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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
北の峠
46/48

8 ホウさんちの貯水池

 エスラト街道を辿って最初の交差点。左への分岐がある。道標のようなものは立っていないが、その先を見ると木々の間に白く高い門が見える。木々の緑の濃い時期はそこまで見えないかもしれない。


 『ホウさんちの橋』とあたしは呼んでいるけど、この先はなんて呼ばれるんだろうか。


 橋に差し掛かると道は左へ曲がって、左右に桁を吊る懸下索(サブワイヤー)の規則正しい列を見ながら600メルもある長大な吊り橋を渡って行く。

 渡り切ると右手には(うね)が整然と並ぶ畑、左手には深い森があってその先は行き止まりだ。


 が、道は続いていた。トラクは右に大きく膨らんで、8本あるタイヤを全て大きく左へ切った。


 大岩にポッカリ空いた洞窟と見えた暗い穴。その両側に異形のものが4体。

 『兵』と呼ばれる警備のものだ。


 トラクの天井が(こす)るかと思われたその穴にすっぽりと入って、道は急角度の下り坂へと続く。前照灯を頼りに広いとは言えない坑道を降って行く。


 坑道も左右には、背の低いゴロンと言う擬音の似合う『労』と呼ばれるものたちの姿があった。

 ひとしきり降ると思いもかけず道は水平に戻って、トラクが停車した。ここで労のひとが案内に乗り込んできた。


 車内灯に浮かび上がるその姿は、頭と手足は濃い褐色のツルッとした肌で頭には小ぶりの丸いツノ、白目のない小さな黒い眼が一対、胸から腹にかけては濃茶の短毛がびっしりと生えている。

 6本の脚はヒト族とは見間違いようがない。


 言葉はシルバを介して交わしている。あたしとナックは特に話したいこともないので、(もっぱ)らシルバが話しかけ、トラクの進路を操っていた。


 元々がトラクの走路ではないので、屈曲部があったり狭かったりで、あまり速度は出せない。でも路面はよく均されていて振動は僅かだった。

 斜路の勾配がきついのには閉口したけど。


 地下の迷路をどのくらい走っていたろうか。斜路の昇り降りを9回数えたところで最後の登りだったらしく、前方に明かりが見えた。


 最後の登りをトラクは進んで行く。

 前照灯に慣れた目にはただただ眩しかった。



 数メニも経ったろうか、目がやっと慣れた頃

「ナックさま、クレハさま。地形図が取れました。ここは37ケラル離れた山中、盆地といってよいでしょう。中央の南西方向に川が一本ありまして、平地部分は森の中にもまだ広がっています」


 そこでシルバが一旦話を切り、労のひとと相談を始めた。

 窓から見える広大な畑。遠くにぐるっと森が見えている。


 あたしとナックは早速ボードを覗き込んだ。

 シルバの言う通り歪な丸い平地に川が一本見える。周りは全部森だ。


 セキガイモードってのに切り替えるとさっきより大きな丸っぽい平地をぐるっと山が囲んでいた。

 山の切れ目は3ヶ所あって南西が一番広い。次が北北東でこれを結ぶように湾曲した川が流れている。もう1ヶ所は東にあって山を縫うように曲がりくねった沢になっているようだ。


 ホウさんの出口は南にあるってとこまでは分かった。


「森が見えるように絵を重ねようよ」

 ナックがボード右上のメニューを操作して、最初の絵を地形図に重ねた。


 コイツ、あの吊り橋からずっとボードで図面と睨めっこしてたからなあ。あたしよりも使い方に詳しいんでやんの。


 確かにこの表示ならわかりやすい。川向こうの北東側は開墾していないようで荒地になっている。

 ホウさんたちは荷を持って川が渡れないのだろう。


 一方手前は森の縁まで開墾され、縞模様を描いて畝が並んでいた。東の枯れた沢と見える方からも水が流れ込んでいるのだろう、川沿いとそちらの緑が濃い。

 そして大きく取り囲む山裾は森のずっと奥だ。盆地のなかで畑はごく一部。この盆地はもっともっと広いと言うことがよく分かった。


「このまま8メル幅道路を伸ばして、中央に橋を一本架けることになりました。

 橋の長さは400メル程ですが、これは川から立ち上げますので、両側の岸辺だけ埋め戻しをお願いします。道路は森まで伸ばしますので、その先の伐採をお願いします。

 木は列で残し防風林としたいと思います。クロに残す木を指示しておきます」


 てことは、あたしは伐採かー。

「じゃあ、クロ連れて先に行ってるよ」


 外へ跳ぶとクロが固定ベルトをトラクの後部ドアに戻しているところだった。準備はいいかな?

 クロは大きなバックドアを跳ね上げ、資材庫からロープの束を取って腿の収納に入れ、でかいチェンソーを引き出した。

 バックドアを閉めるとあたしに向かって親指を立てる。表情の無い顔がニカッと笑ったように見えた。


「ようし。行くよ!」


 川向こう、突き当たりの森の前に跳ぶと、クロが腿の収納から紐を取り出した。左右を見回して次々と10本ほどの木に巻き付けて行く。


 あれを引っこ抜けばいいのかな?


 クロがあたしを振り返り、印の紐を指したあと両手でバッテンを作った。

 抜いちゃいけないやつらしい。


 そのあと木の列の前へ出ると、仕切りを入れるような仕草のあと山へ向かって大きく手を振った。

 そっちは抜いてもいいんだろうか。


 そのあとも7メル程の幅でどんどん紐を巻いて行く。あたしはその後を付いて行った。

 どうやら直線状に木を残すらしい。中央に切れ目があるのは、そこを川を渡った道路が通るようだ。

 そっか。これが防風林かあ。


 正面の林の紐を巻き終わると山裾をぐるっと回って行く。

 斜面を5メル程出すようにして木を伐採するみたいだね。あそこは何かに使うつもりなのかな?


 上流も同じように防風林を残し、山裾まで伐採して川のすぐそばに貯水池を作るらしい。

 下流側は全部畑だね。


 川のこっち側は紐で残す木の印が終わった。

 じゃあ、やるよー。引っこ抜いた木は遠慮なく荒地に倒して行く。クロがロープで引いてくれるからあたしは持ち上げて、合図を待って下すだけだー。どんどん行くよー。


 空き地に50本くらい並んだらクロのチェンソーの出番だ。大体は放っておいても玉切りして行くけど、たまに予想しない動きでチェンソーの刃に食いつくやつがある。


 でもまあ、あたしはちょっと休憩。

 上空からこの盆地というのを見に跳んだ。


 ナックとシルバは労のひとと川向こうの畑を見回り中、作業トラクはと言うとシルバの遠隔操作で道路を400メルも終わらせてたよ。あの分だとお昼には川まで行くんじゃないかな。


「ねえナック。上流側に貯水池作るっていうけど、川の方が畑より低いんじゃないの?

 どうやって畑に水を廻すの?」

「そりゃあ手桶で汲んでさ」

「ウソだぁ!んな訳ないよ。ほんとのこと言いなよ!」

「あっさりバレたなあ。上流側の50メルくらい堤防を嵩上げするんだよ」


「嵩上げ?」

「堤防は3メル高くする計画だね。でもって、川の中に堰を作って水位を上げるんだ」

「ふうん?でどうするのよ?」

「水面が高くなるから貯水池には勝手に水が流れ込むよね?

 貯水池の周りも畑より3メル高くするから、池の水面も高くできるんだ」


「あー。そっか。水路を作れば自然に水が回って行くんだ。

 でもさ、水が減って水路に流れていかなくなったら?」

「そうなれば手桶の出番かなあ。ポンプを使うってのもあるけどね。

 でも、さっき聞いた話じゃ、あの山脈から来てる水だって言うから、滅多な事じゃ減ったりしないんじゃないかなあ」


 木の伐採は道路部分が終わると上流側からやって行くことになった。


 盆地に川が流入してすぐの左右に、大きな貯水地を作るんだって。確かにそこなら、何本もの水路で畑に流した水をそのまま下流の川へ落とすだけだ。


 引っこ抜いた木の玉切りが間に合わないんで、あたしも圧縮渦で手伝ってる。枝払いは数が多くてめんどくさいからクロにお任せだ。


 まだまだ当分は木の相手かー。


   ・   ・   ・


 この盆地に来てもう10日。

 8メル道路は突き当たりまで出来上がった。作業トラクは今、川と貯水地の堤防を作っている。

 堤防と言ってもナノマシンで厚みのある壁を立ち上げる感じで作るから、壁の両側に深い溝ができてしまう。

 それで出来上がった後を追って、あたしが貯水池の底を(さら)った土でできてしまった溝を埋めることになった。


 伐採の方は連日やってるのにまだ半分くらい。正直、もう飽きて来ちゃったよ。

 なので、溝埋めは歓迎なんだ。


 シルバがロープを付けて土の塊を押し出して、クロが受けて溝に収める。

 トラクの荷台ほどじゃないけど、溝に合わせて細長く切り出した土がすっぽり収まる感じがいいんだよね。

 あたしはクロの合図で下ろすだけなんだけど、それでもさ、なんかこう、スッとするじゃない?

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