1−23 剣の授業(4)
下期の授業が始まったが、
初日に剣の教師、フレッド・ゲイルに呼び出される。
「話は2つある。最初のは断ってくれても良い。」
2つ目は命令なんだね、と理解する。
「何の話でしょうか?」
「ジェフリー・ミラーがお前と3本勝負をしたがっている。
自分を学年十剣にしろ、という事だな。」
剣の実力で学年10位以内を俗称学年十剣と呼ぶ。
威張りたい貴族が言い出した事だ。
剣の成績が5でなく、10位以下であると分かった彼は、
エレノーラが10位以内と聞いたらしく、
実力を証明してエレノーラを蹴落せば10位以内と認められると思ったらしい。
「捻ってやれ、という事ですか?」
「自信がありそうだな?奴も鍛えて来たと思うが?」
「何をしてきたかは大体分かりますから、対処は出来ますよ。」
「じゃ、週明けに決めてやれ。」
「はい、それで2つ目は?」
「来週火曜の1組の下級魔獣討伐演習に参加してくれ。」
「私、2組ですが?」
「殿下の守りを強化したいんだが、
あからさまに騎士の数を増やせないんだ。
魔獣討伐経験はあるんだろう?」
「自分で槍を振ったのは下級魔獣だけで、
中級魔獣討伐は見学で付いて行っただけですが?」
「それでも実物と討伐を見た事がある奴は違うからな。
悪いが頼む。」
「いざとなったら盾になれ、という事ですね。」
「命令は出来ないから、そこは任せる。」
「覚悟は出来てます。
骨を拾えとは言いません。」
「悪いな。」
騎士も、騎士見習いも任務に命をかける覚悟は出来ているものだ。
フレッド・ゲイルはエレノーラを覚悟を決めた仲間と前から感じていたのだ。
週明けの剣の授業で、
真っ先にエレノーラとジェフリー・ミラーの3本勝負は行われた。
教官であるフレッドは最初に宣言した。
「ジェフリー・ミラー卿からの申し入れにより
エレノーラ・スタンリー嬢との3本勝負を行う。
但し、もう2度とジェフリー卿からエレノーラ嬢への勝負申し入れは受け付けない。
いいな!」
ジェフリーもエレノーラも頷いた。
次があるとは思わず雌雄を決しろという事だ。
1本目、ジェフリーは先手を取るべく踏み込み、
次々と突き気味に斬りかかった。
エレノーラは押され気味だったが、左右のステップを効かせて捌いていった。
二十合も打ち合った所で、
エレノーラはすっと受け流し、エレノーラの横に体が流れたジェフリーの首筋に模擬剣を当てた。
「それまで!」
ジェフリーは「くそっ」と声を上げて悔しがった。
1分の休みの後、2本目になった。
ポール・サマーズ公爵子息はエレノーラの勝利を疑っていなかった。
彼からみて、ジェフリーは自分勝手な剣を振るいたがる人物だった。
(お前は相手を見ていないんだよ。
振りたい様に振るだけで相手に勝てる訳がないだろ?)
騎士団が欲しい人材は、
ともかく攻めたがる、功を焦るタイプではなく、
戦列を保つ防御に優れたタイプだった。
一人がさっさと負けて穴が開けば、その両側が苦しくなる。
ポール・サマーズもジェフリーみたいな人間が隣に立って戦争をするのは御免だった。
そして、エレノーラはジェフリーの太刀筋を見切ってステップを踏んでいる。
その左右の動きの速さは以前にはなかったものだ。
実はエレノーラは冬休みの2ヶ月間、
寮から魔法練習場への移動時には背嚢に短槍、片手模擬剣、
両手模擬剣を括り付けて重しとし、左右のステップをしながら歩いていた。
横移動のステップを磨いて来たのだ。
ちなみに魔法練習場からの帰りは毎回、とぼとぼと俯いて歩いていたが。
2本目の開始時、ジェフリーはもっと早く攻めようと気が急いていた。
1本目の際、エレノーラのステップなんて見ていなかった。
そしてエレノーラは、
どうせどんどん前進して攻めてくるんだろう、と予測していたので、
1本目は相手の攻めを確認し、
相手を疲労させて速度を落とさせる作戦だったのだ。
瞬発力というのは持続しないものだから。
2本目の開始時、エレノーラは上半身をすっと左に動かし、
すぐ戻した。
ジェフリーは反応し、
エレノーラの最初に動いた方へ剣を振った。
エレノーラは空振りした彼の首筋に剣を当てて終わりにした。
瞬殺だった。
その日の午後、
翌日の下級魔獣討伐演習の場所の調査が騎士団と魔法学院の合同で行われ、
問題なき事が確認された。
森の中で柵に囲われた7マイル四方の演習場は立ち入り禁止とされたが、
その夜、警戒の目を掻い潜って侵入する者があった...
あらすじにある「ささやかな信頼関係」のあたりです。
お待たせしましたが、ようやく明日からイベントになります。