1−2 公爵令嬢
エセックス王国の母体はガリレア条約同盟という軍事同盟であり、宗教の総本山のあるパルテナ帝国に対抗する為に統一国家となった。宗教の一派、改革派の協力を得て国家宗教化を行い、「異教徒征伐」の大義名分を無くす意図であった。
それ故、元々同盟の中心となっていた11国が王家、4公6侯となり、上位貴族の中でもその10家は一際高い権力を持っていた。
エレノーラが伯爵領から王都に移って数ヶ月、
呪文による魔法は水の制御が難しかったが、
なんとかモノになった頃、
春の社交シーズンとなり、
寄親であるフィッツレイ公爵家の茶会にて挨拶をすることになった。
公爵夫人と次女であり2歳年上で、第1王子の婚約者候補であるアンジェラに挨拶をした。
アンジェラ嬢からは
「学院で何かありましたら気軽に相談にいらして下さいね。」
とお言葉を頂いたが、
寄親の娘としての社交辞令であることは明らかで、
エレノーラも学院で彼女に話しかけることはないだろう、
と思っていた。
同行していた祖母が知人と挨拶をしている時、
侍女らしき人物が
「お嬢様がお話をしたいとの事です」
とエレノーラを連れて行った。
公爵家のタウンハウスは庭園も広く、
奥まった場所にあるガゼボに3人の令嬢が座っていた。
エレノーラに席を勧めることもなく、
3人の中で一番高価そうな生地で出来た赤いドレスを着た令嬢が口を開いた。
「私はフィッツレイ家の3女、キャサリンです。
あなたは寄子のスタンリー家の子女とのことですが、
あなたの様な田舎娘を同じ貴族だとは思いませんので、
今後は話しかけないで頂ける?」
と、いきなり絶縁宣言をされた。
王都に来てから祖母に教えられていたが、
スタンリー家は元々王都の法衣貴族で、
150年前の王国内での疫病蔓延と同時にフィッツレイ領近傍の土地で発生した魔獣の大量発生に対して王家が派遣した貴族の一人であり、
魔獣撃退の功績でその地に封じられたのである。
寄子、となっているが公爵家から見たら外様である。
頼りになると考えてはいけないよ、
と祖母からも言われていた。
エレノーラはこの令嬢達の纏う感情と同じ感情をよく知っていた。
地元騎士団に仮入団した見習い騎士集団、俗称、子供騎士団では、
唯一の女児で毛色の違うエレノーラは嫌われ、蔑まれていた。
集団の中の一部を皆で迫害するのは、
その集団のリーダーが集団を纏める為の常套手段である。
子供騎士団の見習い騎士達は皆地元平民の手のつけられない悪ガキ達である、
仮入団前から
「彼らに間違いを起こさせてはいけない」
と騎士団から武術の手ほどきを受けていたエレノーラは
2年間、彼らを実力で叩きのめし続けていた。
10歳にして強化魔法を身に付けざるを得なくなった訳である。
さすがに公爵令嬢にそれをする訳にはいかない。
とは言え、3人のグループを纏める為に田舎娘を態々貶めるのか、
むしろこうして田舎者を阻害し続けていけば、
自分の世界が狭くなっていくだけだろう。
その辺りが判らないのが姉との違いで、
第1王子と同い年なのに婚約者候補にならない理由だろうか。
「お言葉、了解致しました。それでは失礼致しますね。」
踵を返すエレノーラに対して公爵3女は声を荒らげた。
「待ちなさい、まだ話は終わっていないわ!」
「ご令嬢の意を汲んで話さずに帰ろうというのだから問題はございませんでしょう?
それとも相手に話すなと仰って、
初対面の人間に一方的にお小言を言うような不躾な事を公爵令嬢ともあろうお方がする筈はございませんよね?
失礼致します。」
まだ何か言っていたが、構わずガゼボを離れた。
木の折れる様な音がしたが、多分持っていた扇でも折ったのだろう。
気に入らない事があると物に当たる。
ご立派な令嬢だね、とエレノーラは思った。
こういう訳で、エレノーラはその後、祖母から誘われた茶会への出席一切を断っていた。
だからエレノーラは貴族の間に味方が全くいなかった。