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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
2章 テトライン
22/48

6 ネロデールス


 川を渡ると細いが街道らしい馬車道があった。道幅は広いところで5メルくらい。ところどころに深い轍が食い込んで、ものすごく乗り心地は悪そうだ。左へ下ると町があるのでそちらへ向かう。

 シルバの計画図通りだ。


 クロがチェンソーを出して邪魔になる木を伐っていく。倒してしまえば、トラクが道路と一緒に処理して行くんだけど、細いのはそのままにしても、太い天然木の丸太は高く売れるんだ。まめに枝払いと玉切りだけしてクロが先行する。


 拡幅分に当たる木だけなんでそんなに手間でも無い。


 で、道が大きく曲がりくねった場所。

 後々トラク道路になる道だから曲がるにしても、なるべくゆったりと曲げておきたい。

 ここはそのまま進むところでしょう。


 クロの伐採作業が忙しくなった。

 そこであたしはジーナが大木を根こそぎに抜いた話を思い出したんだ。今のサイナス村は、ガルツ商会が来た時に引っ越したんだと言う。

 その時あの川のそばはまだ森で、ジーナが20本ほども大木を引っこ抜いて重ねて置いちゃったから、ロボトが始末に困ったんだと笑ってた。


 確かに大きな木を重ねておかれたんじゃ足場は悪いし、動かすのも容易じゃないよね。


「シルバ。木の伐採、あたしが手伝おうか?」

「はい?クレハさまがどのように手伝われると?」

「根こそぎにズボッと引っこ抜くよ」

「根こそぎでございますか?計算上は確かにできますね。おやりになったことは?」

「無いけどジーナがやった話は聞いてるよ」

「では、試してみましょうか」


 シルバの許可はもらったので、あたしは早速トラクの前へ出た。抜いた木の置き場所もあるからね。クロの邪魔にならないように、離れた木を抜きにかかる。

 根が張っているのでそう易々とは抜けて来ない。


 それでも5メル角の土を抜くつもりなら、どうということはなかった。

 ジーナが調子に乗って重ねて置いてしまったのも分かるよ。

 大木を引き抜くのは、気持ちが高揚するんだ。茂った枝葉まで入れると引き抜いた重さの割に達成感が違うって言うか。


 クロの枝払いや玉切りを待って、あたしが浮かせた要らない根や、細かったり曲がってたりの枝なんかを、ナックとシルバが引いてトラクの前に積み上げる。

 ある程度溜まるとトラクのマシン噴霧で木質(セルロース)の丸太に加工して脇へ転がす。100メル片付いたら、そこで道路の延長だ。


 そろそろお昼かという頃、正面の木が嫌に白っぽいとナックが言うんだ。見に行くとその奥に見えているのも白いような?


 なんだろうね?


 クロを手伝ってるシルバには声を掛けず、二人で覗きに行ったのがまずかったよ。


 手前の一本から垂れ下がる、不揃いで荒い目の布のような膜を潜って先へ進む。

 同じような紐というにはスカスカの細いものが何本となくぶら下がっていて、地面からちょっと太い白いきれいな糸で引っ張られている。


「こんなの見たことないよ」

「僕も初めてだ。糸が全部すごく白いんだね」

「糸ってこれ?」

「それも糸だけど、この紐みたいのは糸が撚り合わさってるんじゃない?」

「そうかも!へえー。糸なんだ」

「糸ってことは虫かな?蛹になるのに糸で繭を作ったりするのもいるよね?」

「そうなの?あたし、糸を使う虫って蜘蛛くらいかと思ったよ」


 そう言って糸が絡んだ木の幹に近づくと足元に大きな繭が転がっていた。

 形がなんとなく動物のように見える。見ようによっては脚を畳まれ首を下げたツノのない鹿?

 まさかね。


 あたしたちの足音に反応したのかバタバタと動いた。

 気配に敏感なあたしがそうやって暴れるまで生きていると思わなかった?


 ここで一気に違和感が出た。


「ナック。なんかおかしいよ?」

「えっ?」

「こいつ、動くまで気配が無かった。変だ」


 そう口にした途端、背中にゾワゾワと走るものがある。

 短剣を引き抜き振り返ると、白い隙間だらけの網目が天蓋のように広がるその上、茂る葉で薄暗い中に光る幾つもの目。


「ナック!」


 あたしの声にナックが振り向きながら剣を引き抜いた。腰にはプレスボウも下げているが、咄嗟には馴染んだ剣を使うようだ。


「なんだ?アレは蜘蛛か?」


 頭上で光っていた目が消える。

 どっちへ行った?


 ! 気配は頭上を超えて後に回る。


 あたしが再び振り向くと上からの気配に大きく飛び退いた。左肘がナックに当たりよろめいたナックの鼻先を掠めるように糸玉が降って来る。


「おわっ!あっぶね!」


 糸玉には太い、ベトつく糸が繋がっていてブルンと揺れる。


「ナック。プレスボウ!」

「あっ。そうか」


 剣を横に突き刺し、プレスボウを腰から外した。

 あたしが警戒する中カシカシ圧縮を掛け矢をセットした。

 あたしはナックに向かって飛んで来る糸玉を短剣の平で弾いた。

 弾いたつもりだった。


 弾くどころか糸玉はべったりとあたしの短剣に絡みつき、太い糸に引かれて短剣は手からもぎ取られる。


 バスッ!ドン!


 どこに当たったか知らないがすごい音がして、枝がいくつも降って来る。


 白い網天井に引っ掛から無ければ大惨事だよ!

 ギリギリ当たらなかったからいいようなもんだけど、ぶっとい枝がバキバキ言いながら、あたしの頭のとこまで降ってきたよ!


 その衝撃で結構大きな木がザワザワと揺れる。


 あ。

「アイツ。蜘蛛、どこ行った!?」

「見失った」


上を見ながらナックが答えた。


 バタバタと足音が響き、白いカーテンを突き破ってクロとシルバが飛び込んできた。


「ご無事ですか?」

「なんとかね。僕が爆裂矢(ボム)を使ったから逃げちゃったのかな。多分相手は蜘蛛だった。結構大きいと思うんだけど」

「じゃあこれは蜘蛛の巣ですか?」

「だから街道が曲がりくねってたのかなあ?」


 あたしの疑問にシルバが曖昧に答えた。

「そうかも知れません。もう離れてはいけませんよ?」

「「はーい」」


 トラクまでは200メル少々。こんなに近くなのにあんな目に遭うなんて。


 あたしはその鬱憤を木を引っこ抜くことで晴らして行く。10数本引っこ抜くと、さっきの白い糸を被った木のところまで来た。

 シルバとクロが警戒しナックがプレスボウを構える中、あたしは遠慮なく木を引っこ抜く。白糸被りの7本目を揺すって持ち上げた時、糸玉が飛んできた。シルバが長い枝でそれを払う。

 当然だけど枝にくっついた糸玉で蜘蛛と引っ張り合いになった。


 その糸を辿って、ナックが爆裂矢を撃ち込んだ。矢が届く前に糸の位置がずれたので外れたと分かったけど、その直後に爆発が起き上の枝が飛び散る。飛んで来る枝をクロが前へ出て防いでくれた。


「また逃げられた。絶対当たったと思ったのに!」


 ナックが悔しがった。


 警戒しながら白糸被りの伐採は進んで行った。繭になっていた鹿らしい動物は運び去られたようで、もう居なかった。


 あの爆発騒ぎから糸を纏った木が8本。

 巣として使われていた木はもうない。


「どっかへ逃げちゃったのかあ。とっちめてやろうと思ったのに」

「ナックさま。どちらかと言うと私達の方が侵入者なのです。逃げてくれてよかったのだと思いますよ?」

「そうかなあ。逃げた先で誰かに迷惑がなければ良いんだけど」



 日が傾き始めた頃、道は細い街道と合流して程なく街へ入った。町はネロデールスという名だった。

 やはりこれだけ離れているとなると、路線図にあったエストラという場所はもうないのだろう。


 門番に聞いた空き地にトラクを止める。

 ナックと2人、1軒の食堂に立ち寄って夕飯を注文して聞いた話では、大昔のエストラは山の怒りに触れて生き埋めになったそうだ。


 町が生き埋めって住んでた人も全部ってこと?何か大規模な災害ってことらしいね。


 トラクには寝台があるから宿には泊まらない。

 シルバはトカゲ肉を売ると言うし、ナックもそっちへ付いていくと言うので、あたしは雑貨屋に行ってみた。


 可愛い木彫りの人形があった。石人形の参考にしようとあたしが見ていると

「その子、可愛いでしょ。ぼくの姉さんが作ったんだよ」


 見ると背の高い青年がいい笑顔で手を差し出した。気取った感じが鼻に付く。


 この手ってなんで出したの?


 よく分からないのであたしが目を逸らし別のを見る。


「そっちは大したものじゃないよ。こっちをご覧よ。ほら、このリボンなんかとても可愛いと思うんだ」

「あんた、なんなの?あたしの邪魔をしたいわけ?」

「そうじゃないよ。いいものを見て欲しいと思ってさ」


 ほんと変なやつだなあ。

 あんまり関わり合いになりたくないので、あたしはフイっと店を出た。


 露天売りの果物屋をぶらぶらと見て歩く。見たことのない黄色い実が目に付いた。


「これ、見たことないんだけど何ていうの?」

「お嬢さん、ケイスルだよ。ちょっと酸味があるけど甘味も強くて美味しいよ。

 どうだい、いくつか買ってお行きよ。

 ほら、味見するかい?」


 言われた通り少しの酸っぱさに濃い甘み、なかなかに美味しい果物だ。ナックのお土産に4つ買った。


「あ、こんなとこにいた。君、女の子の独り歩きは危ないよ?」


 またコイツか。何が目的なんだ?


「僕はエイセルって言うんだ」

「クレハよ。さっきからなんなの?あんたみたいのが寄ってくるから危ないんでしょ。もう構わないでちょうだい」

「そうはいかないよ。ここらは本当に危ないんだ」


 すっごく胡散臭い笑顔に見える。

 あたしはそれ以上話をせず、クルリと後ろを向いて歩き始める。


「ちょ、ちょっと。そっちはダメだよ」


 何がダメなのよ?露店が並ぶよくある市の風景だ。人通りも多いし。どうってことないじゃない。


 2ブロック歩いてみたけど、後ろからアイツが付いて来るのでおちおち見物もできない。あたしは振り返って腰に手を置き睨みつける。


「どこまでついて来る気?迷惑なんだけど!」


 5歩くらいだから随分近い。なんだっていうんだろ。

 てか、驚いた顔しちゃって。あたしがすぐ後ろをついて来るあんたに気付いてない訳ないでしょ?


「わ、分かったよ。でも本当に危ないんだ」


 そう言ってあたふたと戻って行った。

 その背が雑踏に消えるまであたしは見ていたけど、めんどくさい目に遭ったよ。


 さて、気を取り直して見物、見物!

 心の中でちょっと気合を入れた。

 何軒かの露店を覗いて、5人くらい並んでいた棒付きの食事だかおやつだか分からない物を買った。

 並んでいた3人連れの娘が、ここのは美味しいのとか言ってるのを聞きつけたので並んでみたんだ。


 平らに削った木の棒に薄皮のように巻いているのは、キビの粉末を練って薄焼きにしたものらしい。中には細切り肉と野菜が入っていて、甘辛いソースが一緒に巻き込んで巻き込んである。

 そこそこの食べ応えがあって、これで40シルは安いんじゃないかな。


 リンドーにいた頃なら、到底買えやしなかったけどね。


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