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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
2章 テトライン
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1 チューブ列車に乗るの? サイナス

 レクサール駅の寸断されていた地下施設の一つを回ったあたしとナックは、暗闇の探検はもう十分だと言うことで意見の一致をみた。

 凶暴な生き物との出会いが欲しかったわけじゃないけど、正直、飽きた。


 そんなわけで今日は朝からトラクでテトラインのレクサール駅までの乗り入れ通路を作っている。

 あ、いや。あたしたちじゃなくて、シルバが。


 あたしたちは乗り入れ通路ができるのを待つのも退屈なのでハイエデンにお買い物だ。


 作業トラクの狭い居室で退屈しないように、おもちゃや本を仕入れようと言うところ。


「ミットはぬいぐるみを移動の暇に任せていっぱい作るんだ。ウチなんかいくら売り払ってもミットの部屋からぬいぐるみが溢れてくるんだぞ」


 へえ。売れるくらい出来がいいのか。

 てか、その割には居間には一つも置いてなかったじゃない?

 そう言いかけてやめた。ナックの目が真剣だったから。あの目は下手なこと言うとこっちが痛い目に遭いそう。


「あたしも何か趣味を持たないとダメかなあ?」

「どうだろ。アリス姉さんなんか特に趣味ってないみたいだったけど。いっつも何考えてんだかボーっとしてたよ?」

「ふうん?あたし、話したことないんだよね」

「シロル姉さんは食器磨き。台所の床近くに箱があってね、そんなに数はないんだけどすっごく綺麗な食器が仕舞ってあってさ。それを大事そうに磨くんだ。あと、調味料とかハーブのお茶とか作ってたなあ。僕はあんまり美味しいと思わないんだけどさ」

「へえ。それはオシャレだね。あたしは何にしよう……」


 てか、シロルさんってお姉さんもいるんだ?ナックの家族ってあんま、知らなかったね。


 ふらふらと商館を回ってトルケス商会のウインドウの前を通る。そこであたしの目はいくつかの小物に釘付けになった。石細工だ。

 背丈5セロの可愛い灰色うさぎ。甲羅がツヤツヤ緑の小さなカメ。今にもウインドウを突き破って駆け出しそうな体長10セロの白馬。思わず背を撫でたくなるような艶やかな毛並みの黒猫。これは少し大きく見えるけど比べると馬と同じ位だ。


「ナック。これ、石だよね。どうやったんだろ。すっごい可愛い!」

「へえ。本当だ。すごいね。高いんだろうなー」

「あたしもこんなの作ってみたいな」

「でもなんか道具とか要るんじゃないの?」

「んー。どうだろ。ジーナに圧縮ってのを教わったんだよね。うまくやると表面がツヤッツヤに仕上がるんだ。あれを工夫すれば面白いかもね」

「ふうん。じゃあもう少し詳しく聞いてみたらいいじゃない。僕もばあちゃんの顔見たいからちょっと寄ってみる?」


 なんだか話の流れでサイナス行くことになっちゃった。



 ナックと2人でサイナス村上空。

 村の人は転移を見てもそう驚くもんじゃないけど、この頃は買付けや配達のトラクが村を出入りしてる。

 系譜の能力は知られない方がいいから、一度は上空へ出るんだ。


 あ、ジーナはお屋敷にいない。

 気配で知ったあたしはそのまま海の方へ跳ぶ。


 いたいた!蟹の生簀のそばで5人の男と何か作業をしている。


「ジーナー!」「ばあちゃん!」


 ナックも隣で叫ぶ。


「おお、よう来たのお」

「ナック坊ちゃん。クレハもいいとこへ来なすった。ジーナ様、これは奮発せねばなりませんのう」

「そうですじゃ」「楽しみじゃわい」


 ちょーっとジーナに石人形に使えそうな技を聞こうと寄っただけなのに、おっさんたち宴会モードだよ?どーなってんの?


 あたしが何か言おうとするたびに被せるように、この頃の魚の捕れ具合だの、畑の野菜は何が順調だのと言ってくるおっさんども。

 なんだかんだで、宴会の準備が進んでいく。

 ナックの方はジーナばあちゃんの顔を見たのでご機嫌だ。


 荷車に脚を束ねたカニを積んでおっさんたちが歩き出す。


「ジーナ。可愛い石の置物を見つけたんだ。あれ、作ってみたいんだけどなんか方法ある?」

「石か。そうだの……ワシは大雑把じゃでの。ミットさんは……」


 あ、それ、聞かなくても分かる。


「はて。おまえの姉弟子にエイラと言うのがおるで、聞いてみたらどうじゃ?」

「エイラ…さん?」


「どれ。エイラさん、聞こえるかのう?」


 え?今呼んじゃうの?


「いや、なにな、この間も言うたであろう。クレハじゃ。石で人形を作りたいと言うんじゃ。それでの……

 おお、そうじゃ。うん。

 うん。ああ、分かった」


 んー?どうなってるんだ?


「エイラは今出先らしいでの。手が空いたらおまえのところに連絡するそうじゃ」


 そうか。そう言うこともあるんだろうね。


「ワシもエイラのやり方を見ての、少し考えたことがあるのじゃ。とと。ナックは村へ送るゆえ。

 クレハはちょっと遠出じゃの」


 村の屋外調理場には女衆が、野草の下拵えや干し肉を戻す作業をしていた。


「わあっ。すごいご馳走だね!」


 まだ食べられるようになるには手間も時間もかかるだろうに、ナックにはどんな料理になるのか楽しみで仕方ないと言う様子で、下拵えの作業場へ寄って行く。

 そんなところが血の繋がりはないがジーナが孫とも言う、それだけではない、女衆からもナックは我が子のように可愛がられる所以だろう。あたしなんかとは扱いが違う。


 ジーナに付き合う今日はそれが好都合と言える。


 ジーナが跳んだ。あたしも続く。


 出た先は西の内海を半周も回った、山が幾重にも(ひだ)のように連なる一帯の上空だ。

 あたしが追いついてもジーナは動かない。


 じっと下の山並みを見ている。 どうしたのかと声をかけようとしたその時、ジーナは再び跳んだ。海辺を走るトラク街道から数本の山並みを超えた先。

 出た途端に空気が違う。気温が妙に高いのだ。


 見ると、さほど高い山でもないその中腹に、木々の間に隠れるようにポッカリと小さな洞窟がある。

 熱気はそのあたりから漂っていた。


 そこまで見て取るとジーナがまた跳んだ。近くの内海から抱えきれない量の水を持ち上げると、あたしにも持って来いと言ってあの洞窟の前へ跳んで行った。


 慌てて持てるだけの水を浮揚で浮かせあたしも跳ぶ。慌てたので随分な量を取り溢した。

 それでも1トン近い量は運べたろう。


 ジーナは洞窟の少し上に浮いて待っていた。

 あたしが現れると真っ直ぐ洞窟を指差し「放り込め!」と怒鳴った。

 頭の中にも響いたからツーシンも併用したんだろう。


 あたしは持ってきた水塊を洞窟にゆっくりと押し込んだ。


 《上へ逃げるんじゃ》

 ジーナの声に従って上へ跳ぶ。あたしの制御を離れた水が一気に中へ流れ込んだ。


 ドッゴオオォォーーン


 ものすごい音と共に洞窟が弾けた。岩も近くの木々も諸共に吹き飛ぶ。穴からは白煙が噴き上げる。

 飛び出す岩の破片が収まると、ジーナが持ってきていた水塊を叩きつけるように突っ込んだ。


 ボッフフォォォーーー


 今度は爆発は起こらず、大量の白煙が噴き上げる。


 しばらくあたしたちは穴からもうもうと立ち上る白い湯気を眺めていた。


「上手く行ったわい」

「なんだったの、あれ」

「ロック狩りじゃ。遮蔽材を補充したかったのじゃ」

「遮蔽材って、壺にすると高く売れるやつ?」

「そうじゃ。ミットさんの回るジーラインとやらは遠くての。あのチューブだけでは時間がかかり過ぎるのだそうでの。

 少し補充しておかなければ安心できぬ」


「……ねえ、ジーナ。考えたことって?」

「そう慌てるでない。話はこれからからじゃで。力仕事を手伝って欲しかったのもあるが、クレハ。ここから洞窟の奥にある遮蔽材が分かるか?」

「え?この距離で?」


 だいたいこの洞窟の深さも分からないのに。試すにしてももう少しやり方ってものが……


 ともかく、あたしは細い渦を作って白煙の渦巻く岩屋の奥へと延ばして行った。一昨日の穿孔目玉(カメラ)でやった手法だ。


「ふふ。面白いのう」


 何言ってるのよ?教えもしないで笑うなんて。


「あ。なんかあるね。遮蔽材?

 ……なんか、動物の骨みたいな感触……?」

「そうかの。その渦の使い方はワシは初めて見るのう。これだから面白いのじゃ」

「………」

「そんな顔をするでない。では一握りで良い。遮蔽材をここへ出せるか?

 ああ、まだ相当熱いと思うゆえ、触らぬ方が良いぞ」


 あれを千切るっていうの?確かに感触は遮蔽材が断然分かりやすいけど……

 ええっと、手でやるときはこんな渦を手に纏わせて……

 あ。取れた!

 そっからどうしようか、引っ張り出す?

 ああ、動かせそう……もうちょっと……

 渦が細いままだと、もどかしいね。転移だとどうかな……

 あれ?転移の渦ってこうだよね?上手くいかない?

 自分があそこへ跳ぶならこんな渦で……

 あ。そうか。きっと逆にすれば……こうかな……?


 ポンっとあたしの前に遮蔽材の塊が現れた。太さ5セロほど、あたしの前腕くらいの大きさ。こんなのでも100キルを超える。

 あの渦で動かなかったのも、こうして目で見ると良く分かる。感触では分からなかったけど、重すぎたんだ。


「ほう。大物じゃの。海で冷やそうぞ」


 あたしはジーナを追って浜辺へ跳んだ。

 遮蔽材を海に沈めるとジュウといい音がして水が跳ね飛ぶ。

 この浜は大き目の石がゴロゴロしてる石浜だ。さまざまな色の丸っこい石が積み重なって転がってっている。


「ワシはあまり上手くはないのだがの。見ておれ」


 ジーナが足元の石を圧縮の渦で包んだ。あれは修行の時に見たやつだ。

 と、その渦が薄い円板状に変化する。

 ピシッと音がして固そうな石が3つに切断された。


「ふう。どれ。どんな塩梅じゃ?」


 中間の薄い丸板状の部分をジーナが拾い上げ、

「ふむ。ワシにしては頑張った方じゃの。ほれ。見てみるがええ」


 あたしの拳くらいの石版は厚さは1セロを切っていて、美しい石の模様がツヤツヤの切断面に見える。


 圧縮の渦か。


「じゃがのう。わしゃできるのはここまでじゃ。ワシの部屋へ行こう」


 また先に跳ぶジーナを追って村長屋敷の居室。

 床板の一部が蓋になっていて、それを脇に置いたジーナが下を覗き込んでいた。


「ええと、これじゃったかのう?まあ良いか。まとめて見てみようかの」


 ひと抱えもある大きな箱が3つ浮き上がる。

 一つ目は外れだったようでもジーナが肩を落とす。


「おお。これじゃ!見るがええ!」


 興奮した様子にあたしも中を覗き込んだ。さして変わっているとも思えない木の椀に、ガルツ商会で普通に買えそうなどんぶりや皿。


 こんな模様のは見たことないけど、このペラペラな雰囲気は絶対アレだよ。


 皿は思ったよりもずっと重かった。厚みはほとんどない。すごく薄い。なのにこの重さは?


 「どうじゃ?」


 顔に笑みを浮かべジーナが尋ねる。


「これ、まさか石?」

「エイラは岩と言っておった。似た模様の皿なんかを大量に作るそうじゃ。木椀も見た通りのものではないぞえ」


 岩を?こんな薄く?


「この形で切り取るの?」

「いや。最初は円柱にするんじゃと。この皿なら20セロかのう。それをワシがやったようにごく薄い円板に切り出すそうじゃ。で、エイラが言うには片面だけ、しかも曲げたい部分だけ圧縮をかけるそうでな。ワシも何度か挑戦してみたが、皆割れてしもうた。

 木椀の方はその形で切り出しとったよ。それから乾燥させて、歪みを直しながら表面に圧縮で仕上げるそうじゃ。これは生木からその場で作ったゆえ、外側は圧縮しておらんのじゃ。歪みも出ておろう?」


 すごい!確かに木椀の外側はざらっとしてるし歪みがある。でも内側の艶はなんだろう。木目は見えているし、何か塗ったようでもないのに。

 そこで箱の隅に石の極薄い板を見つけた。

 あれ?この薄片は?


 それは3セロの8角形、向こうが透けて見えそうに薄い石の板。


「ああ。それはの。エイラが狩ったと言う鳥の首から出てきたのじゃ。包丁で首を叩き切ったら出てきたそうでの。割れもせず取り出せたのでワシが預かった」


 一体どうやってこんなものを鳥の首に?


 その頃ナックのボタンにシルバからツーシンが入っていたことをあたしは知らなかった。

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