1−19 冬休みの練習(1)
冬休みは月、火、水の午後しか図書室が開いていない。
教師も休みたいのだ。
一方、食事、寮の用事等は予約制で何なら休み中ずっと供給される。
教師は元貴族の次男以下または娘が殆んどだが、
食事や寮の世話をする下男下女は当然平民だからの待遇差であろうか。
よって、図書室の開いている日は復習と予習、
練習すべき魔法の呪文の確認を行う。
魔法練習場は午後4時で閉められてしまうので、
図書室の開いている日は3時から練習をする事になる。
今なら午前中でもまだそこまで寒くないが、
1月下旬になるとやはり寒くなるので外を歩くのが辛いらしい。
それでも朝食が用意されるのは
食堂の調理人達は学院敷地内に寮があるため外を歩く距離が少ないからである。
尤も、朝食はいつもなら7時からだが、
長期休暇中は8時からになっている。
エレノーラとしては午前中に剣と短槍の素振りをやり、
時間があるのでモップで床を拭いたりする。
家ではやっていなかった裁縫の練習もしている。
騎士となり平民となったら、自分で綻びを縫い合わせたりする必要があるからだ。
因みに夕方入浴の前に再度剣と短槍の素振りをするのはいつも通りだ。
午後は毎日魔法演習場を予約している。
下級魔獣討伐演習に備えて魔法の練習が必要だった。
領地騎士団では、下級魔獣の討伐でも、
場合によりもっと強い魔獣が出てくる可能性がある為、
その心掛けをもって警戒する事を求めていた。
だからエレノーラは、
中級魔獣が出てきても防御と時間稼ぎが出来る様に、
授業でまだやっていない魔法を練習しておくつもりだった。
何せ、あの2組の魔法の授業内容が酷すぎる。
中級魔獣が一匹出てきただけで大惨事になる可能性が高い。
初級魔法の後半に習うウォーターウォールを唱えてみる。
ウォーターシールドの拡大再現版だった。
つまり、下にたぷんと溜まって決壊した。
この水の量を回転させる気はさすがのエレノーラにもなかった。
なので、上に重点を置いて水を整形しようとする。
当然、下が薄くなる。
だめじゃん...
魔獣は基本は地面を走って人間や動物を襲う。
地面付近が分厚くないと防御力がない。
たぷん、と溜まる部分を足元にして形を保とうとする。
今度は太もも付近より上が薄くなる。
魔獣は最接近したあと飛び上がって獲物を襲う事がある。
結局、同じ厚さで水を整形しないといけない。
だけど、何度やっても、どうしてもたぷん、と下の方に溜まって決壊する。
これは早々に諦めて他の魔法を練習した方がいいんじゃないかな...
初級の後半に習う、と言っても下級魔獣討伐演習より後の話である。
何日か練習して上達の気配がない様なら、他の防御魔法を考えよう。
千里の道も一歩二歩からだけど、優先順位は考えよう。
次に書付けて来たのは魔法付与の中級魔法である。
3年の授業範囲になるが、
エレノーラは短槍に対する魔法付与を呪文なしで行っていた。
できる筈だ。
とりあえず練習用の穂先を潰した短槍を持ってきている。
呪文を唱えると、穂先に水が集まっていく...
魔法で水を整形する。
これで殴ってもそれなりに痛いと思う。
ぶうん、と振ってみる。
ばしゃんと水がばら撒かれた。
やはり呪文を使うと水が多くなるので制御が出来なくなる。
でも、こちらは一先ず水を集められ、保持できるから、
後は魔法での制御を練習すれば良い。
時間稼ぎの攻撃魔法は練習を続ければ何とかなりそうだった。
でも、もう1種類位、中級攻撃魔法が欲しいな...
防御魔法も含めて、2つ位リストアップしておこう。
何せ、木、金は図書室が開かないから。
次の日、図書室で魔法を調べに行く。
いつもの司書さんでない教師がカウンターに座っている。
みんな休みたいから交代で出勤するのだろう。
攻撃魔法と言えば、初級魔法の後半にウォーターランスがある。
まあ、ウォーターボールの拡大版だ。
取り敢えず呪文を書付けておく。
というか、初級魔法の呪文は一通り書いておけば良いんじゃないかな。
どうせ練習しておかないと、
魔法実技の授業中に下位貴族の連中にせせら笑われる。
...顔を合わせないでいられる冬休み中に嫌な事を思い出してしまったよ。
せめて、魔法の成績は4が欲しかった。
魔法の才があるからと魔法学院に通い、
貧乏伯爵家の財政を悪化させる一因となっている以上、
結果が欲しかった。
...何かやるせない気持ちになった。
うん、ともかく頑張ろう。
水魔法での攻撃魔法と言えば、
4属性の中級魔法の中でも2,3位辺りの攻撃力を誇るアイスランスは
憧れの魔法だ。
呪文を書付けておく。
これさえ覚えれば勝ったも同然だ。
...初級魔法で汲々している人間の言う事じゃないんだけど。
防御のアイスウォールも中級魔法の後半で習う、
アイスランス同様3年の授業の範囲だ。
凍らせる前の段階で水が決壊して崩壊する未来しか見えない。
でも一応書付けておく。
上級魔法の本を手に取ってみる。
ブリザードとかサイクロンとか、範囲攻撃魔法が載っているが、
魔獣向けじゃない気がする。
戦争時の人間皆殺し系魔法だよね...
そんな偉大な魔道士になる予定がないから良かった。
スノーアバランシェとか、そもそも氷系魔法まで水魔法が進化してないとできない。
スノーマンとかの呪文があったら良いな...
現実逃避を始めつつある中、ウォーターフォールの呪文を見つける。
王都に来る前に一度だけ中級以上の魔獣討伐に同行させてもらった時、
奥地にある滝を見せてもらえたのを思い出す。
何となく書付けていく。
そう言えば、歴史の勉強をもっとする様に祖母に言われていた。
明日は歴史の勉強もしようか。
明日からでいいよね。
今勉強しても、3月には絶対忘れてるし。
今は本から書き写すだけで良いだろう、と思う。
長期休暇は初日が勝負という気がします。
初日に緩むと最終日まで緩んだままですよね。
珍しく文字数がそこそこある今回の投稿、
2話分まとめてやっとこの文字数です...