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1−20 冬休みの練習(2)

防御魔法の一種として中級魔法のウォータースプリングを唱えてみる。

ばね、じゃない。泉の方。

どっ、と地面から水が吹き出す。

これじゃ、スプリングじゃなくてファウンテンだよ。

...これ、排水設備のない所で唱えたら、

泥濘状態になって人間も逃げられなくならないかな?


やっぱりウォーターウォールを鍛えるべきか...

30分近くウォーターウォールの練習を続ける。

たぷん、と決壊を繰り返すだけ。

上達する気がしない...

そもそも3ヶ月以上上達しないんだ。


練習場の隅のベンチに座り、項垂れてしまう。

私の水魔法なんてこんなものだから、期待されても無理だと思う。

しかも家の者以外だれも期待してない、どうせ出来ないと馬鹿にしている。

なんでこんな事を続けないといけないのかな。

やりたくないのに。

どうせ王都に来るなら、薬学師養成学校に行きたかったのに。

やりたくない事をやろうとし、出来ないだろうと馬鹿にされながらやろうとし、

出来ない出来ないと落ち込む。

何やってんだろう、私。

......

ダークサイドに落ちてはいけないね。

なろうとしている未来を想像してみる。


3年後、小隊単位で魔獣領域の監視任務に入った所で、

魔獣に襲われ、小隊で孤立する。

4人はもう怪我が酷くて動けず、

残り3人の短槍と私の魔法だけが頼り。

そして思うんだ。

「もっと魔法を練習しておけば良かった!!」


そうならない為の準備期間があと2年半あるんだ。

同じ小隊の7人の命を守る為に、

今、自分を奮い立たせて練習するべきだ。

頑張ろう。


領地から魔獣領域に入った山岳地帯を思い、

瞼が熱くなる。

早く帰りたい...

帰っても仲間となる連中が仲良くやってくれる訳はないのに。

それでも先輩騎士達は少しは仲良くやってくれるかもしれない。

あの山奥で見た滝がまた見たい。

ごそごそとウォーターフォールの魔法の書付けを探す。

左手に書付けを持ち、右手を振り上げて唱える。


「水、大いなる虚空の狭間に在りしものよ、

 潜みし泉より出て我が新たなる泉に集いて、

 神なる恵みをもって永久なる流れとなり、

 我が敵から我を守るべし。」


巨大な水塊が振り上げた右手の上空に現れ、

どんどん膨張する。

反射的に振り下ろした右手に従い、

滝が出現する。


そう、こんな感じ...

え?

ええ?

えええ!?


淀み無き詠唱に従い、

上級魔法、ウォーターフォールは発現した。


因みに、学院在学中に上級魔法を発現する生徒は、

数年に一人、

魔法院に就職した人間でも、

上級魔法を発現するのは十人に一人程度だった。

エレノーラは現時点では知らない事だが。


 

ウォーターフォールは3分程流れ続けた。

その後、10回呪文を唱えて10回成功した。

何たる事...

神の采配に嘆かざるを得なかった。

私としては、むしろ初級のウォーターウォールを習得したいし、

習得しないと良い成績が貰えないんですよ、

と何処かにおられる神に嘆いてみた。

もちろん答えは無い。

呆然とベンチで項垂れるエレノーラに、

管理人が声をかける。

「時間だぞ、おい、体調が悪いのか!?」

顔を上げたエレノーラが死んだ目で応える。

「......大丈夫です。

 魔法が思うように出来なくて落ち込んでました。」

「みんなそうだよ、休みは長いんだから、

 無理せず練習しなさい。」

「はい、ありがとうございます。

 片付けて帰ります。」

上級魔法だけ出来て落ち込んでいる、とはとても言えない。


とぼとぼと寒風吹きすさぶ学院内を歩いて寮に帰る。

まだ食堂が開くまで30分以上ある。

机の椅子に座り、机に俯せる。

人生、本当に思う様にならない!

今後の練習はどうしよう...


1.防御魔法はとりあえずウォーターフォールの練習と、

  もう少し小さい魔法を練習する。

  ウォーターフォールはもっと幅広くしたい。

2.攻撃魔法はまず短槍に纏わせる付与魔法の練習、

  アイス系の投射系魔法も練習する。


場合によっては長時間生徒だけで防御しないといけない状況になるかもしれない。

あまり大きい魔法に頼っていてはオーバーヒートするだろうから、

初級魔法での攻防も考えて練習しよう。


そろそろ夕食が食べられそうなので食堂へ行く。

食堂が開くとすぐ食事を始める人は大体いつも同じ人達だけれど、

冬休みで家に帰った人も少なくないらしい。

閑散としていて、この方がエレノーラとしては居心地が良い。

固いパンを肉の少ない味付けの薄いスープに浸らせて口に入れる。

もうこの味付けにも慣れたから、

地元騎士団に戻って、団でも孤独の中の食事も問題ないだろう。

悲しい事だけどね...


部屋に戻って暖炉に薪をくべる。

地元より王都の方が北部にある為、油断していると体を壊す。

その王都でもさすがに凍死する様な寒い日は年に数日らしい。

雪が降るのは1月下旬以降らしく、2月中旬までは積もる日もあるそうだ。

そして3月初旬に下期の授業が始まる。

その頃には貴族議会がある為、父親も王都にやって来ると聞いている。

成績の事を報告するのが憂鬱だ。


冬休みが2ヶ月なのは、北の領地の貴族に配慮したからです。

2月中旬位まで動けない可能性があると思われます。


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