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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
1章 冒険の始まり
8/48

1 タヤスガイの採取


「ようきたのう。ナック。ゆっくりして行くがええ」


 ジーナが見たことないくらいメロメロの顔であたし達を出迎えた。というかナックをだ。

 あたしとシルバはチラッと見ただけ、シルバの眉はダダ下がりだよ。


「ばあちゃん、元気そう!1年ぶりだよね」

「そうじゃの、トリスタンに遊びに行ってからそれくらいか。ナックは幾つになった」

「もうじき11歳だよ」

「ほう、そうかえ。子が大きくなるのは早いもんじゃのう」

「ねえ、今海で何が捕れるの?」

「ああ、キタゴとトラジマエビかのう、カンツに聞くとええ。あれは漁を仕切っておるでの」

「へえー、エビは浜で捕れるのかな、楽しみだよ!」


 早速浜に向かって駆け出すナックの後にシルバが続く。


「ホッホッホ。相変わらずじゃのう。クレハ。孫をよう連れて来てくれた」

 あたしはジーナにひとつ手を振るとナックとシルバを走って追いかけた。左に大きな皮がある砂浜は貝やエビの宝庫だ。5人の子供が貝掘りをしている。


「ねえ、何が捕れるの!」

「タヤスガイだ。小さいけどいい出汁が出る。ほら、こんなのだよ」


 大きな平箱を指すので見ると中は4つに仕切られ、前半分に黒っぽい小さな貝が一面に入っていた。あたしの小指の先より少し大きい程度、本当にちっちゃい。大きいのでも1セロあるかないか。

 みんなの手元を見ると掌二つ分くらいの小ぶりの網と小さな片手持ちのショベルを持って、掘った砂を網で振るっているようだ。

 網に残った粒々をバケツに汲んだ海水で洗うと、それをまたさっきの網で掬い上げたものを箱にあけているんだね。浜の仕事はあたしも初めて見たよ。


「後ろは空いているけど何を入れるの?」

 ナックが聞いた。


「あとでトラジマエビを獲るんだ。もうちょっと日が高くなったら始めるよ」

 答えたのはニックスだ。リンドーから一緒にやって来た弟分。もう下の子の世話をしてるんだ!チビ(レイラ)の面倒もよく見てたっけ。


 んー。あたしにもできるかな?掘るのは砂をガボッと上げる、振るいはどうしようか?

 最後に海水で洗ってるんだよね?ちょっとやってみよう。


 みんなから離れたところで両手を広げたくらいの範囲で10セロくらいの砂を浮かせた。それを手で押して海へ膝まで入る。

 ちょっと冷たいね。


 砂の塊を海水にゆっくり下ろすと波が砂をグズグズにしようとするのがわかる。

 貝の小さな粒の感触も伝わって来た。砂だけ放しちゃえばいいんだよね?

 あ、ちっちゃい貝が幾つか逃げちゃった。

 難しいな、これ。

 お?いいんじゃない?砂だけサラサラと波に洗われて……


「クレハ。何してるの?水はまだ冷たいよ?」

 声にビックリしたあたしは力が霧散して、せっかくの貝を海に取られてしまった。


「ああ!もう、ニックス。いいところだったのに!もう1回やってみる!」

「ええ?何してたの?」

「タヤスガイ捕りだよ。見てて」


 首を傾げるニックスの前でさっきと同じように砂を浜から引っこ抜いて、海の波打ち際へ押して行く。

 冷たい海に膝まで入ると砂の板をゆっくり沈めて行く。ニックスが不思議そうに隣で見ているがとにかく集中だ。


 波が砂を洗って行く。貝の粒の感触はさっきよりもハッキリ分かる。うまく行ってるぞ……

「ねえ……」「シッ!」


 もうちょっと。

「ねえったら?」「もうちょっとなの。黙ってな!」

 こいつ、リンドーであれだけ仕込んでやったのに堪え性がなくなったな。


「よーし。こんなもんかな?」


 上げてみると貝は両手二つ分。少ないなあ。

「わっ!タヤスガイがあんなに。クレハ、すっげえ!」

「そうかな?面倒な割には少な過ぎない?」

「網でやると一回に10個かそこらだよ?あれ何個あると思う?」

「あー。数えるのは大変そう」

「朝から5人で捕った分の半分はあるよ。クレハ、すっごい!」

「うーん、そっかー。あたしは試してみたかっただけだから。ほら、これ持ってって箱に入れるよ」


 朝からってことはもう2ハワー以上もやってるんだ。5人で1ハワーかかった分があたしのただ1回、それもお試しでやったことがこの量だと言う。このままやっていいんだろうか?

 あたしの捕った貝には違うのも少し混じっていたがどれも美味しい貝だ。ニックスがニコニコ顔で箱の中で分けて行く。


「あたし、ジーナの用事思い出しちゃった。行くね」

「ちょっと待ってよクレハ」

 そう声をかけたのはナックだった。


「僕も行く」


 砂浜を歩いて戻る途中でナックが根掘り葉掘り聞いてくる。邪険にもできずポツリポツリ答えていると、

「じゃあクレハは網で振るわないで水で洗ったんだ?僕もやって見たけど、濡れた砂を網の篩で振るうのは大変なんだ。貝がもっと重ければ良いんだけどね。でもバケツで洗うと一瞬だよね」

「そうなの?」

「うん。でもバケツで洗うと砂が溜まりすぎてすぐ使えなくなる。クレハがやったみたいに海で洗うのは冷たくて長時間は無理だと思う。だからああやってチマチマやってるんだろうね」

「あー。水は結構冷たかったよー。あれをずーっとってのは大変だねー」


「砂粒が通らないもっと目の細かい網があるといいね。そしたら溜まった砂だけ外に捨てられるから」

「バケツの中で今の網で砂ごと貝を洗って、溜まった砂だけバケツから出すの?砂が通らない網って……布?」

「いいかも!バケツに合わせた布の袋!」


 必要は発明の母というそうだが、こうなればいいなと思うことも実は簡単ではない。

 困難があってもすぐに慣れてしまうのが人間だ。冷たいのが当たり前。お前たちのそれが仕事だと言われてしまえば、そうかなと納得して過酷な作業でも慣れてしまうのが人間なのだ。

 またその必要を汲み上げ、なんとかしたいと思う人というのも少ないらしい。所詮他人事なのだ。だから、必要が発明どころか改善に結びつくことすら滅多にあることではない。

 振り返ってみると良い。あなたは今月、幾つの生活上、仕事上、なんでも良いが幾つの改善をしたのかを。そして幾つの不便をそのままにしたのかを。

 また改善されたものを見て、それが良いものだと判断できる人も少ないのかも知れない。


 話が逸れた。ナックとクレハは真っ直ぐにジーナの下に向かった。

 ジーナは孫の話をうんうんと聞いていた。


「クレハ。面白い使い方をしたね。砂を水に入れて砂粒だけ落としたのか。確かに砂のままじゃ貝は分けられないねえ。けど、よく大きさが分かったね」

「んー?土とかばらばらになるものって薄い圧縮で囲うでしょ?」

「ああ、そうじゃの」

 ジーナの脳裏には魚を掬う水の網があった。


「海に下ろすと水が当たるよね。ざぶざぶーって」

 その動きにもジーナは覚えがある。網を水中に沈める間にも海水を潜しながらなのだ。泳いでいる魚すら沈める時は通して行く。


「そしたら砂が水で解れてパラパラ落ちてくんだけど、貝とは当たる感触が違うんだよ?なんとなく」


 ジーナの場合は網目の大きさを先に決めてしまう。だが見ている前なら危ない魚だけ網から落とすことができた。感触だけで同じことができるのか分からないが、クレハにはできるのだろう。

 そういう曖昧な部分は先代の説明にも多いし、自分でも説明できないことは多々あるのだ。


「ふーむ。今度ワシもやってみるとしよう。それで、ナック。どうしようというのだ?」


 話に付いて行けずキョトンとしていたナックにジーナが振る。


「えっ?ああ。あのね、バケツの中に布の袋をかけるんだ。でね、海水を汲むでしょ?

 で、今やってるようにショベルで網に砂を入れて、バケツの水の中で振るうの。貝はそれで捕れるから箱にあけちゃうでしょ。でも3、4回でバケツに砂が溜まって浅くなっちゃうと思う。

 そしたら布の袋をバケツから出して裏返す。水は抜けてバケツに落ちるから砂を払った袋をまた中に敷くんだよ。簡単でしょ?」


「ほう。カンツとネギラに袋を用意させよう。バケツも増やすか」


 この話は網にも取っ手をつけて水の中で振らずに済むように改造することになった。

 孫可愛さに暴走するジーナ(村長)にサイナス村が振り回された格好だ。


 貝掘りは今までの5、6倍捕れるようになった。サイナスの特産品がまた一つ増えた瞬間だった。

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