘装備で轡を並べる中、一人だけ普段着で馬に乗る自分を幻視した...

それは我慢できない、恥ずべき光景だった。


別にエレノーラやポール達が正しく、

尾ひれの華やかさを競う金魚達が間違っている訳では無い。

犬には犬の価値があり、

観賞魚には観賞魚の価値があるだけの話だ。

とはいえ、だからこそキャサリンは間違っていた。

こういえば問題はなかったのだ。

「令嬢の癖に騎士の真似事をするなんてはしたない。」

彼女は王都育ちと家格以外に自分の価値を認められないから、

田舎者で格下の貴族を馬鹿にしているのが明らかなのだが、

そもそも王都以外で暮らしている人の方が多いのだし、

そんな彼女が王都以外の貴族と結婚したらどうなるか、

領主の妻となっても地方の領民を馬鹿にする未来が想像されるから、

フィッツレイ公爵としても

この娘の結婚先は公爵が尻拭い出来る範囲でしか検討できなかった。


エレノーラは王子の班になるので、王子に近づいていく。

王子の隣にいるギルバート・フレッチャー子爵子息が親指を立てて歓迎する。

気合入ってるじゃん!とでも言いたいのだろう。

右手を軽く上げて挨拶する。


第1王子アーサーに会釈をする。

学校行事では王家に対する正式な礼儀挨拶は不要とされている。

アーサーも会釈を返してくれる。

エレノーラはアーサーとは組が違うし、

剣の授業では防具を着けていたりするので初めてまともにアーサーを見た。

木漏れ日に煌めく金髪、形の良い眉、空色の瞳、綺麗な筋を描く鼻梁、

それは美少女のそれに匹敵した。

但し、頬の線の孤がゆるやかだった。

他の女の子だったらその美貌に見惚れるところだったが、

何せエレノーラである。

色々我慢しているので食欲がないから痩せてるんじゃないか、

それともストレスでお腹を壊して頬が痩けたのか、などと心配していた。

大きなお世話だった。

王子の方はエレノーラの装備をおかしいとも思わなかった。

剣の授業でしか一緒にならない為、

いつも通り、と思ったのだ。


アーサーの隣にはアーサーのご学友のマイク・ヘイスティング伯爵子息がいたが、

エレノーラとはほぼ初対面なのでお互い特に挨拶はしなかった。

彼は文官傾向の人間だから、

剣の授業でエレノーラと打ち合う事はなかったのだ。


演習としては王子の班が最初にスタートし、その30分後に次の班、

午後にも2班、残りは翌日となる。

王子が後の班で、前の班が狩り尽くしてしまってもう魔獣がいなくなり、

王子が狩りを体験できない、などというのを避ける為の順番だった。

徒歩で90分程度の距離を歩き、

途中で出会った魔獣を狩る演習である。

スタート地点とゴール地点に騎士が待機し、

万一の事態に備え、

また、各班には4人の騎士が護衛に付く。

王子の班には特別に中隊長も付いてくる。

エレノーラが王子の為に体を張る事態があるだろうか、

まあ下級魔獣でも数が出れば不測の事態も起きるかもしれない。

槍への魔法付与後の投射の方向は王子に当たらぬ様に気を付けよう。


只、何故か鼻に気になる何かを感じるエレノーラだった。

エレノーラは山や森に慣れているので花粉に鼻をやられる様な事は

ない筈だったが。


学園物らしく、

価値観の違いによる衝突を書いていますが、

どっちが正しいという事はないと思うんです。

普通は主人公側が正しいみたいな話になりますが。

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