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3−20 後始末(1)

 小さな私が泣いている。

顔を覆った両手の間から涙がどんどん溢れた。

多分、初めて聖魔法を使った頃の事だ。

自分が化け物だと知った時の記憶だ。

あの頃からずっと怖れてきた事が現実になった。

この力を知られてしまったのだ。

早く逃げないといけないのに、足が動かない。

前から女が近づいてくるのが分かる。

そうすると、これはいつもの嫌な夢で、

近づいてくるのは私と同じ顔をした女だ。

身構えた。何かされるのではないかと心配したのだ。

でも女はしゃがみこんで、私の頭を優しく撫でた。

えっ?

顔を覆った指を少し開いて、指の間から女を見ようとした。

女の唇が目の高さにあり、美しい形のピンク色が小さく動いた。

歌うような綺麗な声が聞こえた気がした。

夢なのに…

聞こえてきた気がした言葉は

「わるいことばかりじゃないでしょ」

だった。

その声もその美しい唇も私とはまるで違ったから、

顔から手を離して女の顔を見ようとした。

そして瞳を大きく開くと…


 貧相な天井が見えた。

寮の私の部屋の天井より小汚いし、

最近はタウンハウスで古い天蓋付きのベッドで眠っていたから、

こんな天井は見た事がなかった。

とりあえず半身を起こして周囲を見る。

カーテンのお陰で薄暗かったが見えない事はない。

事務的な部屋だ。

私の寮の部屋も殺風景だったが、あそこには短槍や模擬剣があったぞ。

…女性としてそれを誇るのはどうだろう、とも思うが。

視覚ではなく知覚を広げてみる。

扉の向こうに護衛騎士が二人立っている。

廊下の角にも騎士が立っている。厳重だな。

建物内には強い魔力を持つ者が多い。

魔法院か。

私は何で寝てるんだろう?魔法院で寝る程、体は弱くない筈だが…

カーテンから漏れる光の角度で時間を推定する。

始業時間くらいか。

みんな勤勉だな。私もサボってちゃ駄目か。

何をしてたか覚えてないんだけど…

何か気になる物が王城の方にある。

更に知覚を広げて見る。

何!?

何で忘れて寝てるんだ!

大聖堂が気になる。

やはり大聖堂にも痕跡がある…

布団を剥がして跳ね起きるが、靴が見当たらない。

スリッパがあるけど、これで外には出られない…

着てるものも寝巻きみたいだし。

仕方がないので扉を小さく開けて護衛騎士に話しかける。

「あの、すいません…」

「ご無事ですか!?

 体調はいかがですか!?」

「あ、割と丈夫なので心配無用です。

 それで、着替えと靴と、その後で総長に連絡を取って欲しいのですが。」

「分かりました。

 おい、お前、着替えと靴と魔法院総長に連絡しろ!」

廊下の角の騎士が走っていった。

私はベッドに戻って座った。

着替えより先に総長がやって来た。

「おい、大丈夫か!?」

「その、寝巻きなんでちょっと配慮して欲しいんですが。」

「娘みたいな年頃に何か思うほど困ってねぇ。」

いや、それは女に困ってるかどうかより趣味の問題が大きいと思うんだ。

「とりあえず着替えと靴を早急にお願いします。

 後、大聖堂に入る許可と、

 王城の外郭設備の地下に安置されている元聖女候補の死体の浄化許可を

 申請して下さい。」

「ああ、聖女候補の死体の浄化には困ってたんだ。

 聖魔法部長が自分じゃ無理だって言うんでとりあえず持ってきたんだ。」

「とりあえず人が近づけない様にしてあるんなら後回しで。

 大聖堂が優先でしょう。」

「何か残ってるのか?

 昨日の調査では何も残ってなかったんだが?」

「空間の不連続、つまり穴が残ってます。

 小さいですし、錨がそこに無いなら当面大丈夫とは思いますが、

 元聖女候補はもう歩けませんので、大聖堂を優先すべきと思います。」

「分かった。ちょっと待ってろ。」


 総長は総務部の女性職員を伴って戻ってきた。

彼女が持ってきたのはベージュの布地に緑色の装飾が施されたローブ…

聖魔法部のローブだった。

「総長、緑のローブだと野山で任務中に倒れた時

 保護色になって見つけてもらえません。

 水色のローブにして下さい。」

「とりあえず行くのは大聖堂と王城だから保護色にはならん。

 急いでるんだからさっさと着ろ。」

いーやーだーという顔をしているのに早くしろという顔を返しやがる。

くそう、はげちまえの怨念を送ってやる。

聖女の怨念は威力が違うから覚悟しろ。

総長を追い出して総務部職員の助けを借りて聖魔法部のローブを着る。

心底似合わないと思う。


 1階に降りてランディーと合流する。

「昨日、調査隊が大聖堂に入った際には死体も何も残っていなかった。

 死体は闇魔法で強く汚染されていたから、強い聖魔法で消え去ったんだろう。

 それでも残っていたのは元聖女候補の死体だけだ。

 付近に魔法の痕跡は残ってなかったが。」

「昨日より小さい穴ですが、確かに残ってます。

 確認後、浄化魔法で塞げると思います。」

魔法院の正面入口前には第1騎士団の司令官用装甲馬車が止まっていた。

これに乗るのか…一々扱いが気にさわる。

その上、前後に4騎ずつ護衛が付く。

流石に誰にも妨げられる事がない。

しかも未だに大聖堂方向の交通は規制されている。

午前中の王都とは思えない程に静かな道路を進んでいく。

大聖堂前はバリケードが設けられ、

破壊分子の接近を防いでいた。

正門前では左右方向に4人ずつの騎士がおり、

更に後衛として4人の騎士が控えるほど破壊分子の接近を警戒していた。

もちろん、大聖堂内から出てくる物があった場合にそなえて

2列の陣形を取っているという意味もある。

そんな緊張感の残る正門で現地司令官が立ち会う中、

私は初めて大聖堂の中に入る事になった。

王都に来てから、ここは敵地と認識していたのだ。

 プロテスタントの駅前教会くらいしか見たことがないので、

大聖堂というのが想像出来てませんが。

都市部の大きいお寺位の敷地面積はあると思ってます。

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