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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
北の峠
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10 ネロデールスの休日

 ネロデールスの街もすっかりお馴染みだ。出たり入ったりをこんなに繰り返すってのは、何か縁でもあるんだろうか?

 もう何度目かになる露店巡り。

 最初に見た木彫り人形の店に寄ってみた。こここ人形は仕上げが丁寧で、美しいもの、可愛いものが多いってのは最初に分かった。あの邪魔な気取り屋が現れるまでは。


 店先に羽根を広げて今飛び立とうとする鳥が居た。白と黒に彩色されて頭のてっぺんだけ赤く塗ってある。

 羽の一枚一枚まで細かく刻んであって、まるで生きているかのような姿にクレハは目を奪われた。


 しばらく屈んで見入っていたが、離れ難く思いながらも店内へと移動する。

 右手に幾つも丸くデザインされた動物たちが並ぶ。これは前回も見たものだけど、やっぱり可愛いねえ。木彫りなのに、触るとふわっとした手ごたえがあるんじゃないかと思わせる、どうやったらこんな仕上げができるんだろうか?

 ウサギにキツネ、タヌキにネコ。

 うーん、可愛い!


 その奥に大きめの虫籠みたいのが見える。奥なのでちょっと暗い場所にあったのは……


 何これ!


 籠の中ではズボン姿の少女が、自分より高い位置を流れるように蹴り上げていた。

 丈は30セロに満たないし線の細い少女だけれど、ピシッと伸びた蹴り足の先、何かを今、突き上げたと言う足刀のしなやかな様子。一方で軸足は細い脚なのにしっかり地に根を張って、安定感がある。

 逆に振られた右腕の先には細身の剣が伸びている。剣を持って上段に蹴ったらこんなふうに伸びるんだろうか?

 一瞬そう思ったけど、圧倒されるような姿勢の美しさに飲み込まれた。


 髪は短め、耳がやっと隠れるくらいに切り揃えられて、今のあたしよりは少し短いくらい。

 顔を覗き込むと目の窪み、鼻は緩い出っ張り程度だけれど、顎の線が優美に見える。

 わざと顔は曖昧に彫ってあるようだ。


 彩色されていない木目の鮮やかなその人形は、表で見た飛び立つ鳥の姿と同じ、生命力が溢れているようにクレハには見えた。


 動くことができずしばらく見惚れていると、背後から声が掛かる。


「あなた、もしかしてクレハちゃん?」


 またこの人か。その声はトモルさん。

 あの嫌な気取り男の姉だ。この人は嫌いじゃないんだけどね。


「久しぶりです。今日、お休みなんで街を見に来ました」

「あら、そうなの?

 また随分陽に焼けちゃって、お仕事頑張ったのね。でも女の子なんだから、ツバの広い帽子を被って、あんまり焼かないようにしないと」

「あたし、どうもそう言うの面倒で……」

「そうね。だんだん気になるようになるわ。でも焼きすぎないように気を付けてね。

 その子、すごいでしょ?

 彩色はまださせててもらえないんだけど、宣伝を兼ねて置いてるの。綺麗な娘よねえ」


 知り合いの作品かな、確かに凄いけど…

「彩色って?」


「ああ。木彫りは色をつけて売るのよ。この店で色をつけてもらってないのはその娘だけ。まだ一人前と認めてもらえないってことよ。

 でも店に飾るなんて見習いにできることじゃない……

 どう言ったらいいんだろ、こんなこと初めてだから……」


「この少女の蹴りは力がありますよね。生きてるぞ。って言うか……

 表の飛び立つ鳥の彫り物にも迫るような……」

「まあ!デリクラッド親方の作品と比べるなんて!

 でも、そう思う?

 あたしもそんな感じがするんだけど、半年にもならない弟子だもの、あの親方は厳しい人だしきっとまだ伸びると思ってるんだわ……

 この店にこうやって飾れるんだもの」


 あたしは腰の剣を抜くと

「ちょっといいかな?

 人にもよるんだろうけど、この長剣の向きにあたしは違和感があるんだ。確かに蹴りには反動が欲しいから腕は後ろに回るんだけどね。

 剣は基本前に向かって構えるから、流れの中で蹴り技を出す時も振り回したりしないんだよ。

 あたしがこう構えて、蹴りに行くと剣の先は少し開くかもしれないけど、前を向いたままなんだ。

 ほら。こうして…こう!

 こうして…こう!

 どう?分かる?」


「クレハちゃん!凄い!

 やっぱり強いのね!エイセルに教えてあげないと!」

「ちょっと待って。何でそこでエイセルが出てくるの?」

「だってこれを彫ったのはエイセルだもの」

「えーっ!あの気取り男が!?」

「あはは。気取り男!

 さすがねえ、クレハちゃん!

 あたしとネルカ姉さんもエイセルには手を焼いていたのよ。口ばっかりで何にもできないやつでさあ。

 でもね。デリクラッド親方のとこで修行するようになってから、人が変わったみたいでさ。あたし、応援してるのよ」


 へえー。そんなことってあるんだ。


「まあ、どこまで続くかって気もするねえ。頑張るように言っといて」

「分かったわ。いろいろありがとう」


 あたしはその日、あまり数も居ないこの街の知り合いには、トモルさん以外会わずに露店巡りを愉しんだ。


 知り合いって?

 遭遇率が高いのはダントツでエイセル姉弟だよね。

 それにいつぞやの見回り兵でしょ?

 それに何たっけ、領主の次男と取り巻き?


 まあ、明日はチューブ駅で移動だからね。気が向いたら跳んで来るかもだけど。


   ・   ・   ・


 今日もシルバに早朝から起こされ、朝ご飯にあとは移動の準備。トラクの幅出しを戻すから、お風呂場とベッド前は片付け忘れのチェックをしっかりとやっとかないとね。

 お風呂場の脱衣所に置きっぱしたナックの下着が夕方広げた時に穴が空いてたとか、ベッドの前に椅子が寄っててテーブルとベッドで挟んで壊れちゃったとか。

 この半年、いろいろあったからねえ。


 てか、このトラクでチューブ探索に出てまだ半年かあ。

 もっと長いように思うんだけどねえ。


「よろしければ出発しますよ?」

「あーい」「僕も大丈夫」


 あたしたちの返事を受けてトラクはゆっくりと動き出す。

 トラク街道に出るまではスピードなんか出せないんだ。20メニくらい揺られながら駐車場を出て街中を走る。


 またいつか来るからねー。


 街を出ると、ゆったり曲がるトラク街道をわずか5メニ。森の中の最初の分岐を右に曲がるとそこは左右に山が迫る駅通路。白っぽい箱型の通路の天井にはポツポツと四角い照明が並んでいる。


 来た時は点いてなかったはずだけど、モノ班が整備してくれたのかな?


 そのままずーっと奥へ50メル、チューブ列車の停まる乗り降りの通路が見えた。トラクを左に入れて、角のパネルを操作する。一つ先の駅はクレイドールだ。


「10メニほどで参ります」

 シルバが言った。


 でも何でわかるんだろうね。

 この間も聞いたけど教えてくれなかったし。


コォーーーー

 右手から音が近づいて来る。


 そっちを見ると光が接近して来る。どんどんひかりは近付いてくる。

 ヴヴヴゥーーー。


 列車の減速が始まった。


 停めたトラクの辺り、余裕を持って手すりの壁と列車の壁がにゅううっと開く。列車の床はこちらの床とぴったり同じですきまはほとんどない。4組8本のタイヤを真横まで回し、トラクはそのまま列車内へ移動した。


 列車にトラクがすっぽりと収まるとシルバが乗り込んで来る。音もなく壁が閉まると窓が目の前にあった。

 いつ見てもこの壁の動きはただただふしぎだ。


 列車は静かに走り出す。通路が遠ざかり、車窓には車内の明かりに浮かぶチューブ内の影がただ流れていく様だけが見えていた。速度が上がるにつれ、ぼやけたそれも灰色のようになってしまう。


 予定では到着まで40メニ少々。

 集めた石でもいじってようか。

 

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