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ポリコレAI

作者: 空川 億里

 俺は一応職業作家だ。21世紀後半になっても人間が書く小説が存在し、人間の職業作家もまだいたのである。

 なんとかデビューしたのはいいが、売れてる作家とは言えず、苦労していた。

 サラリーマン時代は早く専業作家になりたいと感じていたが、会社員なら安月給でも安定した収入がある。小説家は、そうはいかない。

 勤め人時代はやな奴もいたが、仲のいい同僚とバカ話して、盛り上がることもあった。今は、基本1人でホロモニターに向かう日々である。

 俺は頭にトロード・メットをかぶっていた。俺が脳内で考えたことは文章になり、眼前のホロモニターに映しだされる。

 その連なりが、小説となるのだ。その時突然デスクの上にあった3Dフォンが、鳴り響く。

 3Dフォンの受話器表示に手を触れると、俺の担当編集者の白波瀬しらはせの顔の立体映像が浮かびあがる。

 白波瀬は73歳のオッサンで、2年後に定年だった。今では合法になった大麻タバコをくわえている。その表情は苦く、剣山でも踏んだような顔をしていた。

「どうしました?」

「君が先日送信してきた小説だが、ポリコレAIの判断で、はねられた」

 俺が送った小説には、小人症のキャラクターが出てくる。無論差別的な描き方はしてなかった。

 アメリカのテレビドラマや映画には普通に小人症の役者さんが出てくるのに、日本は滅多に出てこない。

 そんな状況に映像ではなく小説だが、風穴を開けたかったのだ。白波瀬も、そんな主張に理解を示してくれた。

 が、問題なのはAIだ。今も日本は民主国家で検閲はないはずなのだが、全ての出版物はポリコレAIにかけられて、差別的な内容が含まれていたら発表できない。

 俺も差別には反対だ。人種差別、性差別などあらゆる差別は問題なのは言うまでもない。

 が、小人症の人を登場させることもできないというのは問題ではないか。

「何が問題なんですか?」

 俺は、聞いた。

「ポリコレAIの判断では、小人症の人物を出すこと自体が問題だそうなんだ」

「でも、それおかしな話でしょう」

「私も、全く同意見だ。でも残念だが、日本の与党と野党第1党が、このAIを支持しているのは君も知っているだろう。世論調査でも7割の人が支持している」

「だったら今度は、別の原稿を送信します」

 俺は量子テレポート通信で、白波瀬のメアドに作品を送信する。その短編にはピグミー人が出ているのだ。

 ピグミー人とは中央アフリカに住む民族で、平均身長が1.5メートル以下の小柄な種族だ。無論差別的に書いたつもりはない。

 昔ある漫画家がピグミー人を作品に登場させようとして、編集者に断られたという話を、何かで読んだ記憶がある。

 まだポリコレAIが登場する前の話だ。無論その漫画家も、差別的な意図があって描こうとしたわけではない。俺は白波瀬にピグミー人が出ているのを話した。

「ともかく読んでみる」

 編集者はそう回答する。




 翌日再び白波瀬から3Dフォンで連絡があった。

「今度もダメだった。ポリコレAIにはねられた」

「わかりました。仕方ないです。これからは普通の日本人だけを書きます」

 そもそも「普通の日本人」なんて存在しない。日本人の数だけ個性があるからだ。だが、出版できないことには、しかたない。

「悪いな。そういえば、今度またポリコレAIがバージョンアップされるそうだ」

「どんなふうにですか?」

「まだ詳しいことはわかってない。3日後つまり9月1日からと聞いてるけどな」

「そうなんですね。まあ、どうでもいいです」

 



 俺は「普通の日本人」しか出てこない短編を書きあげると、いつものように量子テレポート通信を使って原稿を送信する。

 3日後の9月1日に、白波瀬から3Dフォンで連絡があった。

「君の原稿、ポリコレAIにはねられたよ」

「どうしてですか?」

 俺は思わず大声を出す。

「今回は小人症の人も、ピグミー人も出してませんけど」

「君だけじゃない。他の作家もことごとく、はねられた」

「どうしてですか?」

 俺はびっくりして聞いた。

「ポリコレAIのバージョンアップで平均身長の低い民族は、差別的な内容が含まれなくても出せなくなった。日本人は白人より平均身長が低いから、日本人というだけで作品に出せなくなったんだ」

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― 新着の感想 ―
強烈な皮肉の効いた作にて素敵。まもなく本当にこういうAIは出てきそうで怖い。
[良い点] いかにもあり得そうで、笑っちゃいました。
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