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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
1章 冒険の始まり
15/48

8 穿孔|目玉《カメラ》

 シルバに『穿孔目玉』のことを聞いたあたしは、系譜同士の通話を通じてミットさん所へ跳んだ。


 出たとたん、耳元でゴウと風鳴りがした。足元には何もなく眼下の半分は水、残りは急峻な山。その中の一つがあたしに向かって突き上げ丸い火口が紺碧の水を湛えている。


 あたしが転移から出た先は空中だった。


「ヤッホー。取り込み中で悪かったねー。

 あたいは見張り中でさー。ここで待ちなんだよー」

 ミットさんが隣で下を見たまま言った。

 状況が掴めない。何を待ってるって?


「あはははー。さっき言った穿孔目玉はこれー。2つとも持ってっていーよー。使い方はねー」


 いつものチョッキ短パンタイツではなく艶なし濃緑の防寒着上下で太って見える。

 あたしも厚手で丈夫な生地のゴツい上下だけど……寒い!


 ブルっと震えたあたしを横目で見て口元を緩めたミットさんが説明を始めた。もちろん下への注意は離れない。


「この筒がそーだよ。こっちが向こう側。中に目玉と灯りが入ってる。壁とかに押しつけてここの印を合わせるように回すんだ。

 そーするとナノマシンちっさなトンネルを掘って進んでく。目玉と灯りも連れてってくれるから、ボード見て向こうの様子が掴めたら跳ぶー。簡単でしょー?」

「ボードはシルバに借りればいいか。でもここ、すごい眺めだね。何があるの?」

「ミドリグモ狩りなんだけど、ちょっと厄介ごとでねー。お肉美味しーからうまく行ったら分けてあげるねー」


 なんか詳しく聞いちゃいけない感じ?


「楽しみにしてるね。ありがとう」


 あそこで何が起きるのか見たい気持ちはあったけど、寒いしナックも退屈だろうな。



 戻ってみると相変わらずの様子だ。


「シルバ。貰ってきたよ。この辺でいいかな?」

「お待ち下さい。方向をうまく合わせませんと穿孔距離が長くなってしまいます。ちょっとお借りしますね」


 そう言って身体を屈め、しっかりと穿孔目玉(カメラ)の筒を壁に当てがうと

「これで起動して頂けますか?」


 えーっと、この印に合うとこまで回すんだよね。ナックが興味津々の様子で見守る中あたしは筒の手前側を回した。


「そちらの通路掘削はしばらく放っておいても問題ありません。こちらは水平に掘るので、筒が安定するまでしばらく押さえている必要があります。到達するまで15メニほどでしょうか」

「おー。やっぱりこっちが早いか」

「クレハ。探検、行けそうだね!」


 ナックの声が弾む。どうせ作業トラクが来たってこんな狭い通路には入って来られない。本格的にはシルバの通路ができないとだけど、あたしがみんな連れて跳ぶ分には問題ない。

 あたしもワクワクだよ!


 シルバの一人通るのがやっとの大きさなのに、トンネルは使えるナノマシンが少ないせいもあって全然進んでいない。明日の朝には使えるらしいけどそれじゃあんまりだよね。


「出たようですね」


 シルバの声にボードを覗き込む。

「よく分かんないけど、狭くない?」

「そうですね。狭そうです。筒はもう伸ばせないのでこちらから棒を作って押し出してみます」


 シルバが通路の奥から土の塊を持ち出して指くらいの棒に加工する。それをスルスルと筒の中に押し込んだ。ボードに押し込んだ棒の先端が映ると棒を回して目玉(カメラ)に付いた紐を絡め取る。


 シルバはあっさりやってるけど、この絵だけ今の動きは難しそう!


 シルバの押し込みに合わせて目玉が空洞を進んで行く。5歩分ほど押し込むと結構広そうだ。


「ちょっとぐるっと見せて!」


 ボードの絵だけで雰囲気掴むのは思ったより大変っだった。しょうがないんで渦を細く伸ばして筒に押し込んでみた。渦の感触とボードの絵を合わせて何とかこんなかな?くらいの印象が得られたよ。


 行けるかな?

 渦の先っぽ目がけて跳ぶ。


 真っ暗な中にポツンと灯りが浮いていた。

 片足が何かに当たって真っ直ぐ立てない。転ばないように屈んで手をつく。

 目が慣れてくると少しずつ見えて来る。足元にはには天井が崩れてゴツゴツとした塊が半ば土で埋まっていて、変に動くと転んでしまいそう。


 あたしは背嚢から幾つか灯りを追加して、周りがよく見えるようにした。


 探検はこうでないとね!


 少し奥なら足元も平らだ。そこにも灯りを出して、目玉の向こうのナックに2本指を立てる。


 やっぱり歳の近いナックがいると、ちょっとはしゃいじゃうよね!


 転移で戻った先にはナックがケラケラ笑っていた。シルバとナックを連れて暗がりへ戻る。今度はあたしの目はすぐに慣れた。


「あっちより広いね!」

「そうだね。この辺から部屋っぽいかな。天井も高くなってるし」

「マッピングを開始しますね。何がいないとも限りませんので、注意して進んでください」


 床にはうっすらと土埃が積もっている。後ろを見ると、あたしたちの足跡がクッキリ残っていた。灯りの照度を上げて額に紐で留めると、あたしとナックは偵察を開始した。


 最初の部屋はがらんどうみたいだね。そう思っていたらボウッと大きな影が暗がりから姿を現した。なんか箱っぽい。


「小さめのトラクですね。駐車場でしょうか?」

「こんな小さいのもあるんだ?何度も走らないといけなくて大変だね」

「同じ町内など近間の配送用です。少しずつ配るので荷台が小さい方が探す手間がないし積み下ろしも楽ですから」

「へえー。シルバ、詳しいね」

「私は元々配送トラクの荷物番ですから。アリス様に改造いただいて今の仕事に就いておりますが、角の支柱部分に収まるよう細く作られているのですよ」


 いつも訳知り顔のシルバが、ひどく細い箱型の柱に窮屈そうに入って、ジッとしてるのを想像しちゃったよ。


「支柱に収まる!それ、おかしい!あははははは」

「そんなに笑っちゃかわいそうだよ、ナック。

 ぷぷっ!」


 シルバの眉、駄々下がりー。

 もう少し小さく角の丸い箱もいくつかあるね。


「あれってジョーヨーで合ってる?」

「はい。今のものと形が少々違いますが、6人乗りのようですね。駐車場ということはどこかに地上へ出られる通路があると思われます」


 ところどころの太い柱が立っているけどかなり広い部屋だ。光が届かないんでよく分からないけど、100メル以上あるんじゃないかな?

 歩いて行くと突き当たりの壁に窪みがあった。階段だね。隣りのドアっぽいのはなんだろう。開けるための取っ手がない。


「こちらはエレベーターでしょう。スイッチで合図して動力で重い扉を開きます。クレハさまは乗ったことはなかったですか?」


 首を傾げるあたしにナックが自慢げに言った。

「僕はトリスタンでミットに連れてってもらって何度か乗ったよ。これに乗ると上とか下の離れた階に行けるんだ」

「残念ながら動力が切れているようです。動かないと思いますので、階段を使いましょう」


 階段室は上への階段と大きな鉄扉があった。シルバが取っ手を試してみて、ナノマシンで解錠していた。開いてみると下へ行く階段だった。


 せっかくだから降りてみよう。

 ところが10数段降りたところの踊り場から下が水に浸かっている。


「これは作業班待ちですね。上を見てみましょう」


 上の階も同じような駐車場だった。トラクやジョーヨーが10台ほどパラパラと駐まっているだけだ。


 3つ目の階は3本の廊下で仕切られ、10メル角くらいの小部屋に作業机が並ぶ、オフィスのようなスペースだった。

 階段脇に広いロッカの並ぶ部屋があり、中には変わったデザインの衣類が入っていた。虫喰いがひどくて着られないけど、参考になるのでシルバが記録を取らねばという。


 オフィスのどの机の上にも黒い自立式のボードと、タンマツと呼ばれる箱、作業小物が置いてあって、風化した紙束が埃に埋まっていた。

 シルバによるとこのボードやタンマツはデンシブヒンと呼ばれ、ナノマシンの材料の使えるんだそうだ。


 棚の上や引き出しの中にもさまざまな小物が入っていたが、大体は劣化が進み使えない。分解できるものはマシンで再構成するのでとりあえず回収になる。これも作業班にお任せだ。


 次の回も似たようなオフィススペースだったが、机の数が少ない部屋が多い。そういう部屋は長椅子や飾り棚が多く、机や椅子も大きなものが置いてある。

 一部はそれとわかる食堂スペースで、棚に収められた食器や調理器具はお宝ものらしい。洗い場に積み重なっている分は何やらこびりついて変色していて、これは廃棄だろう。シルバがいじる洗い場の上に翳された管からは水は出なかった。


 真っ暗な中ここまで灯りを頼りに見て歩いたので、時間が結構かかっていてお腹が鳴り始める。


 埃が舞わないようにテーブルの上をシルバが残り少ないナノマシンで一つ片付け、お弁当タイムとなった。

 野菜とキノコの煮付けに、焼いたクレイドス肉の腸詰めを切り分け、薄切りパンで挟んで食べる簡単な昼食だ。カップの水で流し込むように食べる。


 これでも宿舎から出来立てを詰めて貰っているので、野営食より何倍も豪華だ。


 シルバは食事はしないのであたしたちのそばでじっと立っている。食事時のいつもの光景。

 食べ終わるのを待って動き出す。


「そろそろ、トラクが配送され予定時刻になりますが、どうしますか?戻って乗り入れ通路にかかりましょうか?」


 すっかり忘れてたね!でも今いいとこだよ?

「えー?シルバ、ここはこれからじゃないか。僕はもう少しここを探検したいよ!」


 あたしも乗っかってガクガク頷いて見せると

「そうなりますか。ですが受け取りだけはしておかないと、配送の方が迷惑致します。そろそろレクサールの乗り場へ移動いたしましょう」

「もう来るの?乗り場まで跳ぶよ?」

「行こう行こう!」


 3人まとめて渦に包み込むとあたしは乗り場へ跳ぶ。

 乗り場はいつもと変わりない様子だった。


「予定では後5メニほどで到着になっておりました」


 シルバはそういうけど、あたしはこの世界で時間を気にする人を見たことがないんだ。予定って言われてもねえ。あたしとナックはブラブラと乗り場をうろつき出した。


 だって退屈なんだもん。


 少し経って

「遅れているようですね」

 ポツリとあたしたちの後を付いているシルバが言う。


 ジリジリと退屈な散歩は続きとうとう2往復もしてしまった。

 もう一辺歩こうかと動き出してしばらく経った頃


「来ましたね」シルバの声があって


 コオォォーー


 乗り場全体に響く微かな音が聞こえて来る。音が大きくなる中、後を付いていたシルバが先に立って、通路の中央あたりで立ち止まった。

 左手の真っ暗な奥、遠い位置にチラチラ光が見えた。それはすぐに丸い形になってさらに音がゴウゴウと大きくなる。


 ヴヴゥゥーー


 音が変わった。構内の灯りの中へ長い長い筒が滑り込んでくる。すごい速さで入って来て目の前を通り過ぎた筒は、見る間に速度を落としやがて止まった。


 あたしの前には低い壁が連なって列車と隔てているが、それが低く縮んで行ったと同時に列車の壁に穴ができた。それが上下左右に大きく広がってその向こうには四角い物体、サイナスで見た作業トラクがあった。


 穴が広がりきると中央の扉が開きトラクから若い女性が降りて来た。

「もしかして出迎えですか?」

「そうです。お待ちしておりました」

「助かります。ここでお渡しできるってことでいいんですよね?すぐ戻らないと遅れてて。すぐ降ろしますのでお待ちください」

「大丈夫です私がこのまま降ろしますので手続きを進めてください」


 シルバがそう言うとトラクの前方、乗り場と列車の床の間を跨ぐように立った。お姉さんとあたしたちも続く。

 誰も乗っていないトラクがそのまま横に移動して乗り場に出て来るのをあたしたちは目を丸くして見ていた。

 ふと目の前に小さなクリップボードに乗った紙片が突き出された。お姉さんがあたしを見ている。


「受け取りにサインを頂けますか?」

「え?あたしでいいの?」

「はい。クレハさま宛になってございますので」

「はあ」


 その間に長さ8メルの巨大な箱は乗り場へ移動し終わっていた。シルバに背を押されあたしは列車側の床に立ってたんだけど、カタリとも揺れずいつの間にトラクが降りたのか不思議だった。

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