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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
序章
3/48

序 クレハ 〜 サイナス村

 サイナス村は80人程しかいない海辺の村だ。ジーナはこの村の長で最年長、250歳くらいだと言っていた。見るからに胡散臭(うさんくさ)い婆さんなのに村の大人は(あが)めるように相手している。彼らは皆あたしと同じように元の町からジーナに拾われて来たと言う。

 ものすごい年寄りに見える爺婆(じじばば)は60歳くらいらしい。嘘くさい話だけど、みんな優しい人たちだ。

 村は河口の見たこともない大きな橋の側にあって、こじんまりとした畑が近い。海側には大きな生簀(いけす)に足のやたら長い蟹が沢山いる。


 何かお祝いがあると、5、6匹絞めて鍋にして食うと言う。


 あたしたちが着いた日もなんのお祝いか蟹鍋を食わせてくれた。昼にリンドーで煮込みを嫌と言うほど食べたから、たいして食べられなかったけどとっても美味しい事はわかった。

 夕飯の後は洗い(まく)られて、お湯に浸けられふにゃふにゃになった。着て来た服は無くなって別のを着せられたところまでは覚えている。


 ニックスは海で釣りと貝堀りを教えられ毎日忙しそうだ。チビ(レイラ)は畑で草むしり。あたしはジーナの手伝いで年寄りの世話を頼まれる。言われた家に行って掃除をしたり洗濯物を集めて洗ったり。


 村の暮らしにもすっかり慣れたある日、街道を四角いものがやって来た。と言うか遠くの方に見えただけだ。


「ジーナ。なんかあそこに四角いのが見えるよ」


「ああ、あれはの、ガルツ商会の道路班じゃ。ミットさんに道の補修を頼んでおったがやっと来てくれたんじゃの。カンツとネギラを呼んどくれ」



「「おばばさま、お呼びですか?」」


「待っておった道路班がそこまで来ておる。鍋の支度をせい。夕食にお呼びするぞえ。多分2人、子供もおるやも知れぬ。

 クレハ、一緒に行くぞ」


 そこまで聞いた途端にあたしはゴウと風の鳴る音と共に空中に居た。落ちる!「ギャァァーーーー」

 止めどもなく悲鳴が喉から(あふ)れる。


「ええい、うるさいやつじゃ!」


 ポンと草原に景色が変わりあたしは倒れ込んだ。バクバクと暴れる胸を押さえて(うずく)るあたしに

「今のは転移じゃ。村へ来る時もやったじゃろうが!?」


 ジーナが怒ってる?思わず顔を見るとからかうようなニヤニヤを貼り付けたジーナがいた。転移?村に来た時はただ景色が田舎に変わっただけで。

「空から落ちたりしなかった!」


「そうじゃったかの?トラクは1台のはずじゃがの。他にもいるようなら呼ばねばならん。空から探すのが一番じゃでの。

 落ち着いたか?」


 やっとのことで頷くと

「では上へ参るぞえ」


「ま、待って」

 やっぱり空中に現れる。ったく、こんのババア!聞く耳持たんのかい!

 あれ?さっきより怖くない?


「ふむあの1台だけじゃの」

 山裾から連なる広い道路の先にチョンと止まった小さな四角。フッと景色が変わり目の前に車輪が4つの8メルもある四角い箱。側面にはどこかの街の絵が大きく描かれている。きれいな街に見惚(みと)れていると

「あら、いらっしゃい。ジーナさんでいいかしら。後ろから反対側に回ってくださる?」


 こんな現れ方で驚かないなんて何者?


 後ろを見てあたしはギョッとしてしまった。黒い虎柄の大男が(ほうき)で道を掃いていたのだ。よく見ると耳と尻尾がついている。


「おばばさま!あ、あれは?」


「クロミケの同類じゃの。護衛じゃ、気にするな。それよりなんじゃ、こんな時だけおばばさまと呼ぶかの?」


 近づくとほんとに大きいよ。3メルもあるなんて?おばばさまの服にしがみつくようにトラクを回ると、豪奢(ごうしゃ)な髪型の美人が2歳くらいの子供を抱いて待っていた。


「あたくしはイヴォンヌ。道路班第三班の班長をしております。この子は娘のトリセーヌ。夫のナクスオールは中ですわ。後ろのロボトはトラと言います。

 中でお茶をどうぞ」


 扉を開けると2段の階段で正面に四角い囲い、左は外の見える大きな窓。右は少し広い床があって小さなテーブルが置かれている。椅子は3つ。奥に台所。狭そー。

 イヴォンヌさんは子供用の椅子に娘を預け、慣れた様子で歩き回りお茶のセットをテーブルに置いた。


「掛けてくださいな。どうぞ」


 ふわっと甘い香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。


「やあ、いらっしゃい。わたしはナクスオール。新米道路班でね、狭くて申し訳ない。仕事が終わればもう少し広くできるんだが、今はどうしようもないな」


 うわ、美男美女の夫婦か。


「ああ、椅子を使わせてもらってるよ。道路班が来たお祝いをしようと思ってね。そのお知らせに来たんじゃよ。村の特産の鍋を食べにきとくれ。夕方、ワシが迎えに来るでの」


「あら、もしかして蟹鍋ですの?あなた、ついてるわ!とってもおいしいお鍋ですわ」


「ふむ、喜んでもらえて何よりじゃ。お茶をごちそうさま。これから準備させるでの」


「あ、お迎えって転移ですの?ミットちゃんができると聞いてますけど」


「ああ、ミットさんはワシの弟子じゃでの。ではここへ来て皆拾って村へ行くと言うことでええかの?」

「はい。お待ちしてます」


「それで人数はどうなっておるかの?」

「あたくしのところは夫とこの娘一人ですわ」

「では夕方また来るぞえ」


 あたしはお茶菓子をサッとポケットに入れた。途端にまた空中から海岸沿いを見ていた。


「この間の嵐で傷んだのはあの辺りじゃの」

 ジーナがボソリと言って景色が変わる。


「ふむ、後は大丈夫であったか」

 見慣れたジーナの部屋へ戻って来た。


「どうじゃった?空の散歩は良いものじゃろう?」


 目が回りそうだよ。

「あんなにポンポン跳ばれたらおかしくなっちゃうよ」

「そうかえ。夕方も一緒に転移するからそのつもりでの。それまで準備を手伝っておいで」

 そう言ってジーナは書類の片付けを始めた。

 カンツに聞いた人数を伝えて蟹を水揚げしに行くと言うので付いて行った。


「ジーナさまなら簡単に持ち上げるのじゃが、わしらはそうもいかんでな。肉弾戦じゃ」

 二人が(よろい)を着て、生簀(いけす)へ入った方が一匹の蟹の30セロはある甲羅(こうら)にロープを上から掛ける。それを3人掛かりで引き上げると8匹が足を絡ませ固まって持ち上がり生簀から出た。蟹団子からもう一人の鎧の男が一匹ずつ引き剥がす。

 そうなると鎧無しが1本60セロもある足を畳むように紐を(から)め、あっという間に丸く縛ってしまった。

 8匹の蟹が丸くなって手押し車に乗った。


 共同調理場では大鍋に湯を沸かしていた。グラグラと沸騰(ふっとう)するのを待って蟹を2匹投入する。

 ()で時間は10メニ程だそうで温度が下がるのでそれ以上は入れない。因みにお湯は海水だそうだ。甲羅が紅色に染まって鍋から引き揚げたら水を足し、また沸騰(ふっとう)を待って次の蟹の投入。

 茹で上がった蟹は20メニ程海水に浸して冷ますと殻剥(からむ)きだ。男衆が甲羅を外し足をむしる。殻を叩いてヒビを入れたら女衆の前へ放る。


 女衆は足の肉を丁寧に取り出して皿へ盛っていく。

 洗った甲羅を裏返して卵を集めて盛ると2個分になった。ニックスたちが集めて来た貝も茹でて、いい出汁を取ってスープに仕立てていた。あの凶悪な匂いはすごく美味いに違いない。

 お祝い用に買ってある真っ白い小麦で焼いたパンのいい匂いが(ただよ)って来た。


「これで準備はだいたいじゃの」


 隣から急にジーナの声がしてビクッとなる。

 あたしは気配に敏感だからこんな近くに突然現れるジーナにはいまだに慣れていない。それでもなんとか平静を(よそお)って返事する。

「まだ魚や巻き貝が手付かずだよ?」


「あれは客の目の前の焼き台で焼いて配る分じゃろ。肉も酒も用意しておるはずじゃで。1ハワーほどで迎えに出るゆえ、クレハはそれまで休んでおれ」


 見ている前でジーナがフッと消えてまたビクッとなった。


「ははは。おばばさまはクレハが気に入ったのじゃろう。わしらの前ではあまり力を使わんのじゃ。クレハが驚くのが楽しいのであろ」

 前に座っていたお婆さんがシワだらけの顔であたしに笑いかけている。


「気に入ったって、なんで?」


「さあのう。代替わりかも知れんの。村衆の間でも代々言い伝えがあっての。ジーナさまが連れてこられた日のことが伝わっておる。クレハと同じくらい華奢(きゃしゃ)な少女だったと言うんじゃが、わしらには最初からあのおばばさまじゃでな、想像もつかん。

 じゃがおばばさまとて寿命はあるでの」


 ふうん。分かったような、分かんないような。

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