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3−7 騒動(2)

 時間が前後する。

件の子爵令嬢達と贈り物が1組から離れて授業の中止が決定した後、

騒然とする生徒達の中でキャサリン・フィッツレイが言い出した。

「あいつ、殿下の婚約者候補だって事で自分が特別だとでも思ってるんじゃない?

 隠蔽魔法なんて分からないのに、

 殿下に近づく女生徒を貶める為に適当な事を言ってるんでしょ。

 あの娘達が可哀想。」

キャサリンが下位貴族に同情なんてする筈がない。

この娘こそエレノーラを貶める為に適当な事を言っているのだ。

だが、1組にいる下位貴族達や商人達は急に隠蔽魔法等と言い出されるのには

危機感も恐怖感も抱いていた。

領地が広くない下位貴族達の多くは商業に投資し富を得ていたのだ。

いつ納めた物に因縁を付けられるか分からない恐怖は共有していた。

だからこの誹謗中傷はすぐ2組、3組に広がった。

もちろん1年2年の2組、3組にも広がった。


 だから翌日、出席しない2組の女生徒3人の席を見て、

3年2組と3組ではエレノーラに対する誹謗中傷が蔓延した。

すぐに1年、2年にも広まった。

捜査が続き正式発表がされていない事もあり、

1週間の間エレノーラに対する誹謗中傷は激しくなる一方だった。

良く考えれば分かる筈なのだが。

エレノーラが何も断罪されずに学院に通っているのだから

エレノーラは罪になる事をやっていないのだ。

つまり意図的にエレノーラ攻撃が行われていた。

上位貴族の信頼を失っていた教会は、

この半年の間に下位貴族や商人への影響力拡大に努めていたのだ。


「アレ、まだ学院に来てるよ。面の皮が厚いよね。」

「魔法が得意だから高慢になってるんでしょ。

 周りの人間なんてみんな虫けらと思ってるんじゃない?」

「これからも被害者が増えるんじゃない?

 あんなのを殿下の婚約者候補にしてるなんて、

 王家も何かおかしいよね。」

とさりげなく王家も貶める噂が流された。


 教会は兎も角、下位貴族もその子女達も王家を甘く見ていた。

王子と王子の婚約者候補を守る為に生徒に扮した情報収集員と

護衛が混じっているのである。

この1週間の間に王家は教会側と思われる下位貴族達を特定していた。

ジョージ王はまたエレノーラを餌に使ったのだ。

アーサーには宰相から本件に関して口を出さない様に指示が出ていたから

エレノーラを庇う事は出来なかった。

エレノーラは1年の頃はこんなもんだったから、と気にしなかった。

教会の扇動による攻撃だと分っていたし、

放置している王の意図も推測出来ていたから。腹黒め。

ただし、シンシアが逆上していた。

「エレノーラお姉様が学院に通っているんだから

 エレノーラお姉様の言っている事が正しかったんでしょ!

 なんで通ってない人達が正しくて通ってる人が悪いと思ってるの!?」

流石に今エレノーラがシンシアに近づくと彼女に危害が及ぶので、

護衛の女騎士に頼んでケイトに止めて貰う様伝えた。

シンシアは止まらなかったが。

意外と気が強いんだね、とエレノーラは微笑ましく思っていた。


 そうして1週間後、王子に対する呪いの破壊工作があった事が発表された。

子爵家はお取り潰し、商会も商会主が死刑となり、

本件に関して誹謗中傷を流していた各家は王家ではなく

貴族議会に呼び出され厳重注意を受けた。

貴族議会は王家を支持しているし、王家に叛意を抱く者を許さないと示し、

王家を貶めれば貴族達が動くという甘い望みを潰したのだ。

何せ上位貴族は殆ど教会と距離を取っていたのだ。

下位貴族を纏めて影響力を強めようとする教会に与する訳がない。

「呪いを使う者は教会の敵でもある」

と王家は明言し、教会に踊らされていた者達の目を覚まさせた。

踊らせるだけ踊らせて、梯子を外される危険性がある事を示したのだ。

そもそも本件は教会の破壊活動の一環と思われる。

当てこすって見せたのだ。


 ところが、本件はこれだけでは終わらなかった。

「それはキャサリン・フィッツレイ様が仰っていたので信じたのです。」

彼等はしれっとキャサリンの所為にしたのだ。

もちろん、王家の情報収集員もキャサリンが喋るのを聞いている。

多くの人が公の場で、王子の婚約者候補の一人の妹である

キャサリンが他の婚約者候補を誹謗中傷していた事を証言した。

もちろん、それだけでなく。

「公爵家の娘ともあろう者が、妹に他の候補を誹謗中傷させてまで

 王子妃になりたいのかしらね?」

「公爵家の品位も落ちたものね。」

「そもそも娘の教育ひとつ出来ないで公爵なんて務まるものかしら。」

「そんな公爵家出身の娘が王子妃に相応しい訳ないわね。」

そんな噂話が広がった。

もちろん、出処は教会と結んだ下位貴族だったが、

貴族夫人や令嬢達はこぞって弱みを見せた最上位貴族である公爵家を

嘲笑った。

こうしてエレノーラに続きアンジェラと二人続けて婚約者候補が貶められた。

教会側としては失敗した破壊活動を有効利用して王国を揺さぶったのだ。

勿論、フィッツレイ公爵家としてはキャサリンを謹慎させた上で

王家に謝罪し、アンジェラの婚約者候補辞退の意思を伝えた。

それでも王は慰留し、アンジェラをそのまま婚約者候補に残した。

王にとってはこの体制がまだ必要だった。

(キャサリンは正に女だな。感情だけで生きている。

 それでは貴族としてやっていけない。

 地位が高い者ほど本音を隠す必要がある事くらい理解出来なくては。)

何一つ勝てないエレノーラを憎むのは、

表向き憎む事が許されない姉の代わりとして憎んでいるのだ。

大人になって諦める事も出来ない、

努力して何かで上回る事も出来ない。

その言動をむしろ敵に利用されるのではもう領地から外に出せないだろう。

もはや怨念となったその感情をフィッツレイ公爵は軽く見過ぎたのだ。


 呪いではダメージを与えられなくても

呪いの様な怨念がダメージを与える。

人間って怖い。

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