3−18 召喚(4)
演習場の中心に、エレノーラが土魔法で直径200ftの魔法陣を描く。
その魔法陣の外側で、
エレノーラが魔法陣の中心に向けて両手を伸ばし、
魔法の詠唱を始める。
離れて見ている皆は風を感じた。
それは風ではなく、魔法子の激しい流れだった。
魔法が膨大な魔法子を必要としているのだ。
魔法を詠唱しながら、エレノーラも魔法子が足りない事を感じた。
もっと多く集めるんだ。
もっと高くまで巻き上げるんだ。
だから、魔法子のコントロールの範囲をどんどん広げた。
魔法院の全員が、隣接する騎士団の全員が、
王城にいる全員が、魔法子の暴風を感じた。
王も王妃も王太后も感じたのだ。
それでも全然足りなかった。
官庁街を巻き込むまで魔法子コントロールの範囲を広げ、
上位貴族街、下位貴族街まで広げた。
そこから巻き込まれて行く魔法子を補う様に周囲から魔法子が流れ込んだ。
だから、エレノーラのコントロール範囲の外側にある魔法学院でも
魔法子の異常な流れを感じた。
「何だこれは!?」
「部屋の中で何で風を感じるんだよ!?」
「王城の方へ吸い込まれているのか?」
多くの者が窓から王城の方を見ようとした。
ポール・サマーズやシンシア・ラッセルも窓から王城を見ていた。
魔法院演習場ではエレノーラがかき集めた魔法子を魔法陣の中心に集め、
竜巻の様に巻き上げた。
それは巨大な聖属性の竜巻だった。
呪文詠唱は最終部分に入った。
「高照らす日纏いし君よ
うつせみの世に現れん
真昼の女神エーメラーに請い願う
王都を守ってーっ!!」
呪文に私語を付けるな馬鹿者!
とブライアンとランディーは心の中で叫んだが、
それは口からは出なかった。
エレノーラが作り上げた聖属性の竜巻は、
今、神性に変わった。
600ftに及ぶ光の竜巻が顕現した。
その巨大な竜巻が示す神性は、
誰もが見ずにはいられない魅了を示した。
一方、誰もが平伏したくなる威厳を示した。
神が神たる所以は魅了の力である。
人々を魅了しない神は神と認められない。
そして神の神たる所以はその威厳である。
坊主に利用される程度の威厳しかない神には
敬虔なる信者など集まる筈がない。
王都内のどの建物より高い神性の光の柱を誰もが見ようとした。
そういう高さだった。
王都外の市街からも見えた。
もちろん一番近くにある王城の全ての人間が窓からその光を見ようとした。
遠く離れた魔法学院でも、訳も分からず窓の外を眺めようとした人々が、
その魅了と威厳の力の前に黙りこんでただ光を見つめた。
その光はフード付きの外套を被った人の様にも見えた。
その光は右手に笏杖を持っている様にも見えた。
遠くから見て王城から少し離れたところに立っていた光の巨人は、
人が歩くような仕草をして西の方に進んで行った。
人の百倍程の高さのそれは、
当然人の百倍の速度で歩き進んで行った。
足元には市街の建物が並んでいたが、
ただの光だから市街が壊される事は無かった。
魔法院演習場近くにいて魔法の発動を見ていた人々は、
その光の行く先を見たがった。塀や木々や建物が邪魔をしていたのだ。
人々は我先にと高い建物に登って行った。
そして光の巨人を目にして安心した。
ランディーも一瞬人々に付いて行こうとしたが、
その場に踏み留まった。
女神より魔法の顛末を見たかったのか、
それとも…
もちろんエレノーラはその場に留まっていた。
彼女が周囲から集め続ける魔法子がその光の女神を構成しているのだ。
両足で地面を踏みしめて、両手を伸ばして魔力を供給し続けた。
光の女神は大聖堂に近づいていった。
大聖堂は王都西側では一際高い建物だった。
大聖堂近くの通りでは、
騎士と市民達がバリケードを作ってアンデッドの進行を止めようと
努力を続けていた。
その騎士と市民達も、それと相対していたアンデッド達も、
近づいてくる光の巨人を見上げ、動きを止めた。
その光が近づいてくるにつれて、
アンデッド達が力なくその場に跪き、そのまま倒れた。
アンデッドは瘴気を通して何かに操られていたのだが、
その瘴気が消失していったのだ。
騎士や市民達はそれに気づく事もなく、
ただ光の巨人に見惚れていた。
そうして大聖堂に近づいた光の女神は、
手にした笏杖を持ち上げ、振りかぶった。
それで大聖堂を破壊するかの様にそこから振り下ろした。
その時、この地に第2の太陽が出現し、
王都は光に包まれた。
後始末が待ってます。