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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
北の峠
47/48

9 ホウさんちの盆地畑

 なんとか木の伐採は終わらせた。玉切りした天然木はあちこちに山になってる。

 労のひとたちが橇で地下へ、丸太の細いところを随分運び込んでいたけど、あれでキノコを作るらしい。


 でもって山裾には灌漑用の水路と、4メル幅の道路がぐるっと作られた。畑の真ん中にも5本ずつ水路は走っているから、作物の水やりもしやすいんじゃないかな。


 でも20日くらいこの盆地で作業してて休みが1日だけって酷くない?

 しかもやることが山の中に分け入って、木の実取りだもんね。


 いや、あの緑の大粒の実が美味しいジャムになったのはいいんだけどさ。



 ・・・あれはいいお天気の日だった。


 貯水地が一段落したんで、珍しくシルバが休みにするって言い出したんだ。いつもならあたしが休みって宣言して、ああだこうだ言い合って、あたしがえい、や、で押し切る流れなのにね。


 労のひとの案内で東の枯沢に分け入ったんだ。太い木がぽつりぽつり立つ中、湿地でよく見る細い透き通るような黄緑の葉っぱが生えていたから、地面の下のそう深くないところに水があるんだろうね。

 あの草はちょっとアク抜きしてやればシャキシャキで美味しいらしいけど、今日は木の実が目的だよ。


 沢からちょっと左右に登るだけで木の種類が変わる。幹が茶とクリーム色のマダラ模様、ギザギザで縁取られた大きな葉っぱ。その葉っぱに隠れるように3セロくらいの大粒の緑色。

 あんまり緑はまだ固くて、ちょっと茶色がかった実が食べ頃らしい。


 クロとシルバが木の下で古いシーツを広げて待ち受ける。

 ナックが木に登って下の方から実を落とす。

 あたしは当然、浮遊で木のてっぺん辺りの実を狙うんだ。ナックが下にいるけど、まあ、気にしない!


 ある程度溜まると労のひとが背負う籠にザラザラ空けて、5、6本も集めると次はシルバの籠だ。

 それもいっぱいになると、もう少し登る。藪蚊(やぶか)を払いながら登って行くと木肌の赤い幹が何本か見える。


 シルバが労の人に教えてもらったもう一つのお楽しみ。

 あたしの拳より一回り大きな丸く黄緑の実。林檎じゃないんだなあ、これが。

 ちょっと酸っぱくて果肉固めなのは一緒だけど、ピンク色でお尻みたいに溝があるんだ。

 熟しちゃうとベタベタになるんだけど、固いうちにシャリシャリ食べるのが美味しいって知ってた?


 あたしは知らなかったんだよなぁ。

 ジーナに一度だけ買ってもらったやつはもうベタベタだったんだよ。


 で、固くて美味しそうなところをたくさん落として、クロのおっきな背負い籠に入れたんだ。


 夢中で採ってたから時間経つの早くって、もうお昼?って感じだったよ。


 ちょっと広い場所があったんで下草を薙ぎ倒して、持って来た敷物の上に座りお弁当。木漏れ日の中で風に吹かれながら食べるのもいいよね!

 たまにはだけど!



 で、まったりした後はみんなでトラクへ跳んで、緑の木の実をザブザブ洗ったんだ。

 このところ木の伐採ばかりしてるから、甘味(グルコース)は売るほどあるもんね。ジャムを作ることになった。


 シルバが今回のために作った大鍋。50セロの深さ80セロってどんだけよって感じだけど、その上で金網ザルに擦り付けるように実を潰す。


 潰れた実は鍋に落ちて、小指くらいの小さな種がザルに残るんだ。種が溜まったら別の鍋に空けてまた実を潰す。

 種の鍋だって小さい鍋じゃないんだけど、終わる頃にはこっちも一杯。もう一度金ザルで濾すとまだ結構果肉が出てくる。


 もう、両手をデロデロにしながらナックもあたしも頑張ったよ。


 ここまで実を取ったら種は水洗いして外で干しておく。後でホウさんたちが水捌けのいい堤防にでも撒くそうだ。


 そうそう。この緑の実、コワクって言うらしい。生で食べても結構甘いのに、そこに大量の甘味(グルコース)を追加だ。

 コンロをトラクの、普段居間に使ってる広げた床に置いて、鍋を載せたらコトコト加熱だ。


 鍋の上に山のように入れた甘味だけど、温まったらみるみる溶けて追加を入れるんだけど、ちっとも嵩が増えないんだから不思議だ。

 それを焦げ付かないように混ぜ棒で混ぜる。混ぜ棒は10セロくらいの幅があって、ヒダのついた帯がゆるゆる回るやつだ。


 シルバが言うには焦げるのは鍋の底だから、上と下の果肉を入れ替えてやればいいんだと。混ぜ棒は幅のない方向で「斬るように」混ぜるんだそうな。

 それであたしはジグザグに鍋の底を満遍なくなぞっているわけだよ。ナックとは20メニ交代で、延々と3ハワー。

 ナックと二人で混ぜに混ぜていると、嵩もほとんど鍋一杯あったのが10セロ近くも下がって来た。


 小さな丸窓をいくつも開けていても狭い車内だから暑いのなんの。二人とも汗だくだよ。いくら美味しいジャムのためってもねえ。


 それでも十分に煮詰まったと言うので、火を止めて蓋をしたら自然に冷えるのを待つ。

 明日の朝には味見くらいできると言うので、ここは諦めて夕飯だ。甘い匂いで刺激されてお腹はぺこぺこだよ。

 シャワー浴びて早くご飯にしよう。


 デザートはシャリシャリのピンクピーチ!採りながらいくつか食べたけど、やっぱり美味しい!


   ・   ・   ・


 盆地の畑は地形図で見るとほぼ丸だけど、おおよそ70ケラル四方もあった。

 最初見た畑も広いと思ったけど、その何十倍も広くなった。


 水は確保したから後は肥料かなと思っていたら、洞窟からぞろぞろ労のひとたちが何か、手押し車に臭いのきついものを積んで出てくるんだ。


「シルバ。あれって何なの?

 ちょっとすごい臭いがしてるよね?」

「臭いはわかりませんが、幼生の排泄物だそうですよ。季節一つ発酵させてあるそうです。

 肥料としては申し分ありませんね」

「へえ。そんなすごい肥料になるんだ。でもあんな臭いんじゃあね」

「それほど酷いですか?私は嗅覚がないので分かりませんが、通常、発酵による肥料はより長く発酵させることで効果も高くなり、匂いも薄くなると記録にあります。ホウさまには試していただきましょうか」


 しかし、労のひとって何体いるんだろ?

 このだだっ広い盆地のどこを見ても、労のひとだらけだ。


「私が先日聞いたところでは10万7千と言ってましたよ。ここには2500ほど出て来ていますね」

「10万……!」

 そんなにいるんだ!でもって2千以上もここに居るの?

 ふえぇー。

 気がつくと外周の4メル道路には兵のひとの姿もみえた。


 警備もちゃんとしてるんだねえ。


 

「これで依頼された作業は終了ですね。明日はネロデールスに戻って1日休んだら、チューブ列車で次の駅へ移動しましょう」

「わー、久しぶりの休みだー。

 お買い物が楽しみだよー」

「クレハって何を買うつもりなの?よく露店に出かけてるけど」

「えー?可愛い人形を探してるよ?

 あとは服とか食べ物とか?」

「その割に下の引き出しに何も入ってないし、服だって大してもってないんだよなあ」

「何よ!あんただって似たようなもんじゃない!」

「僕は男だからね。おしゃれするわけでもないしさ。ミットに買ってもらった服で充分間にあってるし」


 ぬう!くっそ生意気なナックめ!

 見てろよ!

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