1−11 王都を歩く
王都は最北部に王城があり、
官庁街、上位貴族街、下位貴族街、商業区域、平民街と南側に続いていく。
西側に大聖堂が、東側に魔法学院がある。
平民街の南側に外壁があり、その外にある都外集落に
マーケットがあったり、バザール等が開く。
魔法学院は下位貴族街と商業区域に接していた。
マリーと図書館で勉強中、世間話をする。
「そう言えば、エレノーラさんは王都は長いんですか?」
「昨年の秋にやって来たから、まだ1年経ってないの。」
「ご令嬢だと、外は歩けないんですよね?」
「ご令嬢なんていう大した者ではないけど、歩いてないね。」
「今度、王都の平民の生徒に連れて行ってもらえるんだけど、
良かったら一緒に行きませんか?」
えっ…
マリー以外の平民で、
私と一緒に外出したいなんて人がいるとは思えないけど…
エレノーラが逡巡していると、マリーが言う。
「話してみますね?」
あまり良い事が無い気がするけれど、
折角誘ってくれたのを断るのも悪いのよね。
この子以外に友達ができそうな気がしないから、
大事にしたいし…
「うん…駄目なら駄目でもいいからね?」
「うん、話してみます。」
話は纏まったらしく、
土曜の午後に王都を少し歩くことになった。
普段から学内の平民食堂に行っているから、
平民並の私服は買ってもらってあった。
地元を出る時、自衛用の、短刀より少し長い鉄棒も貰ってあった。
それをショルダーバッグに入れておく。
出かけるメンバーは3組の二人、2組が二人。
3組の一人が王都の住人で、
もう一人の3組の子が寮でマリーの相部屋の子だとの事。
平民は学費も生活費も無料だから、相部屋だ。
下級貴族寮は個室になるが上級貴族寮と違い、
トイレと浴室は共同だ。
3組の二人が喋りながら歩くのに付いていく。
「このモニカマーケットが王都で1・2を争う人気店で、
ただ、平民向けだけど。」
ちら、っとこちらを見る3組の子。
うん、3組でも私は馬鹿にされている様だ。
この子の名前は覚えない事にしよう。
この店は既製服を売る店で、平民でも裕福な人向けの店の様だ。
なるほど、田舎では見ないおしゃれな小物が並んでいる。
小物でも彼女達には高価過ぎて、見るだけだった。
続いて古着屋に向かう。
「古着屋で悪いけど。」
また彼女がこっちをちらっと見る。
気づかないと思っているのか、
揶揄する視線を隠さない。
ごめんね、私は人の悪意には敏感なんだ。
というか、好意的な人の方がこの王都では少ない。
微妙に流行りが分からないけど、
どうやら今私が着ている服よりおしゃれっぽい服は結構あった。
ちっ。
土曜は職人の仕事が午前中だけだから、
帰りに買い食いをする人向けの露店がまだ開いていた。
4人共クッキーを小袋で買う。
また3組の彼女がちらっとこっちを見る。
残念、私は見習い騎士だから、
粗食も立ち食いも全然オッケーなんだ。
味付けした肉を挟んだサンドが美味しそうだった。
後はスープバーくらいか…
バリエーションが少ない。
と思っていたら、王都内は治安を保つ為、
出店許可の基準が厳しいらしい。
王都の外壁の外のマーケットの方が雑多な店が並び、
人が多いとの事。
ただし、貴族邸から買いに行くなら下男下女が買いに行く位、
治安はお察し状態だとの事。
学院生徒なら問題なく王都に住めるが、
貴族や大商人・王都に事務所がある職人達に伝手がないと
王都には中々住めないらしい。
なるほど、学院で田舎者が爪弾きにされる訳だ。
大通りを歩き、直交する中程度の通りも歩いて良いらしい。
細い路地には入らない。そこは治安が保てないらしい。
通りを学院の敷地へ戻る。
途中に武具・防具の店もあった。
下期の下級魔獣討伐演習前に一度防具を見に来たいな…
園芸店もあった。
貴族相手に営業をしているなら高そうだけど、
平民相手の店は…ここでは鉢植えくらいしか育てられないだろう。
学院の通用門前で解散になる。
…もう図書室も閉まっているから、
さっきの園芸店が見たいな…
治安が良いとは言っても、
若い学院生の女が一人で歩くのは危険が伴うだろう。
警戒していると、後ろから付いてくる人がいる。
でもこれは…
くるっと振り返ると、マリーがにっこり笑った。
「さっきの園芸店に行くんでしょう?」
「よく分かったね。」
「食べ物の露店の次くらい熱心に見てたから。」
人を食い意地の張った女みたいに言うなよ!
「鉢植えが欲しいな、と思って。」
「花を育てたいんですか?」
「いえ、民間療法用の薬草。
何かあった時に役に立つ様な草が身近に欲しくて。」
マリーは曖昧に笑った。何故だ。
園芸店は肥料も腐葉土も売っていた。
民間療法用の草も売っていた。
毒消し草は地元では群生していたけど…
真剣に見ていると、マリーがニコニコしてこちらを見ている。
「何か?」
「ううん、好きなんですね、薬草が。」
「無限に畑があるなら色々植えるけど、限界があるからよく選ばないとね。」
「うん。」
好意的に見えるけど、
この子も裏では私の悪評を聞いたり話したりしていないだろうか。
心配したらきりがないがないのだけど…
良い子に見えるから、今は友達でいよう。
裏切られたらその時だ。
今晩、タウンハウスに月に一度顔を出す日だから、
園芸関係はその時に購入を頼もうと思った。
令嬢なら街なんか歩かないでしょうが。
王都紹介がないと寂しいので。
1−10があまりに出来が悪かったのでいつもより早くこそっと投稿、
いつもの時間に1−11を投稿すれば1−10を読み飛ばす人もいるのではないか作戦。