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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
2章 テトライン
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7 ネロデールス


 ネロデールスの通りを観光気分で見て歩く。何軒かの小物、雑貨の店を覗いて行ったが日が暮れ、店先に灯りが燈る。

 夕飯を街の食堂でいただいてからふらりと出た、日暮れ時の一人散策なのだが、それももう折り返しらしい。


 この辺りが露店街の終点と見えて暗い路地が迫ってきた。

 あたしは道の反対側へ渡って店を覗きながら戻ることにしたんだけど、いくらも行かないうちに3人連れが絡まれている様子だ。

 絡まれてるのは女二人に男が一人。絡んでいるのは派手な身なりの三人の男。


「…ずいぶん連れないじゃないか。食堂じゃお馴染みさんなんだからさ」

「おう。そうだよな、俺たちは常連だよ、遠慮することはないさ」

「常連って、あんたたち、この間旦那から出禁にされてたじゃない」

「そりゃ人違いじゃないのかい?俺たちは親切なお兄さんで通ってるんだ」


 そう言うなり赤シャツの腕が伸びて連れの男の首を掴み、

「おまえ邪魔」


 放り捨てるように小路地の暗がりへ転がす。

 すかさず、地面に転がる腹の辺りへ黒尽くめが蹴り込む。

 ぐえっと悲鳴ともつかない呻きが聞こえた。


「何するのよ!」

「騒ぐんじゃねえよ。ちょっと躾ってやつだ」

 白エリが凄んだ。


「目障りなのはこれで片付いた」


 やれやれ。どこの街にもこういう阿呆がいるんだね。

 女たちに3人が詰め寄ろうというところへクレハが足を踏み込む。


「目障りなのはまだ3人いるんじゃないの?恥ずかしくないのかな」

「何だ、おまえ?」

「おいおい、丁度いいじゃないか。一人ずつ数が合うってもんだろ」

「お嬢さん、名前を聞いてよろしいですか」

「ギャハハ!おめえのセリフはキザでいけねえよ」


「姉さんたち、この下品なのと知り合い?」


 クレハの問いに

「いつも店で悪さするんで、迷惑してるの」

 こう答えられるってのは、すごく気丈な娘さんらしい。


 さっきと同じようにあたしの首根っこを掴もうと腕が伸びる。

 あたしは軽く手首あたりを弾いてやった。


「気安く触るんじゃないよ」

「ほう?こう言うのはな、鼻っ柱をへし折ればいい声で鳴くんだぜ?」


 あ、そう。


 あたしの拳がペラペラ喋る白エリの口のすぐ上に減り込んで、そいつは道路へ転げて行く。


「こんなんでよかった?いい声ってのを聞かせてごらん」


 リンボーの街じゃ、この程度のやつにいちいち引っ掛かってたら、食い物にはありつけない。年下2人を養ってたクレハさんを舐めないでもらいたいもんだ。


「このアマ!」


 呆然と転がる仲間を見てたくせに、やっと動いたと思ったら2人掛かりかい。

 左から殴りかかる赤シャツ、腰辺りに掴み掛かる黒尽くめ。

 あたしは上へ両足で飛ぶ。奴らの手が届く前にさらに上に跳ぶ。

 足元で2人のゴロツキが抱き合うようにぶつかって膝から崩れる。そこへあたしが落下の勢いを使って、2人まとめて踏み潰しにかかる。


 けど、体重がないのは如何ともし難い。蹴りの入った赤シャツはともかく、黒尽くめは潰されただけで然したるダメージもない。重いだけの赤シャツを跳ね除けると、立ち上がって辺りを睥睨した。


「どこへ行きやがった、クソアマがあ!」


 一声吠えたが、首にあたしの蹴りが極まってその場に(くずおれ)れた。


 あたしがジャンプする気配も分からないんじゃ、どうしようもないね。


 街路に軽い足取りで降り立つと言ってやる。

「何だい、もう終わりなの?」


 残念なことにその質問に答える声は無かった。

 2人の女は路地に蹴り込まれた男の介抱をしており、クレハの相手をした男たちはまだ動き出す様子もない。

 被害を見て回る間に起き出されると面倒だからと、順に顎にひと蹴り入れて回って女たちに声を掛けた。


「あんたたちは怪我はなかったかい?」


 蹴り込まれた男のことは聞くまでもない。腹にきついのをもらってるからしばらくは動けないだろう。


「はい。あたしたちは大丈夫ですけど、エイセルが……」


 ん?どっかで聞いた名だね?


 女3人で明るい場所まで引き出すと、あたしにしつこく声を掛けて来たあいつだった。


「ろくに抵抗もできず、ただやられてるんじゃしょうがないじゃないか」


 と(つぶや)いて呆れて見下ろしていると、ドヤドヤと走る4人の気配がある。


 重そうな足音は鎧か?肥っている訳ではなさそうなのは風の動きで読める。


「喧嘩というのはここか!?」

「喧嘩はちょっと違うんじゃない?こいつらが女3人を襲ったんだよ」


 4人の兵は伸びている男たちを改めて行く。エイセルも改めようとして連れの女に悲鳴を上げられ、戸惑っているのをクレハがそれは被害者だと止める。


 背の高い兵が

「どうやったかは詮索しませんが、こいつらは札付きです。今日という今日はこってり絞ってやります」

「よろしくです」


 連れの2人の女が頭を下げると、兵たちは半ば引きずるように3人を連行して行った。


「ありがとう。あなた小さいのに強いのね。あたしはネルカ。こっちは妹のトモル。このエイセルは弟なの」

「あたしはクレハ。今日この街に来たばかりだよ」

 

 エイセルってどっかで聞いたような……

 このまま放り出すのも、帰り道で何かあったら寝覚めが悪いか。


「護衛代わりに付いて行くよ」


 顔を腫らしたエイセルは17、8か。少し歳上に見える。

 170セロの無駄に大きな体を2人の姉が持ち上げようとするが、本人の膝に力がない。

 クレハは腰辺りに軽めの浮遊をかけた。


 上体の重みだけなら何とかなったようで、立ち上がらされたエイセルがなんとか歩いているように見える。ふらつきながらも移動できるようになった。


 すっかり浮かせてしまった方が楽なんだけど、ここでそれをやるわけにも行かないよね。


 家まで送り届けてあたしは夜のネロデールスを見下ろしていた。

 日の陰った街に上空は冷たい風が吹いていて、さっきまであんなに灯りが灯ってにぎやかな露店通りも、一つまた一つと灯りが消えて行く。


 上を見上げると雲のない夜空には一面の星々。セーシキドーで見た星空には及ばないが、青い光、黄色の光、赤いのや小さな雲のようなの。

 たまにはこうして、風に吹かれながら星を見るのもいいもんだね。


 駐車場所のトラクに戻るとセンサで外を監視してたんだろう、あたしが扉を開ける前に中からシルバが開けた。

 シルバの眉がひどく怒っている。


 あちゃー。


「クレハさま。こんな時間までなにをなさっておいでですか?その耳のボタンはなんのためのお持ちいただいていると?」

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