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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
2章 テトライン
21/48

5 渡河


 トラクは順調にボードに出ている経路を進んでいる。川に突き当たると川沿いに向きを変え、斜面を降り始めた。

 水面まで10メル近いからちゃんとした仮道路を作って降りて行く。もういっぺん昇り降りしなきゃいけないらしいしね。

 なんでも川幅が広いので1度では橋が架けられないんだって。


 シルバが言うには橋の長さで400メル近く要るんだけど、ナノマシンの射程は100メルしかない。

 それで川の水が流れてるところだけ先に川底から橋を迫り上げちゃう。その分の材料は川底から取るんで底におっきな穴が開くけど、水の中だしそのうち自然と埋まるからいいや、ってことらしい。

 で、それでもまだ100メル以上の距離が両岸の斜面に残る。


 そこにも橋がないと渡れないよね?

 そこであたしの出番なんだよ。


 ミットさんはよくやる手で、浮かせた土の塊をクロに引いてもらうってのがあるんだって。

 今回は道路からちょっと離れた岸辺の土を、ガボッと浮かせて使っちゃう。

 川の中に立ち上げてある橋に向かって、桁を伸ばしていくんだ。もちろん根元は補強しておくから落っこちたりしないよ?

 そこはシルバがちゃんと計算してる。


 そうやってこっち側が出来たら、少し上流をザブザブとトラクで渡って向こう岸に行って、おんなじように向こうからも桁を伸ばせば、橋が繋がるってわけ。 

 両岸にでっかい穴ができちゃうけど、後で埋めればいいでしょ。


 あ。トラクは今はタイヤが8つ並んでるけど、リタイってのを巻いてクローラってのにするから、川を渡るのは大丈夫だって。

 最悪はあたしがトラクを浮かせるから、クロに引っ張ってもらう。


 川へ降りる3メル幅の斜路は順調に伸びて、予定した位置にトラクを据えた。 

 川面に正面を向けて停めると、マシンの散布が始まる。


 流れのある水の中だと言うのに、マシンはうまく川底まで届くのだろうか?

 あたしのそんな疑問をよそに、トラク運転席のボードには川底に取り付いたマシンで、予定の範囲が赤く染まった。

 あたしとナックは何が起きるのか期待して水面をじっと見ていたけど、それだけで何が起きるわけでもない。


 ボードではマシンを示す赤色がどんどん濃くなっていく。突然トラクのすぐ前の地面が大きく陥没してそこへ水が渦巻く。川向こうでも同じような陥没が起きたようで渦が見える。

 けれどそれでまた静かになった。


 何度かボードと川を見比べていると、川を横切るように波が見え始めた。

 水が畝って沈み込み、その先で跳ね上がるような動きが見える。

 跳ね上がる中には実際に飛沫を上げる場所も出て来た。

 ボードで見ると川底が凹んでいるのが分かる。


 水の動きに見入っていると波はだんだん治まって、そのあと手前、上流側で持ち上がるような動きに変わる。

 少しすると川水の量は変わらないのに流れが緩くなって、上流の水嵩が上がっていく。正面を1メル以上も高く乗り越えた波が、川幅いっぱいに元の水面にザバザバと叩きつけられて、まるで小さな滝のような有様だ。


 水嵩はさらに上がりどうなるんだと心配になった頃、橋桁が水面を破って現れた。

 ドウとすごい音がしたと思うと下流へむかって水の塊が走り始める。

 みるみる水位を下げた川の上を、立派な8メル道路を乗せた橋が持ち上がって行った。


 すぐに手前の橋脚で川が見えなくなってしまい、あたしは様子を見たくて上空へ跳んだ。

 橋脚は手前と奥の2本。川の流れを跨ぐ形でじわじわと持ち上がる。

 トラクが向きを変え仮設路を登り始めた。水中作業は終わりらしい。


 あたしがそのまま見ていると、川岸の道路終点に着いたトラクからシルバが手招きした。

 バックドアを開けたクロが長いロープを用意している。


「どうしたの?」

「先程説明しました通り、これからトラクの前に大量の土を運んでいただきたいのです。クロには場所を指示してありますので、持てる限りの土を浮揚させて下さい」


 あー。そんなこと言ってたね。持てる限りってどのくらいかなあ?


 下流へ向かうクロに付いて行って、示された場所の土を引っこ抜いた。5メル角見当の土を持ち上げてみた。

 もうちょっといけるかなあ?


 土が崩れだしたので圧縮の渦で包み込む。

 クロが周囲を回ってロープを掛けるとトラクの前方目掛けて引き始める。最初はなかなか動かない。


 ちゃんと引っ張ってるの?なんて思いながら見ているとだんだんと動き出す。

 いや、これって相当重いよね?そっか。クロでも大変なんだ?


 トラクまでたったの200メルほどだけど、結構かかったね。


「クレハさま、動き出したものを止めるのがまた厄介ですので、私の合図で地面に下ろしてもらえますか」

「いいよー」


 どう言う意味かよく分かんないけど、下ろすのは簡単だ。

 シルバの合図でトラク正面にズズッと下ろすと、少し崩れちゃった。シルバが大丈夫と請け合ったので、次を取りに戻る。

 さっき引っこ抜いた隣を同じくらい持ち上げる。運んで行くとトラクの前にさっきの土はもうなかった。


 ナックが運転席でボードに見入っている。どうなってるのか後で教えてもらおう。

 そうやって何度か運んでいるとトラクの前に橋桁が伸び始めた。そうなるとクロはずっと引くってわけにもいかないんじゃ?だって足場がないんだもの。


 川に立ち上がった作りかけの橋に向かって伸びて行く橋桁。トラクはそれに連れて前へ出るから間にはなんにもないんだ。どうするんだろ?


 クロはあたしが持ち上げた土を斜めに、トラクに向かって引く。足場になる場所がなくなるとロープをどんどん伸ばして橋の袂からトラクヘ向かって走る。

 トラクの前に着くと、そこからロープを引いて手繰ってはまた引く。


 長いロープはそう言うわけかー。


 あたしはシルバの合図で橋の上に土をズズズッと下ろした。


 まあ、そんなこんなで随分運んだけど、日が暮れる前には真ん中の橋の上には届かなかった。


 トカゲと遊んだ時間が無ければ届いたかもだけど、夕食に食べたあの子の美味しい焼肉に免じて許してあげよう。


 またどっかで狩りたいね。


   ・   ・   ・


 トラクが対岸に渡るのも予定通りとは行かなかった。

 川底にでっかい岩がゴロゴロしてたんだ。他の場所まで移動するのも大変なんで、クロが浮かせたトラクを対岸から引くことにした。B案ってやつだそうだ。


 ザブザブと川を先に渡ったクロにシルバがロープを投げるんだけど、遠いんだこれが。失敗してもう一度って、水に濡れたロープは重くてさっきより飛ばないじゃん!


 見かねたあたしが浮遊を使って真上にロープを引いて登る。横移動はあんまり得意じゃないけど、そのまま上空を川を横切って行く。クロの頭の上を超えた辺りでロープを離した。


 そしたらトラク側の方からロープが川に落ちて流されて行く。落ちて行く間にもロープはどんどん川に引っ張られて、残りあと僅かと言うところで落ちたロープの先っぽを、クロが飛び付くように掴んだまでは良かった。


 掴んだクロを引きずって行くほどの力がかかってたんだよ。80メルもある川に浸かったロープだからね。

 ロープ一本と言ったって120キルくらいのクロの体重で、どうにかなるもんじゃなかったよ。


 で、どうしたと思う?


 トラクは仮設路を戻って橋を渡ったんだ。で、行ける端っこまで行って、ロープをあたしがさっきのようのクロの上に落とした。

 さっきっ違うのは水がないってところだ。あるのは草や木が少し生えた斜面だ。ロープがすごい力で流されたりなんかしないんだ。

 あたしが浮かせたトラクは悠々と対岸に渡ったよ。


 夕方までにはこっち側にも大穴が開いたけど、橋は繋がった。


   ・   ・   ・


 朝からそのまま街へ向かって道を作るんだと思ってたら、そうは行かなかった。

 せっかく繋いだ橋を切り離すと言うんだ。今の方が丈夫でいいんじゃないの?


「クレハさま。この橋のように長い構造物というものは、夏冬の気温差で相当の伸び縮みがございます。

 このままにしておきますとこれからの夏、伸びた橋桁が行き場をなくして、(たわ)みを起こし折れてしまうでしょう。また冬には今度は大きく縮んで、どこかで千切れてしまいます。いずれにしましても何年と持たずこの橋は落ちるでしょう。

 それを防ぐため予め切れ目を入れ、縮んでも落ちてしまわない場所に伸び代を作っておくのです」


 その作業は橋桁の片側だけマシンで加工するだけなんで、ランカンと言う手すりを生やしても1ハワーまで掛からなかった。

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