表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/131

3−17 召喚(3)

 久しぶりに2in1、

2話分を1話に投稿しています。

それで他の人の1話分位でしょうが。

 道すがらランディーが訊ねる。

「シンシア・ラッセルの件は呪いだったんだな?」

「はい。少なくとも闇魔法です。嫌な感じがしたんです。」

「あれが闇魔法でなければ教会がお前を狙う必要がないからな。」

「そうですね。証言される可能性を排除したかったのと、

 聖魔法師の可能性のある者を今後の障害にならない様に排除したかったのでしょう。」

「あと、毎回魔法子で誤魔化すのは止めろ。

 上司がブライアンでなければ気づく。」

「手前ぇ!」

「いや、本当に魔法子は報告した通りに振る舞ってるんですが。」

「それでもだ。言い訳に使う嘘は4つ以上用意しとけ。」

「後輩に悪事を勧めるんじゃねぇ!」


 魔法院書庫の3階層は埃っぽかった。

許可を得た人間しか入室出来ず、清掃は月1回しか行われなかった。

総長が目録を見てどの引き出しに目当ての呪文が納めてあるか確認し、

該当する引き出しの鍵を取り出し、

引き出しの鍵を開けた。

多分、数十年前に新しい紙に書き写されてから一度も出されなかった

使徒召喚の呪文を記した紙束が引き出しから出された。

錯覚だろうと思うが一際重みを見せるその紙を捲り、

エレノーラは呪文を黙読し始めた。

二百五十年前に書かれた呪文である。

そもそも言葉遣いから古臭かった。

ランディーが横から口を開く。

「古い呪文だが読めるか?」

「文字の綴が古い様に見えますが、

 分からない所があったら聞きますのでお願いします。」

「分かった。先ず読んでみろ。」

「はい。」


 読み進めるエレノーラの額に汗が浮かぶ。

早く呪文を把握し発動しないと、被害が広がる一方だ。

それなのに古い綴や言葉遣いが邪魔をする。

おまけに何か胸騒ぎがする。

胸騒ぎが胸焼けになり、遂に吐き気に変わった。

それでも読み進めようとするが、

遂に心の中で読み進める事すら出来なくなった。


「…違う。聖魔法じゃない…」

「何!?」

「どういう事だ!?」

「私は第1属性の所為で闇魔法や呪いには敏感なんです。

 気持ちが悪くなる。

 この呪文は黙読しているだけで気持ち悪くなり、

 最後まで読む事が出来ないんです。」

「何でそんな事に!」

「待て、これは写本だ。何年に書かれている?」

エレノーラが呪文の書かれた紙束の表紙を捲ると、

書き写されたのは百二十年前だ。

「百二十年前です。」

「最初の13代聖女の前だ。

 地位を剥奪された13代聖女は呪文が改竄されていたので

 使徒召喚が出来なかったのか?」

「それだと、聖女とこの呪文に破壊工作を行った者が別団体となりますが…」

「何とも言えん。聖女を亡き者にしたかっただけかもしれん。」

エレノーラとランディーの発言にブライアンも興味があったが、

もっと目先の問題に彼は気付いた。

「待て、そんな問答は後だ。

 先ず目先の火事を消さないと。

 ランディー、目録を見ろ。

 代替して使えそうな呪文を探すんだ。」

「だが、使徒召喚の呪文の原本を探す方が早いぞ!?」

アーサーはここ以外の原本の在り処を知っていた。

「この写本以外の原本はこの王都の大聖堂かパルテナ帝国の大聖堂にある。」

全員が途方に暮れた。

魔法院の聖女の魔法の呪文が改竄されている事を知っている者は、

大聖堂で召喚門を発動させる事で事態を詰まらせたのだ。

溢れ出る魔獣の中、在り処の分からない原本を探す事など不可能だ。

ましてやパルテナ帝国の首都の大聖堂に行っている暇などない。

ブライアンが言葉を絞り出した。

「ランディー、目録から使えそうな呪文をまず探せ。

 それをエレノーラに読ませてみるしかない。」

さすがにランディーも焦っている。

「だが、他も改竄されている可能性が高いが…

 確かにエレノーラに読ませてみるしか確かめ様が無いか…」

エレノーラにも呪文は全て改竄されていると思われた。

だから入口に走って、外で待っている護衛達に頼んだ。

「紙を5〜6枚持ってきて下さい!

 後、黒インクと赤インクと青インクも!」

護衛騎士が一人走っていった。

「改竄点を探そうっていうのか…」

「ランディーはいいから呪文を探せ。

 改竄点はエレノーラが相談するまで任せろ。」

「…そうだな…」


 騎士が紙とインクを持ってきた。

エレノーラは複写魔法で4枚に渡る使徒召喚呪文の写しを取った。

「待て、何だそれは!?」

「複写魔法です。借りた本を写す為に身に付けたんです。」

「そういう事は早く教えろ!」

「呪文が無いので他人には使えません。」

「ぐっ…」

この緊急事態に見た事の無い魔法に気を引かれるランディーは

やはり魔法については偏執狂であった。


 複写の後、文脈の繋がりを赤と青のインクを操り確認し

番号付けして文章構造を把握しようとする。

「禍津髪持つ…使徒にかかる説明文中のこれが問題なんだ…

 禍津神の意味で魔法が発動するから…」



 騎士団と聖魔法部の合同調査部隊が大聖堂に近づいた時、

野次馬が大聖堂を遠巻きに眺めていた。

騎士が野次馬の一人に訊ねた。

「どうした!?何かあったのか?」

「中がやけに静かだし、

 物が倒れる様な物音がするんで一人入っていったんだけど、

 戻ってこないんだよ。」

騎士は聖魔法部員に訊ねる。

「どうだ?何か感じるか?」

「…明らかに瘴気が出ています。

 この距離だと魔法や魔獣がいるかどうかは分かりません。」

「騎士4人を護衛に付ける。

 危険のない範囲で中の様子を見てくれ。」

騎士4人と聖魔法部員が大聖堂の正門から建物に近づこうとしたところ、

俯いた人影が数人、ゆっくりと歩いて出て来た。

足を引きずる様に歩いている。

聖魔法部員だけでなく、騎士達も瘴気が急に濃くなった事に気付いた。

「まずい、アンデッドだ!

 逃げるぞ!」

5人は急いで引き返した。

アンデッド、と聞いた人々が騒然としだしたが、

まだ眺めているつもりの様だ。

騎士の隊長が指示を叫んだ。

「市民はすぐ避難しろ!

 大通りの交差点より遠くへ離れるんだ!

 騎士は近くの商店から椅子でも机でも借りてこい!

 バリケードにするんだ!」

その指示を聞いても、まだ危機感を持たない者達はその場に留まっていたが、

このまま留まれば人混みに阻まれ逃げる事が出来なくなる事は明らかだった。

目敏い者は知人に声をかけた。

「おい、さっさと逃げるぞ!

 遅くなるほど人混みで邪魔される!」

その言葉で焦って逃げようとし始めた人達の前に、

どうしようか迷う人達は邪魔だった。

焦って逃げようとする人達に動かない人達はぶつかり、

押し倒されたり、踏み潰されたりする人が出たが、

人々全体の流れとしては大聖堂から離れる方向が大勢になった。

真っ先に騎士が騎士団本部と魔法院、そして王城へ報告する為に馬を走らせた。



 魔法院の書庫3階層ではエレノーラが苦悩していた。

「禍津髪持つ…使徒にかかる説明文中のこれが問題なんだ…

 禍津神の意味で魔法が発動するから…」

「どこだ!?」

「ここです。」

エレノーラが水魔法で赤丸を付ける。

「ちょっと待て、他にもぬばたまの夜纏いし、とかまずい単語があるぞ!」

「ああ、それも闇の眷属を呼びそうな単語ですね…」

「それで闇魔法になってるのか…」

ランディーとエレノーラは揃って頭を抱えた。

ブライアンは乱暴だった。

「じゃあ、まずい単語を全部除いて詠唱したらどうだ?」

「バランスが崩れる。

 何かを制限して人間が使える魔法になっていたかもしれないのに、

 単に削除するだけでは、無制限に魔力を奪う大魔法になる可能性がある。

 しかも装飾文を省いてみつかいとだけ指定しても何が出てくるか分からん。」

エレノーラも唇を噛む。

乱暴な手段を取るべきか…

何とか正しい呪文を導き出す方法はないのか…

沈黙の中、何かが通り過ぎた。

そうして、エレノーラは天啓を受けた。

それは正しく天啓だったに違いない。

失伝した筈の女神の名が浮かんだのだから。

呪文中のみつかい、の所に赤インクを引き、

その隣に真昼の女神と書いた。

その名を文章に残すのが躊躇われたのだ。

そして、黙読を始めた。

ブライアンから見れば、女神を降臨させる等、人の仕業では無かった。

「おい、無茶だ!女神は無理だ!!」

「ブライアン、任せろ。」

「総長、エレノーラに任せよう。」

ランディーとアーサーはエレノーラへの信頼を示すが…

丸投げと信頼は違う。

信頼していても言うべき事は言わないといけない。

だが…第2属性である水魔導師としてでさえ、エレノーラは人外である。

第1属性の聖魔法がどこまで出来るか誰にも分からなかった。

「無理だと思ったら詠唱をすぐ止めろよ!」

エレノーラは夢中になって呪文を黙読しているだけだった。

じりじりとした気持ちで待つ3人の男達の前で

エレノーラが呪文に視線を走らす。

入室出来ない騎士、女騎士、ギルバートとマイクはともかく待つしか出来なかった。

「よし、行ける!」

エレノーラがこう言うからには少なくとも聖魔法としては成立しているのだろう。

ブライアンが一声かける。

「おい!こっちにある魔法陣はどうするんだ!?

 書き換えなくて良いのか!?」

「あ…」

この大魔法には魔法陣も併用されるのだ。

エレノーラは呪文の後ろに記載されていた魔法陣を複写し、

謎の記号の上に赤インクで女性を示すマークを書く。

また、3箇所の謎の記号に赤インクでバツを書く。

「それで良いのかよ!?」

ランディーが応える。

「エレノーラが違和感無いならそれで良い!」

「そんな適当な…」

複写した紙を持ってエレノーラが階下へ走り出す。

皆が後をついて走っていく。

「エレノーラ、演習場へ行け!

 そこなら魔法陣を書いて発動して周りに影響が出ても被害が無い!」

「はいっ!」

1階から外に出て、300ft離れた演習場まで走る。

マイクが途中でバテて遅れる。

「根性出せ!」

ギルバートが声をかけるが、

「そんなもんは無い!」

と威張るマイクだった。

エレノーラが演習場に入り中心まで走る。

ブライアンが大声を張り上げる。

「全員、演習場の外に出ろ!

 エレノーラがデカい魔法を使う!

 巻き込まれたら死ぬぞ!」

勿論死ぬかどうかは誰にも分からない。

少なくとも使徒召喚…もとい、女神降臨に悪影響が出る可能性はあるから、

邪魔者を排除したかったのだ。

遂に、王都に約200年ぶりの大魔法が再現される時が、

否、前代未聞の巨大魔法が発動される時が来た。


 誰かが裸踊りしないでも女神は出てくるのか?

というツッコミはしない方向でお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今回も大変面白かったです。 こんな感想しかなくてごめんなさい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ