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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
1章 冒険の始まり
16/48

9 作業トラクと大空洞


 チューブ列車でやって来た作業トラクを受け取って、ヒヤヒヤしながら乗り場から通路に移動した。


 だってあそこを曲がるのいっぱいいっぱいなんだもの。どこを見てもあと30セロ、50セロって感じでホント狭いんだから!

 いつゴリって擦るか、気が気じゃなかったよ。


 で、あたしたちは届いたトラクに乗って移動中。乗り場にそのまま置いておくわけにもいかない。他のトラクやバスの乗り降りの邪魔になっちゃうからね。

 基本、運転はシルバが片手間でやるので、あたし達は前のハンドルやペダル、いろんなスイッチの並ぶ観覧席で移ろう景色を眺めてた。



 通路を出て右が谷底へ降りる斜路、正面がレクサス作業場へ渡る屋根付き橋。

 トラクは谷底へ向かった。

 斜路を降りきるとUターンするように左へ折り返しだ。今降りて来たばかりの斜路の下に潜り込む。

 斜路って岩壁の途中にくっ付けた厚手の(ひさし)みたいになっていて、下には空間があるんだ。ゴロゴロしてる大岩を射程に収めたらナノマシンを噴射すんだって。その様子をシルバがホログラムってのを出して見せてくれた。


 最初の作業トラクは20メルのポールを人が細かい測量したあと配置して、そこからナノマシンを噴射してたらしい。そんなの4人乗ってても大変な作業だよね。

 でも今はトラクのボードを見ながら操作できて、射程100メルが一気に噴射できて、20メニで道路ができちゃう。ナノマシンの重さを増やして、お互いの結びつきが強くなるように改良したとか、シルバが訳知りに説明してるけどあたしにはさっぱりだよ。

 ナックが頷いてるけどホントに分かってんのかな?


 見ている間にも前の大岩が小さく縮んで、その下の地面の色が変わる。よく見るトラク街道の路面の、ちょっと濃い灰色だ。


「僕、ミットのトラクに乗ったことあるよ。ちっちゃい頃だけど」


 そう言えばそんな話も聞いたね。ナックがいっつも危ないとこに行きたがるんで、作業トラクから下ろしてシルバが面倒見てるって、あれ?

 今と一緒か?


 道路作りを見せるのと駐車場確保が目的だったらしく、庇の下へ作業トラクを移動するとシルバが言う。

「クレハさま、空洞探索へ戻りましょう」


 あ、戻っていいのね。


 トラクの中から3人まとめて暗い洞窟のテーブル前に一度で跳ぶ。置いたお弁当の入れ物はそのまま灯りの中にあった。

 シルバがそれを背嚢にしまうと

「では、上へ参りますか?」

「そうだね」


 さてネクサール駅の地下空洞の探検再開だ。

 次の階は5つ目に当たる。一区画に何やら見慣れない金属製の道具が埃を被って並んでいた。

 それぞれに人が座れるようなクッション入りの椅子が付いていたり、いろんな形がある。


 なんだろね、これ。あちこち部品が劣化して欠落してるっぽい。椅子っぽいのもワタ?が飛び出して朽ちてるし。


「私にも分かりません。なんでしょう」


 隣りの区画はこじんまりした宿屋の部屋みたいだね。ベッドが一つ、小さなテーブルに椅子、ちょっと物が置ける飾り棚に載ったボード。パイプが片っぽ落ちてるけど、服を掛けるやつかな、これ。

 それだけでいっぱいの広さだから安宿の一室って感じだ。

 小さな部屋はいくつも並んでいた。30以上あるみたいで、その奥の区画は倉庫?かな、空き棚ばかりで物がないんですけど。

 いや、シルバが埃の下から薄い板を何枚か見つけた。5セロ掛け10セロくらいで、何か書いてあったようだけど掠れてほとんど読めない。


 ぐるっと別の廊下を戻ったけどこの階は大した収穫はなかったね。上、行ってみよう!


 相変わらずの暗がりを額に付けた灯りと手持ちの灯りを頼りに探検だ。

 今までより倍は長い階段を登った先は……なんだこれ、広い!

 あたしたちが出た床から、なだらかに向こうへ下がっていく広場、ってか通路。間にあるちょっと高いのは?なんだこれ?


「椅子ですね。座面が立ててあるのでそれほど傷んでいません」


 シルバが手で押すと前に広がるように回転して座る場所が現れた。そんなのが1列20個くらい並んでいて……何人座れるの、ここ?


 シルバが照度の大きな灯りを背嚢から出して灯した。

 浮かび上がる広い空間を見回すと遠くに見える正面が一段高い。緩い階段になっている通路を降りて行く。タンタンと響く足音に埃が舞う。

 振り返ると埃の雲を引き連れて歩いてるみたいだ。



 正面の段は2メル近くもこちらより高い。上から厚手の布のような物が下がっている。

 半分くらいは裂けて垂れ下がってるけど、元が丈夫な生地なのか、ちゃんとしてるとこもある。

 けど、それが邪魔で向こうは見えないんだよね。


「大きいですね。高さ15メル、幅35メルですか。

 これはおそらく舞台ですね。ここは劇場か映画館と言ったところでしょうか」

「なに、ゲキジョウって?」

「大勢の人を集めて演劇や映画を見せる場所ですが、ご存知ありませんでしたか?」

「そんなの知ってる人って、シルバに教わった僕くらいじゃないの?」

「そうでしたか?そう言えばリシャインの庁舎にひとつありますね」


「ふうん。でもこんなに人が集まるんだ」


 あたしが振り向くとシルバも光量の多い灯りを回してくれた。あたしたちの通った通路が煙ってるけど他はよく見える。左右から奥に向かって壁からコの字に広い棚が生えている。


「何あれ?」

「2階席と呼ばれる物ですね。あの上にも同じように椅子が並んでいるのでしょう。とすればザッと2000席でしょうか」


 シルバが戻した灯りに段の脇にある扉が見えた。あたしがそっちへ歩き出す。


「クレハ。なんかあった?」

「ドアっぽいのが見えた」

「クレハさまは目が良いですね」


 見えたのは影の具合だったのか、同じ塗料で塗られているのでそばで見ても輪郭が分かりにくい。

 折りたたみ式の取っ手と小さな穴がある以外は特に変わったところもない。

 シルバが取っ手を回し引いた。ロックはかかっていなかったみたいであっさり開く。ギギイィと耳障りな音が辺りに響いた。


 2メルを超えるやや広い通路が灯りに浮かび上がる。

「大きなものの搬入口でしょうか?」


 ここにも埃が積もっていてネズミみたいな小さな足跡が数列並んでいた。

 シルバが灯りを向けると奥に階段が見える。そこまで確認してシルバはその強い灯りを背嚢にしまった。あまり長時間は使えないのだと言う。


 シルバが先頭で通路を進む。

 階段の手前には空の棚が並ぶ物置風の部屋スペースであまり広さはない。その向かいに並ぶ扉の奥には片側の壁にいくつもの鏡が並び、テーブルと椅子がその下に10人分も並ぶ細長い部屋。

 数えると8部屋あった。


 階段を登った先を右に折れるとその左にも、テーブル、椅子を中央に配置した小部屋がいくつも並んでいる。

 中央の大扉の中は倉庫。大きな家や階段など、場違いな物の実物大模型らしいものや、模造剣、ハリボテの怪物なんかがあって、どう言う脈絡なのかさっぱりだけど見応えがあって面白い。


 そして右側がシルバが舞台といった場所だった。奥行き12メル幅は50メルに近い平らな床の両端は、カーテンではなく壁の裏側になっていて正面からは見えない。

 下から見た朽ち掛けの生地が床に小山をなしている。そこから見えたのは確かにさっきまでいた、畳まれた椅子の列だった。


 これでこの階も一通り見たことになる。次の階へ進む頃合いだろう。


 階段室は次で最上階らしく行き止まりで、出た先はだだっ広い床に丸テーブルと4脚の椅子をひと組として並んだ、食堂のような場所だった。

 奥の突き当たりに明るい場所があって気になるけど、まずは順に見ていくべきだろう。


 右手に行ってみると厨房施設があった。テーブルのある広場とは区切るようにカウンターがあって、それも5つの区画に分かれていた。


 きっとこのカウンターで料理を受け取って好きな席で食べたのだろう。席で待つ家族や友人の料理を代表して運んだのかもしれない。

 なんとなくそんな楽しげな光景をクレハは思い浮べた。


 左手にも同じような厨房があり、いよいよ中央の明かりの元を探る。

 近づくとそこは階段室でさらに登ることができるようだった。光は上から差している。


 階段は長かった。登るに連れ、踊り場を曲がるたびに光は強くなる。


 何度目かの曲がりの後、急に目の前が開けた。

 白いホール。何かが朽ちて潰れ、その上に土埃が積もっている。そんな小山がポツリポツリと見える。一面真っ白だった空間が目が慣れるにつれ床は薄茶色、天井は淡い水色、と目に飛び込み、そして白い壁かと思ったところにさまざまな緑が揺れていた。


 見回すと背後の階段室は壁の中、あとの3面は全部木や草の緑色がざわめいている。


 これって山の上?


 思わず駆け出すと盛大に埃が舞い、後ろでナックが咳き込んだ。10歩ほどで驚いて止まったあたしにも雲は追いついて来て、顔を背けゆっくり後退さった。


「大きく動いてはいけません」

 霞む階段室へ苦しげなナックを引き込みながらシルバが言った。


「日の光というものは、物の劣化を促すのです。また窓の隙間から外気の流入があるのでしょう。ここの埃が多いのはそのためです」


 足跡を見ると埃の厚さは5セロ以上もあるようだ。


「ナックは大丈夫?」

「吸入処置しましたのですぐに治まるでしょう」


 ここに突っ立っていてもしょうがない。

 あたしはシルバが窓だと言う外側へ、足元を乱さないようにゆっくりと移動した。立ち止まって目を上げると、風に揺れる木の葉が視界一杯に広がっている。


 何かが埋まっているらしい小さな山を避けながら、広いホールを半ばまで横断していると後ろでシルバの動き出す気配があった。


 何か埃を抑えるものを思い付いたのだろう。振り向いて見てもまだ埃の雲で霞んで、何をしているかまでは分からない。

 あたしは一歩一歩足元を見ながら前へ進んでいった。


 それは見るからに大きな窓だった。高さは床の埃の下から天井までの3メルあまり。幅は10数メルはある壁一杯で継ぎ目が見えない。透明な板の向こうにも吹き溜まりのように、腐葉土と枯れ葉が(うずたか)く積もった場所がある。

 埃や枯れ葉の積もり具合から見ても古いものだろうに、窓に曇りや傷らしいものは見えない。風と匂いはないけれど目に見える開放感がそこにはあった。


 こうやって外が見えるとなれば外へ出てみたい。あたしは出口を探して見回して、その迂闊さに我ながら呆れた。


 見えているんだから外へ跳べば良いんだった!


 窓の外へ!そのまま上空へ跳ぶ。

 この手順はいつものこと。あたしはいつも上から見た絵と跳べる場所をセットにしている。

 降りて良いかどうか確認のため、一旦は上空から下を見るからだ。


 シルバのボードで見た通りネクサール駅の北寄りの山の中、中腹に一つ突き出た木の茂った尾根の一つがあの空洞の位置だった。

 あの窓の上にも木が茂っていて、上からでは何かあるようには全く見えない。


 あ。もう一つ思いついちゃった!


 あたしは埃だらけの窓の内側へ跳ぶ。

 そしたらシルバが階段の出口から5メルくらい埃を固めてホールに進出していた。


 これじゃ、いつになるか分かんないね。


「シルバ。埃、まとめて外に出しちゃうよ」

「外へ?ああ、そうでございました。クレハさま、お願いします」


 すぐにあたしの考えが分かったらしい。屈んで床スレスレにぐるっと手を翳すと階段室へ引っ込んだ。

 あの仕草はなんだったのかと思ったけど、まあいいや。

 あたしはこのホールの床全体に渦を広げる。薄く。広く。壁に当たるまで。


 あたしは上空へ跳んだ。下は一面の森林だ。顔に気持ちのいい風が当たる。足元では一緒に連れて来た薄茶色の絨毯がバラバラに砕け散り、吹き抜ける風であっという間に流れて消えた。

 ちょっと空の散歩を楽しんであたしはあのホールへ戻った。


 結局、探検した最初の大空洞は広い7層の構造物だった。


 面白かったねー。

 

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