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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
ネロデールス
36/48

9 ホウさんちへ続く橋

 休憩にはいつもお茶とシルバ特製の焼き菓子が出るんだけど、今日は赤いジャムの載ったパイが出た。聞いたらホウさんの森で労のひとたちが採ってきた木の実で作ったものを使ったとか。

 グルコースを少し加えたとかで甘くて美味しいんだ。生地もフワッと柔らかくてナックと2人でお代わりしちゃった。


 休憩が終わってモノ班を見ると、橋の真ん中に通路一本残してぎっしり置いた土を作業トラクの前に付いた板で押して、支柱の伸び上がる根元の穴に食わせている。

 まだ主索(メインワイヤー)は橋の上にだらしなく伸びたままだけど、支柱を繋ぐ梁の下はトラクが潜れそうなくらいまで上がった。


 橋桁の上にはまだまだ大量の土があるから、しばらく出番はなさそうだとあたしは上空へ跳んだ。見ると置いてあった土はもう半分も残っていない。

 休まず動くあいつらに感心していいものかどうか。


 橋を渡った先はホウさん洞窟の入り口に向かって森を掠めるコースだ。

 畑を荒らさないようにシルバが気を使ったんだろう。その分やたら大きな木の並ぶ森だから、玉切りするクロがちょっと気の毒だ。あれだけ太いと両側から切り込むことになって、少し幹が動くだけでチェンソーの刃が挟まれ抜けなくなるんだ。

 あの繋がった刃は優秀だけど、回転速度が落ちるともうお手上げなんだよなあ。


 あれ?木といえばエイラが圧縮で切ってたよね?

 圧縮なら太くたって薄い渦で一発なんじゃ?今度やってみよう!


「クレハさま。そろそろまたお願いします」


 耳のボタンがシルバの声であたしを考えから引き戻す。

 見るともう橋の上にはいくらも土が残っていない。銀頭どもの見境なさと言ったら!

 両岸から土を押していた4台がもう土取りの穴に並んで待っていた。


 まだ主索は半分が橋の上に横たわってるんだ。そう思いながらあたしは積み場に跳んだ。


 薄暗い穴の底に目を凝らし、伸ばした渦の感触を頼りに1台分の土を持ち上げる。底から少し浮いたあたりで止めると、モノ班の一体が穴の底で上からクロが降ろしたロープをペタッとくっ付けた。あれで思いっきり引いてもロープが抜けてこないんだから不思議なんだよ。


 それを地上まで一気に上げる。

 クロは早回しにロープを手繰りながらトラクの上に引いて行く。当然向きは合わないので動き始めたら回転をかけるようにロープを操る。

 あたしはとにかく土塊の動きをじっと見ているんだ。ゆっくりと回り漂う8メル長の土塊が荷台ピッタリの位置に来る瞬間があるんだ。

 クロがそうなるように調整してロープを引いているのは5回目くらいで分かったよ。

 荷台の箱スレスレに降ろしタイミングを測る。ここという3拍前にクロが手を上げ指を折る。


 いち。にー。さん、で下ろすと土の塊はすっぽりと荷台に吸い込まれた。


 ズズズッと下りる途中でトラクが身震いする。重い土塊の移動と回転の動きを箱を囲う薄い板(荷台のアオリ)で止めようというのだ、当然のことだ。

 続いてズシューーゥと長く風の抜ける(エア漏れ)音が聞こえて来る。それは荷台と板の隙間から押しつぶされた風が噴き出している音。


 おー。午後になってからほとんど失敗が無くなったよー。

 午前中はクロの合図にも合わせられなくて囲い板(アオリ)を潰しそうになったからなあ。慌てて上げるとクロがロープで微調整してくれて、それが結構時間かかっちゃう。

 引っ掛かってる土塊の表面の圧縮を解いて下せば箱には入るけど、削り落ちた土が散らかって始末が大変だったし。

 掃除にモノ班3体、付きっきりだったもんなあ。


 クロもモノ班も班長のモノ以外喋らないから、それがありがたいって言うか?


 などと思い返しながらもポンポン積み込みは続く。

 トラクが支柱の根元に被せるように土を空けると、ナノマシンがそれを材料に支柱を押し上げる。1台で30セロも上がってるかなあ。そうすると主索もちょっとずつ張りを増して行くわけだ。


 夕方には支柱と主索は予定の高さ55メルまで上がった。


 あたしの仕事はこれでおしまい。作業トラクの狭いお風呂とシルバの夕食が、それより何より愛しいベッドが待ってるー。


 でもモノ班はここからまだ作業があるんだって。

 懸下索(サブワイヤー)の緊張調整だ。これが面倒な作業で、取り敢えずは長さを設計値に合わせるところからだ。

 でも橋桁の歪み、主索の伸び、支柱の位置や傾きなんかで微妙なズレが出るんだ。橋全体のバランスを見ながらの微調整で一晩かかるんだって!


 ブラックだー!



 あたしとナックが朝起き出したら、橋桁をささえるため4本ずつ7組あった仮支柱も川の中に消えていた。


「ねえ、シルバ。あの仮に建てた支柱ってどうやって消したの?」

「もちろんナノマシンで分解いたしましたよ?」

「でも、マシンってできるだけ回収したいんだよね?どうやったの?」

「そんなことを気にされていたのですか?橋の両側からチェーンを下げてそれぞれの柱に結んでおくのです。

 ナノマシンが柱を上から分解していきます。この時に並行してチェーンのリングを作るのです。

 ナノマシンは基本、上から下へ作業する方が早いというのもございますが、柱の分解と共にチェーンが伸びていく格好になります。

 川底にリング状のナノマシンが到達し、柱が全て分解した時にはそこにチェーンの先端がございますので、チェーンに集まって待っています」

「そっか!あとはチェーンを引きあげるだけかあ!」

「はい」


 なるほどねえ。


「で、これで橋は完成したの?」

「はい。橋台との切り離しと伸縮装置の設置も済んでいますので」


 伸縮装置って……あー、あれか?夏と冬で温度が変わると桁が伸び縮みするんだっけ。

 それで橋が壊れないように遊びを作っておくって前に聞いた。


「それじゃ、今日は木の伐採ってことでいい?」

「はい。よろしくお願いします」


 畑が近いからね。引っこ抜いた木をどこに倒そうか。畑の上は気がひけるなあ。


 あ。上から順番に圧縮の渦で伐ってみようか?とはいえ、広がった樹冠は下から枝払いだね。切ったら落っこちて来るから少し離れてっと。


 あの枝から落とそうか。クロに合図して渦を狙った場所に纏わせる。薄い大きな円盤状にして片面圧縮を掛けると、大枝が切り離され地面にバキバキと叩き落ちた。すかさずクロとモノ班の3体が大枝に取り付いて引きずって行った。


 よーし、次行ってみよー。

 要領が分かっちゃえば、下に誰もいないことを確認して落とすだけだ。

 ただ時折他の枝に引っかかって、思わぬ動きをすることがあったよ。みんな離れててよー。特にナック。

 あいつはうっかりしてると、切ってる枝の下を通り抜けようとするからね。シルバみたいな(うるさ)いのが付くのも納得だよ。


 おっと、目玉なんか無いくせにシルバの睨む視線を感じた、やばっ!


「クレハさま。こちらの枝の切り口ですが、非常に密度が高くなっております。

 細いものはそのまま木質として纏めるので問題ありませんが、こちらのように2メル以上まっすぐな部分があるものは玉切りしますので乾燥に支障が出るかと」


 へいへい。圧縮面はない方がいいのね。


 広がった枝を落としてしまえば、水平に玉切りをしていくことになる。


「シルバ。玉切りの長さ、どうする?」

「そうですね、この太さの木はいい値段がつきますよ。乗り場を曲がることのできる最大長、10メルの一本ものでいきましょうか」


 あたしの目の高さで太さが2メルを超える木だ。そうなるよね。


「あれ?トラクでいっぱいいっぱいじゃなかったっけ?乗り場の角のとこでしょ?」

「クレハさま、チューブ駅の突き当たりは低い壁だけですので、チューブ側に突き出す分には荷台から多少出ていても曲がることに支障はないのです。

 ただバランスが悪くなりますので突き出しは2メルに抑えます」


 あたしは通路の突き当たりを曲がるところを想像してみた。すっごく大変そう!


「そうすると先端の細いところを先に切っちゃう?」

「根本から切って、状態を見て後を決めましょう」


 あっそ。

 渦を根元付近で水平に……


「お待ちください。どちらへ倒すつもりですか?」

「え?ああ。根元で水平に切るから、倒れるまで余裕があると思うんだ。

 だから、あたしはそのまま持ち上げてるからさ、クロにロープで上手いこと引いてもらおうかと?」


 なんせ、クロは土の積み込みで神技を見せたからね。長いだけの木なんかどうとでもするでしょ。


「分かりました。でも打ち合わせだけは先にお願いします」


 そういうもんかと、あたしは頭を掻いた。


 巨大な幹は根元を圧縮の渦ですっぱりやっても、しばらくそのままで立っていた。それを切り口から浮かすと根元にロープをモノ班の一体が取り付ける。クロができたばかりの橋に引き込んでいく。

 確かに30メル以上もある幹を横たえる場所は、畑が嫌ならそっちしか無い。

 このまま引いていって貰えば吊り橋の支柱の下辺りで収まるよね。


 引いていく間にも根元の状態は見ていたようで、地面に転がるとすぐにシルバが3箇所印を付けた。


 印に従って圧縮渦で切り離す。1セロ厚の木質を1/5くらいに潰すイメージだけど、ここでは両面の圧縮を使う。

 出来上がった丸太の小口に圧縮面が残ると、木の乾燥ができなくなるからだ。

 さっき言われたし!


 橋が塞がってしまわない様にあの広い土取り穴に蓋をして、そこに生木丸太を運んだりしながら10数本の巨木を倒した。


 ホウさん洞窟まで道が出来上がったけど、これだけ立派な道が行き止まりでいいんだろうか?


 シルバに聞くとホウさんの女王とは話がついていると言う。


 ま、いいんだけどね。

 じゃあ、次はエスラト行きかな?


「クレハさま。先程仮に運んだ玉切り材の積み込みをお願いしてよろしいですか?」

「あ。そっか。あれ、大き過ぎてなかなか積めないよね、いいよ」


 これが失敗だった。

 40本以上ある丸太をモノ班のトラクに積むんだけど、一本しか乗らないんだ。8台のトラクが近間の貯木場まで5往復。

 それで2ハワー置きに帰って来るトラクに積み込みはあたしとクロだけ。おまけに銀頭どもは寝ないで走ると来た。


 結局、細切れに眠ってトラクが来たら起こされで、翌朝日が登った頃やっと終わった。


 めちゃくちゃブラックだー。訴えてやる!

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