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3−14 巡る季節の中で

 王子を待たせる訳にはいかない。その日は早めに準備を進めた。

それでも約束の時間より早くアーサーはやって来た。

「おはよう。少し早く来てしまってごめんね。」

「いえ、問題ありませんよ。」

アーサーから見て今日のエレノーラは儚げに見えた。

散るからこそ心を打つ花の有限の美に近いものを感じた。

それでも昨日と違い俯いていない彼女に何か言うのは憚られた。

護衛に任せず自らエレノーラの乗車に手を貸した。


「食事は出来る様になった?」

「少なくともお腹に入る様にはなりました。」

「徐々に増やしていけばいいね。」

「そうですね。」

「そういえば、君は好きな食べ物って何?

 ごめんね、今まで聞いたこと無かったよね。」

「普段は何でも食べますけど、

 お腹の調子の悪い時は温かい汁物が良いですね。」

「それもそうだね。

 また調子が良い時に聞き直すよ。」

「そうですね。」

好きなお菓子の話をした。

好きな花の話をした。

まるで付き合い始めたばかりの二人の様な会話が進んだ。


 学院に着いて、アーサーがエレノーラの降車を手助けした。

「話の続きは帰りにしようよ。」

「そうですね。」

さすがに学院で仲良く話すのは憚られた。

二人は婚約者候補に過ぎないのだ。


 まだ日中は日差しが強いのだが、朝晩は大分涼しくなっている。

爽やかなそよ風が吹く中、木漏れ日の下を二人並んで歩く。

木漏れ日が透けてアーサーの金髪が輝く。

エレノーラはそれを美しいと思ったが、

そんな事に惹かれている訳じゃない、と思った。

そよ風の中を歩くエレノーラの黒髪が流れる様に揺れた。

アーサーは水魔法師の彼女に似合う、と思ったが、

そんな事に惹かれている訳じゃない、と思った。

こんな時間を二人でもっと過ごせば良かった。

こうした時間を過ごせば彼女も孤独を感じる事は無いし、

これを見た人達がエレノーラを軽く見る事が出来なくなるだろう。

これからはもっとエレノーラを守る行動をしよう、とアーサーは思った。

こんな時間が過ごせて良かった。

最後は離れる二人だから、こんな事は望んではいけないと知っていた。

でも、離れる前にアーサーをこんな近くで感じられて良かった。

そして、こんな事は最初で最後にしよう、とエレノーラは思った。

二人は一緒にいる時間を噛み締めていたが、

相手を大切に思うからこそ、

思いは正反対を向いていた。


 今日が晴れた日で良かった。

視界に入るエレノーラの存在が木漏れ日の中に映り、

それだけでアーサーは温かい気持ちになった。

エレノーラにとっては木漏れ日の中に映るアーサーの姿が、

これが最初で最後と思うからとても切ない気持ちにさせた。


 二人で黙って階段を上がる。

二人で黙って廊下を歩く。

教室には1/4程の人がいた。

よくアーサーが使う席の側に既にギルバートとマイクがいた。

「おはよう。」

「おはよー。」

「はよっす。」

「おはようございます。」

「エレノーラはマイクの左に座ってくれ。」

「え、でも…」

婚約者候補に過ぎない私は学院ではアーサーと距離を取るべきなのだ。

マイクが言う。

「右はギルバートが守ってるが、左は俺だと守りにならないんだ。

 俺の左で俺達を守ってくれ。」

それ、洒落にならないけど確かにそうか。

「じゃあ、こちらは私が守ります。」

「頼むよ。」

「頼むぜ。」

「まかせたぜ〜。」

女性に護衛を任せていいのか、マイク。


 授業の話を4人で簡単に話した。

教室に人が増えてきたが、私の事をどうこう言う人はいなさそうだ。

一番の懸念、ノエル・アップルトンの姿がない。

聖魔法師の中で一番力の強い彼女の事は見ないでも分かる。

彼女は、あの時何故私を罵ったのだろう。

噂に聞いていた私を下に見ていたからか、

それとも闇魔法師と対峙する覚悟がなく、

綺麗事しか考えていないのか。

その人が誰かに伝える言葉がその人の気持ちを表す。

エレノーラはノエルの未来を心配しているが、

それを伝えるつもりは無い。

ノエルにとってもエレノーラはその位に他人の筈だ。


 教師が入ってきた。

ノエルと顔を合わせて何を言われるかは不安だったが、

休み?

西の方に意識を向ける。

さすがに10マイル以上距離のある大聖堂の中の

彼女を見つける事は私にも出来ない。

出来る訳ない。

出来ない筈だった。

でも、見つけてしまった。

大聖堂の地下に彼女を見つけた。

見つけてしまう理由があった。

もう、アーサーと穏やかな時間を過ごす季節が終わった事を

エレノーラは知った。


 エレノーラは挙手した。

「先生、発言をお許し下さい。」

 私がどんな気持ちでいるか、

あなたに分かるっていうの!?

そんな言葉はお腹の中から出てこない。

言いたくないから。

だからお腹が痛くなる。

そんな気持ちが、

誰かを誹謗中傷する言葉になったりする。

勿論、ただ他人を貶すのが楽しいだけかもしれないけど。

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