3−1 結婚式への出席(1)
夏休みに入り2週間程過ぎたところでジェシカ・ハワード公爵令嬢と
テレンス・ハットン伯爵子息の結婚式が行われる。
当日の私はいつも通りに王城の侍女・メイドに磨かれ、
ただし花嫁本人より少し簡素なドレスを纏う。
公爵令嬢の花嫁と同じドレスとはいかない。
王城の礼拝堂の副室近くの控室に向かう。
チャールズ・ハワード公爵とナディア夫人、
ジェシカとエイミーの姉妹の前で挨拶をする。
「エレノーラ・スタンリーです。
本日はよろしくお願いします。」
「ああ、世話をかけるね。よろしく頼むよ。」
公爵は私の参加の意味位知っている筈なのに
その態度・言葉には何も感じさせない。
さすがにあの腹黒王の弟だ。
夫人からも言葉を貰う。
「よろしくね。あなたにも良い体験になると良いのだけど。」
夫人は裏を知らないんだね…騒ぎがあるなら式の後だと良いのだけど。
「王城の礼拝堂に入室する光栄に浴して幸いです。」
ジェシカとエイミーとも言葉を交わす。
騒ぎがあろうがなかろうが二度と話しをする事も無いだろう二人だ。
せめてこの令嬢達に被害が及ばない様には努力しよう。
最悪そこら中をアイスボックスで囲んで被害を抑えてみせる。
夫人は親族と先に入室する為に控室を出た。
ジェシカとエイミー姉妹が他愛のない話を続ける。
平和だ。
彼女達は常に護衛に守られ、荒事とは別世界の住人だからだ。
やがて連絡係が呼びに来て、
礼拝堂副室に移動する。
司祭は表情によっては威厳も温厚さも表現出来そうな顔をしていた。
陰謀に加担する様には見えない。
助祭と思しき人物他補助が数人いる。
武装はしていないから何かあるなら短剣・暗器や毒か。
それでも私は彼等に近づく事なく、
花婿に花嫁を渡して親族の元に向かう公爵に付いて司祭から離れる。
ハワード公爵の親族とは、つまり王族である。
ジョージ王がおり、その横にいる美人がクローディア王妃だ。
腹黒王にはもったいない穏やかな顔の美人だ。
穏やかな表情がその横にいるアーサーに似ている。
…なるほど、アンジェラやエリカがアーサーに説教するのは
穏やかなだけのお坊ちゃんに王は務まらないと心配だからなのだろう。
両親と並ぶと確かにアーサーが頼りなく見える。
王は柔らかに微笑んでも曲者臭が漂う。
只の加齢臭かもしれないが。
この時、アーサーもエレノーラの横顔を見た。
俯き加減の顔に半眼をしたエレノーラには
警戒の色が浮かんでいる様に見えた。
臨戦態勢のエレノーラの姿を何度も見たアーサーには
それを気の所為と思う事は出来なかったが、理由が分からなかった。
彼はこの時まだ今日の陰謀に気づいていなかったのだ。
司祭を補助する人々が簡単な聖歌を歌う。
意外に良い声だ。こんな式に立ち会うだけはある。
司祭が簡単な説教をする。
女神を拝む教会だけに、夫は妻を大切に、とする一方、
妻は夫を立てるべき、など女は男に従うという男性上位の説教をする。
女神はどう思う事だろう。
本当にいるとすれば、だが。
兎も角、この宗教は一夫一婦制で離婚を基本的に認めない。
正当な理由を付けて教会に申請すれば認められるけれど。
理由の他に付け届けが必要な事は言うまでもない。
「新郎テレンス、汝はジェシカを妻とし、
生涯愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います。」
「新婦ジェシカ、汝はテレンスを夫とし、
生涯愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います。」
そして指輪の交換をする。
「皆さん、
結婚の誓約により結ばれた二人に女神の祝福があらん事を祈りましょう。」
教典に書かれた定番の言葉を並べる。
女神、だけだと昼の女神か夜の女神か分からないのだが。
まあ実在も怪しいからどっちでも良いか。
どうも教会関係者の言葉は何もかも疑わしく聞こえてしまう。
兎も角これで結婚式は終わり、
公爵家親族一堂の後ろに付いて退出する。
その時が近づいているかもしれない。
最悪なのは即死では無い。
何らかの冤罪で教会に渡され、拷問と薬剤で心を失くした後、
魔女として焼き殺されるのが最悪だろう。
次いで苦しみながらの死。
許容出来るのはシンシアの再現か。
王達はまさか私がシンシアと同じ目に合う程度で済むと思っているのか。
退出してすぐ、王族達には近衛の護衛が付く。
私には二人の女性騎士が付くが、
彼女達は今は侍女の服を着ている。
理由は結婚式に女騎士の姿は似合わないから、と説明されたが、
王族には普通に騎士の護衛が付く。
ふふふふ。
女騎士達にも今日の陰謀が伝えられており、
わざと守りを薄くしたのだ。
彼女達も帯剣していない。
あははははは。
この世の何処に私の味方がいると言うのだろう。
披露宴会場に向かう両家関係者とは別の方向に女騎士達と向かう。
控室に置いた小物入れを掴んで、始めに来た通路を戻る。
さりげなく向こうから礼拝堂に向かう者達がいる。
先頭と最後尾に修道騎士が、
その間に風魔法師と聖魔法師がいる。
すれ違い様に修道騎士の後に続く風魔法師が声をかけながら
右手をこちらに回す。
「そこの君…」
彼はその後の言葉を続ける事が出来なかった。
私は彼に右手を向け、その手には円錐状の氷が握られており、
その円錐の先端が彼の眉間に突きつけられたからだ。
投稿が遅れて申し訳ありません。
いつメンテ終わったのかなぁ…




