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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
北の峠
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3 北の峠 北面

 もう幾つ橋を架けたんだか判らない。長い橋でも300メルはないから、桁を両側の台に載せる形でも大丈夫らしい。


 1つ架けるのにだいたい2日。

 シルバは

「クレハさまにお願いすると進捗が夢のように進みます。我々だけでこれだけ作ると年単位の工期が必要ですから」

 なんて(おだ)てるけど、そんなの銀頭の数を集めて()って(たか)って作ってしまうに決まってる。なんたって24体もいるんでしょ?


「シルバ隊は大規模な工事となりますと必ず呼ばれますので、そう簡単に集めるとも行かないのです。ガルツさまの許可も必要になりますので」

「なんだい、ガルツって?

 あ。ガルツ商会の偉い人か。でもあたし、会ったこともないし」


 まあ、そんなことより、トンネルの入り口が近づいてきている。

 ここにシルバ隊の日光浴(じゅうでん)する場所を作らないといけないんだそうだ。欲しいのは接続する街道の他に長さ100メル、幅20メルの広場だそうで、できれば勾配はない方がいいらしい。

 となると限度ギリギリの勾配が付いた街道から分岐する形で作りたいんだけど……

 どこにそんな場所があるんだ?

 

 大きな稜線が左右に降って行くその間、右手のあの奥辺りがトンネルの入り口予定になる。ここから見ると街道は左の山肌を大きく抉るように回り込んでやっと入り口でしょ?

 その回り込みで勾配が緩く取れる分、ちょっと下は急傾斜の崖だし正面もずいぶん山が高い。

 こんな急斜面に広場ってもねえ。


「クレハさま。あの辺りからこちらまで伐採をお願いします」

 シルバは簡単に言う。

 あたしも引っこ抜くだけなら簡単だ。


「いいけど始末はどうするの?」

「私がロープを取り付けますのでクロに曳かせます」


 曵かせる?それってまさか引き摺り込むってこと?

 こんな斜面じゃ転がってロープを巻き込んだ挙句、そこらに引っかかって面倒なことになるだろうに!


「それじゃいくらなんでもクロが可哀想だよ。何本か纏めて浮かせるからそれで引いてもらって」

「それでよろしいのであれば、助かります」


 どうもシルバ(ロボト)ってやつは読みきれないねえ。自分達が苦労するってのに。



 ともかくも2日掛けて伐採は終了し、玉切りもセルロースへの加工も終えた後、作業トラクは土留壁の造成にかかる。30メルも下に見える山肌に向かいナノマシンを散布すると、40メニほどで延長100メルの壁が今トラクがいる地盤まで立ち上がった。


 本当に壁だけで、おまけに壁の両側は大きく抉れているけど、今はそれでも良いんだと。

 シルバのやつ、トラクのタイヤをいつの間に改造したのか、できたばかりの壁に(またが)るようにトラクが進んで行く。


 あたしはシルバの指示でトンネル入り口西側の稜線から、岩石混じりの土を切り出して行く。それを毎度のようにシルバがロープを付け斜面下へ向かって押し出すと、クロが受けて壁の内側へ並べて行った。

 すると置かれた土砂やら岩塊がなだらかに壁そばの溝へ流れ込んで行った。


 どうやら壁を立ち上げたマシンが引き続いて壁裾の地均しをしているらしい。

 一方で作業トラクは中にナックを乗せたまま、あたしが伐採したエリアの角を右に曲がって囲いを作って行く。


 あの範囲を全部埋めるつもりだろうか?

 それだといくらここの山を削ると言っても、量が足りないんじゃ……


 シルバを見ると

「立ち上げた土留壁の補強分と、駐車場が作れればいいのです、クレハさま。

 あとはトンネル掘削の余剰土が出て参りますので、それで調整いたします。将来にこの広場が何かの役に立つといいですね」


 そっか。今は特に使い道を決めてないんだ。でもトラクの窓から下界の雄大な景色を見下ろして、(はしゃ)ぐナックの嬉しそうな声を聞くと良い展望エリアになりそうだよ。


   ・   ・   ・


 南面の作業は終わった。

 トラクは一旦ふもとまで戻り、北面の峠道造成に回るため旧街道を登っている。シルバが呼んだモノ班の作業トラク、4台が途中ですれ違った。これから1月掛けた南面がわのトンネル掘りに掛かるんだそうな。


 レクサスの地下施設の探索は()うに終わって、入り口の整備も粗方と言うところで、残りをやるのに1台だけ残して来たとか。少ししたらその1台と、この北の街道の改修をしている2台もここに合流してくるんだって。


 旧街道とは言うが、狭い上に曲がりがやたら多い。こんなだったら細い仮道路でトンネル入り口から結んだ方が早かったんじゃ……


 そう思ってボードで確認してみたら、橋を5つとか、こりゃちょっと大変だ。山越えに5日ならこっちの方が早いんだなあ。


 でもこの作業トラクは4軸8個もある前後輪を全部曲げてカーブを回るってのに、道は曲がりきれないほど狭くてきつい。旧街道の峠道では拡幅作業をやる羽目になった場所が何箇所もあった。

 馬車が通ってる割に路肩の弱そうな場所もあって補強しなきゃだし、整備に1箇所30メニかからないとは言え面倒この上ない。


 結局5日の予定は1日余計に掛かって山向こうに辿り着いたんだ。こちらも街道より西側に1ケラルが予定の開始場所になる。

 然程(さほど)濃くない立木を縫うように3メル幅の仮道路を伸ばして行く。その間に前回同様、あたしとクロが先行して邪魔になる木の伐採作業だ。


 今回は距離が長い分、作業トラクが追いつくのに半日掛かった。追いついた途端にクソ忙しくなるのも前回と一緒。急勾配を避け道は左へ大きく回り込む。


 これまた同じように深い谷に架けた橋を渡り切り、次の切り通しを、と見た先の左手に黒い影が動いた。


「シルバ。なんかいるよ」

「あれはクマですね。子連れのようです。

 クレハさま、どうされますか?」


 あたし?決めんの?

 うーん……


「子連れは子供を守ろうとして襲うって言うよね。でもチビちゃん殺すってのもなあ……

 離れた場所まで纏めて跳ばしちゃう?」

「良いようになさって下さい」


 ちっ。丸投げかよ。

 クマにうろつかれちゃ、作業できないのはその通りだけどね。


 あたしは大小3頭を纏めて渦に包んで、2ケラル東の森の中へ跳んだ。これでよし。


「クレハさま。稜線の伐採をお願いします」


 人使いが荒い!

「先に休憩でしょ?」


 シルバは眉を下げたけどそれ以上は何も言わなかった。あたしのモヤモヤした気分は、甘いパイの前には長続きしなかった。


 南面同様、この北面の峠道作りは切り通しと橋がセットになっている。あっちと違うのは時々大きな獲物が現れるってとこだ。

 今日も伐採の作業をしていたら10頭近い鹿の群れが寄って来た。あたしらの作業はそれ程大きな音もしないので、余り警戒されないらしい。


「シルバ。冷蔵庫の空きってどんな感じ?

 鹿だと何頭いける?」

「鹿でございますか?

 2頭分と言うところでしょうか。ですが急にどうされました?」

「2頭ね。分かった。

 ちょっと行ってくるよ」


 返事も聞かずあたしは上空へ跳ぶ。いた。

 鹿の群れ9頭だ。仔が4頭混じってる。中くらいの大きさの2頭、あれとあれが良いかな。


 石板を準備し群れの背後へ跳ぶ。角の間のすぐ後ろ、首の骨に2枚の石板が跳んだ。直径僅か3セロ、向こうが透けそうな厚みの石板は過たず2頭をドウと倒す。

 続けて首の太い血管にそれぞれ1枚、こっちは皮も断つ。後脚を浮遊で持ち上げると夥しい血が噴き出した。そのまま深い谷底の冷え切った水の中へ跳ばすと水が赤く血に染まった。


 しまったなあ。ロープ 持って来ればよかった。水が深いからこのままだと流されちゃう。

 そーだ。ボタンなら。


「シルバ。聞こえる?」

『どうされましたか』

「鹿、捕まえた。今、沢の冷たい水で冷やしてる。さっき作った橋の下だよ。ロープ が欲しい」


 ちょっと間があった。

 呆れてるのか、ナックに説明してるのか。シルバはこっちの音声も自由に切り替えるみたいだから、ちょっと区別はつかないんだ。

 あたしらだったら、一旦切らない限り話なんか筒抜けだ。


「今、上にクロが行きました。放りますか?」


 上を見るとロープ玉を掲げるクロがいた。手を一つ振って上流を指す。

「いいよ。放って」


 水面に水飛沫が上がる。この高さだからね。落としただけでこんなだよね。

 おっと。流れて行っちゃうよ。あたしは水面に跳んで冷たい水を含んだロープ 玉を右手で拾い上げ、大岩が一つ転がる岸辺に行ってロープ を巻き付けた。鹿を一旦水から出して近くまで転移させる。

 浮かせたままロープを2頭の足にがっちり巻いて水に沈めた。


 うん。大丈夫そう。

 どのくらい置いとけば良いんだろ?


 戻ると肉と聞いてナックの機嫌はいい。そのせいか、シルバの眉は思ったより下がってなかった。


 その夜、鹿肉焼きを腹一杯堪能したあたしは、一眠りした後夜中に目を覚ました。

 そっと寝台を抜け出しドアから外へ出る。トラクが軽く揺れて護衛モードのクロが動き出したと分かる。

 シルバは車内だけど、当然あたしの動きは知ってるだろう。クロが動き出したのがシルバの指示でも驚かないよ。

 トラクは路肩を少し外れた駐車スペースに水平に停まっている。夕方、最後の道路造成と一緒に作った専用駐車場だ。


 今晩だけで、もう使う人もないだろうけど。


 空を見ると満天の星空だ。この世界にはシルバの話に出てくるような月はない。回っているのは6基の人工衛星だけ。

 赤や青、黄色に白、小さな粒がキラキラと瞬くんだ。よくもまあ、あんなに色とりどりの宝石を空にぶちまけたもんだよ。


 周囲に気配はないんだけど、律儀に後ろに立つクロの存在を感じながら、あたしはしばらく星空を眺めていた。


 

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