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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
3章 姉弟子エイラ
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4 連続転移

 今日もエイラさんは行商だって。


 クレハはお土産を買うのを忘れて小僧のサラの大顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまい、今日はエイラのお供はさせてもらえなかった。


 工房で何か作れるだけの技術はない。何より厚みが安定しないので形にならないのだ。

 曲げ加工は厚みに応じた加減があり、片面あるいは両面の圧縮度合いが変わる。その影響は形の歪みとなってすぐに表れる。

 エイラの精巧な岩食器はクレハには神業のように映った。


 そんなわけでナーバス郊外。(およ)そ人が立ち入るとは思えない、険しい山中にクレハは来ていた。


 ここで昨日その目で見た連続転移や、石板跳ばしの練習をしようと言うのだ。ただ移動するだけでも難儀な木や藪の密生する斜面も、跳び回るクレハにとってはなんと言うこともない。

 下からは草、上からは枝が張り出し見通せる空間はその間の1メル少々で、折り重なる幹を縫うようにクレハが跳ぶ。

 見通す先の一点を視認、現れるなり次の場所を見て……

 とてもエイラがやっていた超スピードの転移とは行かない。跳ぶには移動先のイメージが欠かせないのだ。

 もちろん緊急時には視認できない真上に飛ぶことはよくあるけれど、それだって周囲をなんとなく把握できているから可能なことだ。


 エイラは見通しの効かない部屋から部屋への転移を5つ以上、多分10近くも息吐く間も無くやってみせた。


 あれは付いて行くのがやっとだった。壁やなんかにぶち当たるんじゃないかと肝を冷やしたし。


 いや、待って。

 転移はした時も出た時も体は動いてないんだ。壁に重なって出てしまうことはあっても、無駄に動かなけりゃどこかを打つけたりはしないはず。あまりにも目まぐるしい転移で、そんなふうに感じたってことなのか。


 あたしの場合は見えてない場所への転移なんてできない。できるのははっきり見えている場所、渦の案内のある場所、行ったことのある場所だ。


 エイラに付いていけたのはエイラの渦を辿ったから。

 じゃあエイラが跳べたのは……行ったことがある?

 でも他人の家の部屋なんてそんなに覚えてるんだろうか?覚えていたってあんなに立て続けに跳べる?


 連続転移については結論は出ないままだった。それでも3ヶ所くらい見ておいて、連続してそっちへこっちへ撹乱するように跳ぶくらいはできる。強い敵相手の手数が増えるってことだ。


 転移をみっちりやったあと、次は石板だ。エイラみたいに薄くはできないけど、パパッと4枚切り出して幹に描いた印へ跳ばす練習をする。

 印の見える範囲で上なり横なりに跳んで印が4つ見えたところで石を薄板に切り出す。そして順に渦を的に当ててそこへ石板を跳ばす。

 やってみるとやっぱり難しい。なかなか一気に4枚とはならないけど、それでもかなり早く撃てるようになった。


 エイラさんも何年もかけてあそこまでできるようになったらしいから、やっぱりあたしが急にできたりはしないんだろうな。


 そういえばこの間のトカゲは、なんか気持ち悪いベトベトを吐いていた。

 あれは見てから避けるって速さじゃなかった。気配でなんとか先に跳んで避けたけど、敵から見える的が小さい方がいいかもだね。


 跳ぶ時の体の向きを変えてみよう。頭が近いのは万一当たった時に酷いことになる。見づらいけど足を向ける方がいいか?

 石板を跳ばすんだったら別に腕を振ったりする訳でもないから、どんな姿勢でも目で相手が追えればいいんだ。


 やってみるとなかなか難しい。

 転移中に体の向きを変えることはできた。

 けれど跳ぶ前に把握していた位置関係が現れた瞬間に変わってしまうので、新たに的を探すことになってしまう。


 何度も挑戦して、頭の向きを変えないように跳ぶやり方を思いついた時には、思わずセーシキドーまで跳んでしまった。

 的の一つを見たまま跳んで現れた時に同じ的を見ている。頭が回転していなければ、他の的も同じような位置関係にあるから把握し易い。

 視線をうまく固定するってのがキモのようだった。


 セーシキドー行きを何度かと、お昼を挟んで夕方まで頑張ったけど3ヶ所連続転移で移動するのと、単発っぽい石板の2連射で精一杯だった。


 『エイラの店』で夕飯をご馳走になって、帰ってきたエイラさんの手伝いというか、半分はただの邪魔かもだけど、をしながら今日の成果を話した。


「そうかい。単発でも的に当たるなら上出来だよ。鎧だろうが甲殻だろうが、急所の肉に叩き込めるんだ。弓や剣なんか比べようもないんだから」

「ねえ。お城でなんであんなに立て続けに部屋から部屋へ跳べたの?

 今日色々やってみたけどほとんど出来なくて」

「あの城の部屋は昔、娘たちの子守りを頼まれて通ったことがあってね。よく知ってるんだよ。

 それよりクレハがあの連続転移に付いて来た方があたしには驚きだよ。

 あの時はお前に構ってなんかいられなかったからね」


 確かにあの時はあたしも必死だったし、あれがうまく行ったからあの一家を助けられたんだと思う。


「マクファースのところはちょっと寄って来たよ。裏手に侵入した形跡があったそうだ。

 あの短剣の紋章はライクレットの第1王子のものらしい」

「ライクレット?」

「とっくに滅んだ王国さ。国ぐるみで盗賊をやっていた、ろくでもない国だよ」


 エイラの苦々しげな顔を見ると、あたしは何か関わりがあったんだろうと思う。

 聞ける雰囲気ではないけど。


「あとは数を熟して慣れる以外ないね。あたしはジーナやあんたみたいに力がある訳じゃないから、小器用に立ち回るしかないんだ。

 小器用って言えば一つ思い出したよ。

 ランクロフトってやつがいてね。

 今はカイラスって村で村長をしてるんだけどね。元盗賊の男で、あたしが盗賊狩りを頼まれた時に、一味の頭を張ってたやつさ。

 そいつは50キルくらいしか持って跳べないし距離も短いんだけどね」

「待って。男なのに跳べるの?」

「ああ。ジーナも初めて聞いたって言ってたよ。まあ、あんまり役には立たないけどね。

 で、そいつの小器用な技の話さ。

 対人戦で5セロ、10セロのごく小さい転移を使うんだ。転移なら鎧だってその気でやれば刃先が突き抜ける。

 おまけに(はた)から見ててもひどく身のこなしの早いやつとしか映らない。渦は薄いけど見えちまうからあたしらには通用しないけどね」


 あたしはついこの間ネロデールスでやった小競り合いを思い出した。あの時はジャンプした先で更に上へ跳んだけど、やっぱりあれは不自然な動きだったと今でも思う。


「明日はそれも練習して見るよ」



 短剣を木や石に転移で突き刺すのは刀身がひどく脆くなることが分かった。

 持って3回。そのあとは少しの衝撃でポロッと落ちる。

 圧縮で一応繋げられるけどだんだん不恰好になってしまう。


 あたしの特訓はシルバから連絡が来るまで3日続いた。

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