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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
北の峠
45/48

7 ネロデールス クレハの休日

「ふわぁーー。朝だぁー」

 窓のカーテンを開けて空を見るとまだ陽が低い。2月半も規則正しい生活ってやつをして来た成果でこんなに早く目が覚めちゃうんだ。シルバめ。


 行く時には何日も掛かった北の峠は、僅か2ハワー余りで戻ってきてしまった。トラク街道の効果は絶大ってのが身に染みるよ。

 けど、午後の休憩まで材料の積み込みにみっちり使われて、それからトラクで移動だからね、幼気(いたいけ)な乙女をこんなにこき使うなんて、どう言う神経してんだか、ったく。


「クレハさま。朝食はできております。片付かないので早くお願いします」

「ナックは?」

「ナックさまはもうお済みです」

「あ、そ」


 作業トラクは、お泊り仕様で2メル幅出ししてるとは言え、あれこれするには狭いからね、分かるんだけど、どうもシルバに言われるとねえ。


 先にご飯食べて寝台周りを片付け、着替えを取りだした。あたしは2段ベッドの下側だ。枕元に薄い棚、足元には大きな棚があって収納になってるし、一番下には大きな引き出しが二つ、そのうちの一つがあたしの分。

 着替えなんかは寝台周りで収まるくらいしか持ってない。引き出しには靴と加工しようと思って集めた石なんかが入ってる。

 そうそう、枕元にはミットさんの作品だと言う、おっきな猫のぬいぐるみがいるんだよ。ほぼあたしの枕になってるから枕は2つかな。


 トラクが広くなってるとお風呂場が使えるんだ。朝だからお湯はないけど、シャワーを浴びるくらいはできる。

 お風呂場のカーテンを閉めたら狭い洗い場に立って服を脱ぐ。一応脱衣所らしいものはあるけど狭すぎだよね。洗い場は湯船の手前にあって、防水カーテンを押せばどっちにも使える。

 そう。カーテンで仕切っているだけで床は一緒なんだ。一応簀子で足を濡らさないようにはできるけどね。


 このお風呂場はトラクの広げた部分に作っているので、浴槽を含め幅を縮めるとぺったんこになるんだ。縮める前に置いたものとか確認しないと大変なことになる。


 ぬる湯のシャワーを浴びて石けんで体を擦る。髪も専用の洗剤で洗ったら、ドライヤの温風で髪をほぐしながら乾かした。

 用意した服を着て、洗い物カゴに着てたやつは放り込んでおく。あとでシルバが洗ってくれるんだ。


 さて、今日一日のお休みだけどもうやることがない。ネロデールス探索、行ってみよー。


 この間、ってもあれは夏の始め頃だったっけ。今は秋だからなあ。

 ともかくも2月半だよ。

 えっと、話を戻すとあの時は早すぎて牧場の牛を見に行って……


 あー。

 やなこと思い出したわ。

 なんか面白そうなことないかなー。


 あたしはネロデールスの上空300メルへ跳んだ。

 こっからなら街が一望できるよ。


 朝のこの時間は仕事に向かう人が結構歩いてる。2本の通りの露店はまだ動きはないねえ。

 あれ?大通りそばの路地。

 なんだろ、誰か伸されてる?

 あー。お腹蹴ってるよ。

 女の人がうつ伏せの背を踏まれてるね。


 あたしは立っている男たちのど真ん中へ跳んで、上空で用意した捻りから、ガタイのいい男の顔面に蹴りを決めた。


 そのまま両足で着地してあたしは言い放った。

「あんたたち、面白そうなことしてるねえ」


 ヒュー。正義の味方の登場だよ!


 どこからか突然現れたあたしに呆然と立ちすくむ5人の男。まあそうなるよね。


 女と見て一人が捕まえようと思ったんだろ、両手を上げ突っ込んで来る。

 あたしは10セロの短転移でその手を逃れさらに右へステップを踏む。そこへもう一人の拳が飛んで来るがそんなのは承知だ、更に10セロ短転移を入れ足を踏み替えた。

 横合いから拳を突き出す奴に合わせ、そいつの顎を蹴り上げた。

 軸足を畳んで身を沈め、近くに立っている男の脛に重い靴の回し蹴りを飛ばす。

 その反動を使って2歩、そして50セロの転移。

 エイラには感謝だよー。これって大勢相手の対人戦闘でめっちゃ使えるんじゃね?


「このガキ、チョロチョロと!」


 おっと、私の動きに付いてくるんだ。

 その拳を躱し、見上げる背丈の顎を右足で思いっきり蹴り上げてやった。


 これで4人!

 ボウッとした様子の顔面に手持ちの石筒を叩きつけ、背を向けた男の膝を転移で追い縋って後ろから蹴り砕いた。


 さっきまで足をかけられていた女が起き上がって、あたしを見て両拳を口に当て震えている。


 見回すと腹を蹴られていた男。放心したように空中を睨んでいる。


 あたしは歩み寄って声を掛けたけど反応がない。右は殴られたと見え目まで腫れが広がっている。左頬を軽く数回4本指で叩いて呼びかける。

「おーい。あんた大丈夫かー?

 もしもーし!」


 こりゃ、壊れたんじゃ……

「うわっ!」


 反応があったよ。よかった。

「うわってねえ?大丈夫?」

「驚いただけです。大丈……てて」


 一応大丈夫そうかな?

 兵士たちが通報を受けたと見えて、近づいてきてるね。


「あ。見回りの兵士さんたちが来たね。

 あたしは退散するよ。折角の休みなんだ。じゃあね」


 あたしは路地の奥へ向かって駆け出した。

 でもあの声、どっかで聞いたような?

 腫れが酷くて人相なんか分かんなかったんだよなあ。


 まだ露店の開店までは間があるみたい。

 そうだ、隣の町!エスラトって言ったっけ。ちょっと見に行ってみよう。

 この間はホウさんのとこまでで、吊り橋を架けたら戻っちゃったからね。行こう行こう。


 トラク街道を辿って先ずはホウさんの分岐。上から見る吊り橋って綺麗だね。じっくり見たのは初めてかも。ぐるっと上空を何箇所か跳んで見た。

 そこからは数ケラルの転移を繰り返す。8回目にちょっと大きな町が見えて来た。モノ班はこの街までで街道改修をやめちゃったんだよね。それでも街を縦断する大通りはやったみたいだ。


 立ち退きとかどうしたんだろ?

 見ると何軒か大通り沿いで建てている最中の家が見える。

 街で会ったロックボードさんはこの辺の領主とか言ってたから、案外手を回したのかもね。


 町は一通り見たのでさらに上空へ上がってみた。地形図を小さくして見てないから、この辺りの地形がどうなってるか分からないんだ。

 お?南の方に海が見える。結構遠いかな?

 あそこまで道が伸びたら魚なんかも食べられるようになるかも。多分トラクで8ハワーくらいじゃないかな。途中の右側に大きな湖が見えている。中央に島は2つ、あの湖畔でのんびりお泊りなんていいだろうなあ。


 世界は広いね。


 ネロデールスに戻ると大通りに活気が戻っていた。


 あたしは暗くなるまで、久しぶりの露店巡りを堪能したよ。



「クレハさま。ホウさまから連絡がありまして」

「え?ボタンツーシン?」

「いえ。兵がひと方訪ねて参りました」


 このタイミングで?張り込みでもしてたんだろうか?


「農業用の貯水地を作ってほしいとの仰せです。代金は先日見本に頂いた宝石とのことですが、あいにくモノ班は別の作業に戻っております。

 あの洞窟を経由してトラクで移動できるとのことですが、受けるかどうか決めなければなりません。

 ナックさまは希望されています」


 なんだい。ナックがOKならほぼ言いなりのシルバだ。決まったようなもんじゃないか。

 てか、洞窟経由で移動するの?あの入り口の天井は3メルちょっとだったような?


「トラクが通るには天井が低くなかった?」

「移動先までの通路は高さを変えてあるとのことでした」

「あー。吊り橋かけた時にトラクを見てるのか。

 いいんじゃない?どこに出るのか興味あるし、洞窟の中ももっと見てみたい」

「はい。では、明日朝の出発ということで」


 早!

 いやまああたしのお休みは1日って約束だけどさあ。


 早すぎない!?

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