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3−23 後始末(4)

 大聖堂の不連続点は消えた。

召喚門の目的地になる生贄も消えた。

近くに闇魔法の痕跡もない。

王都は平和を取り戻したと言える。

それで私の心の中のさざなみが消える訳じゃない。

ノエルはもう一人の私だった。

教会に取り込まれた聖女の一つの選択肢が彼女だった。

もちろん、私はその選択肢を拒んで今ここにいる。

結果として教会が作った聖女を倒す方に回った。

でも、倒されるのは私だったのかもしれないんだ。

そして、彼女がその選択肢を選んだのは、

私がその選択肢を選ばなかったから、

その選択肢が彼女に回っていったんだ。

彼女がそんな風になったのは私の所為かもしれない…

この世に対する執着のみの存在となり、あんな醜態を晒す…

生前の彼女はそれでも私を蔑む言葉を言わなかったと思う。

最後の一言だけだ。

教会からの最後の贈り物が彼女をみじめに変えた…

私にはそんな彼女を消し去る以外にしてあげられなかった。

いくら祈っても、彼女はもう返ってこない。

それが自分の罪に思えた。

祈ったから何かが救ってくれる訳じゃない。

騎士として犯罪者の命を奪った時、

騎士達は自分の中でその行為を何かに昇華させる必要がある。

私はそんなに強くなかった。

どんなに強く指を組んでも、それが何かの代償になる事はない。

最終的に彼女を消し去った事に後悔はない。

だけど、その過程に何か違う救いはなかったのか、

と思ってしまう。

私は選択肢を間違えたのではないのか…

私が聖女になっていれば…

……

………

あれ、私は聖女になれないんだよ。

だって教会の聖女の条件は金髪碧眼なんだから。

しかもお上品な淑女っていうより腕力勝負の人間だし。

うん、私が聖女にならなかったのが原因になる事はない。

私には二つの選択肢しかなかった。

教会から逃げるか、教会のなすがままに道具として使われるか。

そこに聖女という選択肢は無い。

だからノエルの選択肢はノエルだけの選択肢で、

私の選択肢とは独立しているんだ。

うん。

彼女は望んだ。

聖女となり王妃となる道を。

でもそんな能力は彼女には無かった。

だから破綻した。

それは教会と彼女の選んだ道だ。

他の人にはどうしようもない事だ。

この結果の責任は彼等と彼女がとるべき問題だ。

私には関係ない。

うむ。お祈り終わり。

女神様、私は悪くない、って思うのは責任逃れじゃないよね?

お聞き下さりありがとうございました。

って聞いてないよね。


エレノーラは指を伸ばし、瞳をぱちっと開いた。

ブライアンが声をかけた。

「いいのか?」

「ええ、もう消えてしまった魂には何も誰も

 何かをしてあげることは出来ませんので。」

悪霊は浄化し消え去る。その魂が神の下に向かう事はない。

それに対してエレノーラの言葉に陰はなかったからブライアンは安心した。

「そうか。

 それで、お前さんの中にはどんな聖女が住んでいるんだ?」

へ?

エレノーラは一瞬何の事か分からなかったが、

ノエルに最後にかけた言葉の事だと思い至った。

聞くまでもない事なのに。

「住んでませんよ。

 私の中に住んでるのは女騎士です。

 聖女が心の中に住んでないから聖女にならないんじゃないですか。」

ブライアンは思った。

何を言っていやがる。

教会からの悪意に晒される未来に怯えながら

王都を守ろうとし、守った少女。

自分より世界を優先できる少女を聖女と呼ばずに誰を呼ぶのか。

ランディーは思った。

何を言っていやがる。

使徒召喚は初代聖女を1日昏倒させる程の大魔法。

7代聖女に至っては数日、目を覚まさなかったという。

次の日の朝には気分爽快に目覚める奴など格が違う。

あらゆる魔法行使の結果がこいつを化け物と示している。

人として生きるというなら聖女にでも祭りあげるしかないだろう。

中身はただの泣き虫だが。

そういう訳で、エレノーラの右腕はブライアンが、

左腕はランディーがガッチリ抑えた。

「え、どうかしました?」

「何、陛下がお待ちだ。

 聖女様とお話がしたいとな。」

「待って、使徒召喚は通りすがりの聖女がやった事にして下さい。

 私は善意で通報しただけの一介の市民だから!」

「その通りすがりがお前だって、

 王都全員が知ってるぞ。

 誰がやったか知らしめないと騒ぎが収まらなかったからな。」

「そんな理不尽な!

 他人の個人情報を勝手に公開しないで下さい!

 プライバシー保護を要求します!」

「聖女はもう公人だからプライバシーなんてないだろ、

 さ、さっさと行くぞ!」

「いーやーだー!!」

踏ん張ろうとするエレノーラを大人二人が腕で持ち上げて運んで行こうとする。

浮いた足をじたばたさせて抵抗するが…

地上で待っていた騎士達がその光景にぎょっとする。

「あの、聖女様が嫌がっている様ですが。」

「何、少し心の準備が出来ていないだけだ。

 陛下がお待ちなので失礼する。」

「はっ!」

騎士としては陛下の名前を出されては口が出せない。

やーめーてーとか、

1日待ってだとか、

エレノーラの未練がましい言葉が周囲に響いたが、

誰も口を出せなかった。

 悩む事なんてないの。

あなたが悪い訳じゃないんだから。

そう誰かが言ってくれたらそれだけで楽になる事ってありますよね。

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