4 北の峠 開通
トンネル出口の沢がもうそこに見えている。
あとはカーブひとつに橋を2本。6日と言ったところだ。
「モノ班からはあと1ケラル半のところまで来ていると連絡が入っています」
「じゃあ3日だね」
シルバ隊のトンネル進捗は覚えている。1日500メルだ。
「あれ?クレハ、モノ班って30日目だよね?」
「え?あたしに聞かないでよ。覚えてないよ?」
「そうですね、ナックさま。30日になります」
「おかしいじゃないか、シルバ。
トンネルの長さは18ケラルちょっと足りないくらいだよ。予定じゃ36日だろ。おまけに最初は頭数も少なかったんだし、あと3日だと33日だ、それで18ケラル掘っちゃったら計算が合わないよ」
「ナックさま、それについては10日前に合流した2番車が新開発の蓄電設備を持ち帰りまして。あとは天候がよろしかったので、ほぼ連日の稼働ができました。雨や曇りでは発電量が低下しますので、これまでの平均値で進捗予定を立てています」
あたしもここは一言言っておこう。
「なんだいシルバ。じゃあ出口で開通を待つつもりだったあたしの予定はパーなの?」
「そうなります。ですが悪いことばかりとは申せません。
トンネルはほぼ直線で掘り進んでおりますが、排水のための勾配があるので見通せるわけではありません。ですので出口の位置はあくまで予定です。僅かな誤差も積もれば大きなものとなります。
こちらの接続路もそれに合わせた修正が必要になったやも知れません」
・・・なんか言いくるめられた気がするのはあたしだけ?
3日目に大回りのカーブと橋一つ終わらせて次の橋を架け始めた。あたしは変わらず岩やら土やらを元気に持ち上げてる。
橋は順調に伸びて行く。
朝聞いた予定だとそろそろ出口が開くはずなんだよね。
「シルバ。そろそろ?」
「それが、クレハさま。まだでございます。岩盤が硬いようですので進路を逸れた恐れがあります」
「硬いと何が問題なの?」
「地表に近い部分では風化、侵食の影響がございますので、若干ですがひび割れなどで柔らかくなるのです。それが見られません」
「ふうん」
お昼を回ってもまだ開通したと言う話は聞こえてこない。
銀頭ども、どこに向かって掘ってるんだ?
予定地点は山陰になるからここからじゃ見えないし、あたしがサボると橋は架からないし、むう!
もうじき午後の休憩という頃
「クレハさま。地上に抜けたようです。ちょっと行ってみましょう」
「ナックも連れてく!」
いやー。掛かったねえ。
作業トラクからナックを拾って到達予定地点の上空へ跳ぶ。
やっぱりあそこには居ないねえ。
「クレハ、あそこ!」
ナックの指差す先には数本の木が倒れていた。そばへ寄ってみると根のあった場所に白っぽい丸い岩?
「あれが外殻ですね。根を押し出したようです」
「西側の稜線に沿って掘って来たのかあ。300メルも余分に掘ってるんじゃ、なかなか抜けないわけだよね」
「シルバ。そうなると今作ってる橋からもう曲げて行かないと接続が苦しくない?」
「そうですね。ナックさまの言うように曲げて行くのがよろしいかと。ただ西側の山は相当量削ることになります」
「そっか。土が余っちゃうんだ。じゃあさ、あのままトンネルをカーブさせて、あの辺りに出て貰えばどうかな?」
「そうですね。それでしたら発生する土の量は抑えられます。橋の方は一旦作業を止めましょう。トンネルに出口を見てから調整した方が良さそうです」
というわけであたしはクロを連れて対岸に跳ぶ。モノ班の新たな出口付近で木の伐採だ。広めに引っこ抜いて、束にしたやつをクロに押し出してもらう。とりあえずはそれを出来上がってる分の橋桁に積み上げて行く。
伐採が終わってみるとそんなに広い面積じゃなかったんだけど、橋の上はすごいことになってる。
作業トラクは作りかけの橋の先端で所在無げだ。あれ片付けちゃわないとお散歩にも行けない。って、あたしには関係ないけどー。
こうなっちゃうとナックもシルバもクロも、みんなで伐り出した木の片付けだ。
クロは3本ずつバラして並べた木の玉切り。木を浮かせるのはあたしの仕事。ナックとシルバは、向きを変えた作業トラクの前に枝やら根っこやら、あたしが浮かせたものを引いたり押したりで並べて行く。
玉切りした天然木もまとめて寄せて行く。これも持ち上げるのはあたし。
忙しいったらないよ!
他の場所では邪魔にならないところにきちんと寄せて来たけど、これはどうしようもないね。橋桁の片側は木材でびっしりだよ。
道が繋がったらモノ班に運び出してもらおう。
・ ・ ・
新たな出口にモノ班が到達したのは夜も遅くなってからだった。
トンネル出口の曲線とこちらの橋の線形が微妙に合わない。シルバの計算では、どうやら80メル戻った辺りから右へ曲げて行く必要があるようだ。
トラクを80メル戻して仮桁から作って行くことになった。幸いと言うか木材は左側に積んである。予想はあったからそんな積み方だったんだけど、逆じゃなくて良かったよ。
あたしの切り出した岩塊をシルバが押し出す。漂うように向かって行く岩塊から下がるロープをクロが引いて動きを止めるとあたしが桁の上にそっと下ろす。それを作業トラクが橋桁に変えて少しずつ橋は伸びて行く。午後の半ばにはトンネルと橋が接続した。
待ちかねたモノ班の8台が早速出てきて、木材を積め、とうるさい。バタバタとやらされた追加作業のせいで、あたしの休憩が10メニもずれたぞ!
やっとお茶とおやつにありついたところでナックが提案した。
「作りかけの橋の真っ直ぐはそのまま伸ばさないか?」
んー?それにどんなメリットがあるんだ?
ナックがボードの地形図を出して説明を始める。
「この橋をこのまま伸ばすとこの沢に出るだろ?
沢に蓋をしちゃってさ。ここから見る景色を見てごらんよ。あんな遠くまで見えるし僕らが作って来た道も見えてるんだ。通る人はぜった喜ぶと思うんだ」
こいつはまた展望台か。そう思ったけど確かに見晴らしはいい。春の新芽とか夏のお花、秋の赤い葉っぱは綺麗かも。
「ちょっと待て。沢に蓋ってだだっ広い橋って事?」
「そうだよ?」軽くいうナック。
どんだけ山を削る事になるのか、分かってんのか?
シルバを見ると一つ頷いた。
やるんかい!
「でね。橋の分岐だけじゃ不便だからトンネルの中に交差点を作るんだ。さっき木が倒れてたでしょ?
あの辺りに直角にひとつ道路を結べばここへの出入りはどっちへもいけるしね」
「3日ほどの追加工事になりますね」
「良いんじゃないかな」「ちっ。めんどくさ」
休憩の後は本線の欄干を終わらせた。
じゃあ明日からは追加工事かあ。
ナック提案の休憩場所や展望施設用地は他にまだ3箇所もあるんだ。
とは言え10日もあれば終わるでしょ。
ネロデールスの街を出てから、65日目のことだった。




