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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
1章 冒険の始まり
13/48

6 地下探査

 クレイドスはあれで諦めたのだろう。そのまま巣へ帰って行った。

 ドスドスと地響きが近づいて来る。


 クレハがそちらへ目をやると、茶のデカいネコミミヤローがこっちへ向かって走って来るのが見えた。その背に小柄な男の子が乗っていた。まだ離れているのに、その体から出たとは思えない大きさの、やや高い声が飛んで来た。


「あんたら大丈夫か!」


 背から身軽に飛び降りた子供は、気の強そうな目で辺りを見回した。引きずってきた血の筋と1羽の死骸、血塗れの千切れた翼に、ヒクヒクと痙攣するように横たわるクレイドス。

 やや高い場所に落ちた2羽目は見えていないが、気配から見てもう死んでいる。


「もう一羽いなかったか?」

「ああ、それなら向こうに落ちた」

「そうか。チャー、回収を手伝ってやれ。オレはリンドーってんだ」

 

 リンドーと名乗った少年は暗い茶と緑の迷彩上下に同色の背嚢、ゴツい編み上げ靴。どれもガルツ商会の店に並ぶ屋外衣装だ。

 ネコミミヤローは親指を立て、あたしが示した方へ歩いて行った。


「向こうで回収やってたんだけど、クレイドスの急降下が続いたから見に来たんだ。

 しっかし、3羽もやっちまうとか、すげえな!」

「あたしはクレハ。こっちがナックで、銀頭はシルバだよ」

「ふうん?で、こんなとこで何してたんだ?バスの時間でもないだろ?」

「僕らは駅の調査してたんだ。ここの駅が乗り換え駅だって知ってた?」

「ああ。聞いたことあるよ。でも、そんなのないぜ?」

「あるかないか、それを調べてるんだよ。乗り場の奥に通路を見つけたんだ」

「いけませんよ、ナックさま。安全の確認がまだできていないのですから」

「あ。そいつ、シルバって喋れるんだ?チャーたちは声を出さないから」


 話している間にチャーが、首のプランとしたクレイドスを一羽担いで、草山を乗り越え現れた。


「で、これどうするんだ?」


 この質問にはシルバが答えた。


「宿舎があると聞いていますので持っていこうかと。引き換えに回収した金属類を少々、分けていただこうかと思います」

「そりゃ構わないけど、どうするつもりだ」

「探査用のセンサを作りたいんだ。シルバ。高い音がいいって言ってたけど何で叩くの?」

「クレハさま。 遮蔽材(タングステン)を15キルほど借りて頂けますか?」

「あ。

 じゃ、後で行って来るよ」


 宿舎に着くとあたしはトイレの場所を聞いた。


 1人になるとサイナスに跳んでジーナな挨拶して、遮蔽材の在庫を少し分けてもらった。

 村には丁度配送トラクが来ていて荷下ろしと特産海産物の干物の積み込みで大勢が周りで作業していた。

 ニックスとレイラの姿もその中にあって、元気そうで安心した。


 また来るよ。そう呟いてあたしはサイナスを後にした。



 レクサスに戻るとナックがクレイドスの解体を見ていた。羽根が大きいので毟るのに力が要る。一本ずつ引き抜きながら作業台の上で切り分けられる肉を横目で見ている。

 シルバの姿は見えない。解体を手伝うリンドーに聞くと資材倉庫に行ったとのこと、早速センサを用意するのだろう。

 遮蔽材のせいで重くなった背嚢を置いてあたしも羽根毟りに加わった。


「すまないね。まだ回収班が戻らないんで人手が足りなくって。さっさと処理して仕舞わないとせっかくの肉が台無しだからね」

 賄いのおばちゃんが下働きらしい少女と手早く解体しながら言った。


 鳥の骨は中身が全部詰まっていない分軽いらしいが、その分表面は硬くて叩きつけるように包丁を振るっていた。



 お礼にと昼飯をご馳走になって、回収班が午後の作業に戻るころ、シルバが戻って来た。


「50もあれば予備を入れても十分でしょう。遮蔽材(タングステン)はどうでした?」

「これで間に合う?」

 あたしは背嚢から直径6セロ程の塊を出して見せる。

 浮遊を使わず生で持とうとすると手首の関節が持っていかれそうに重い。一点に重量がかかるので倍も重く感じられるのだ。


「ああ。いいですね。ではこの重量で反響を計算します。ちょっと球面の歪みを補正してしまいますね」


 いい感じのまん丸だと思ったんだけど、シルバは気に入らないらしい。

 でも、数メニかけて何かやっているけど、どう変わったか全くわからない。艶が良くなったかな?くらいの違いだ。


「ではセンサの配置に行きましょう」

「どこまで行くの?」

 聞いたのはナック。


「先ほどの通ったところに順に配置していきますが?」

「なんだ。それじゃ、つまんないや。こっちで遊んでていい?終わったらボタンで呼んでよ。クレハもこっちでいいでしょ?」

「遊ぶって何する気?」

「回収班の仕事って見たいかな?って」

「そんな面白いかなあ?」

「だって、見たことないでしょ?」

「まあそうだけど。でもあたしは乗り場の右側も気になるんだよね。隠し通路があったりしてさ」

「あー。確かに」


 あたしたちは乗り場の探検に行くことにした。


「分かりました。準備ができたらお呼びします。この球を打ち当てるにはクレハさまの協力が必要ですので」


 あたしの協力って何させる気だろ?ま、いいや。


 駅に向かう途中では空の警戒をしてたのに、クレイドスは襲って来なかった。そのまま通路に入り、シルバが隅にかがみ込んでセンサを配置して行く。出口近くと乗り場の近く、その後は隠し通路からテトラインの乗り場だ。そこでシルバは左へ行った。あたしたちは右を見に行く。左と同じく乗り場は60メルほどで行き止まり。

 天井の照明もここまでで、先の方で窄まっていく巨大な円筒形が薄明かりに見えている。


 ここまでナックと左の壁を見ながら来たけど、やっぱり何にも無いねえ。


「向こうも帰りに見つけたんだよな。なんか仕掛けがあるのかもな」

「どうだろ」

「僕、壁を伝って戻って見るよ」


 そこは天井照明の切れ目だった。3メル四方の照明板が5メル置きに並ぶその切れ目。

 ちょっと薄暗い壁にナックの手首が潜り込む。


「わっ!クレハ。あった!」

「え!あ、ホントだー!」

「どうなってるんだろね?」


 ナックはそのまま壁に溶け込むように向こうへ消えた。

 あたしも壁に手を付いて見る。確かに壁の感触が無い。そのまま壁を通り抜けた。向こうの壁でも転移の渦は見えなかった。ここもあたしの転移とは違うんだろう。まるで薄い布膜を通り抜けただけのようだ。


 今度は広い通路だ。天井の照明が点いていて真っ直ぐに伸びている。


 あれ?こっちは明るいんだ。なんで?


 10歩ほど先でナックがあたしを振り返った。


「風の音かな?奥から」


 うん。微かなそれっぽい音。通路は曲がっているのか少し先までしか見えない。


 明るいと言ってもでかいネコと遭遇したばかりだ、慎重に歩を進めると曲がり角ではなく行き止まり。突き当たりはゴツゴツとした岩壁だった。


 風の音は岩のひび割れから聞こえる。覗いて見ても中は真っ暗。どこかで地上に出てるんだろうけど。


「行き止まり!?」

「ホント?」


 行き止まりなら、なんで照明が点いてるかな?


 壁を右手でなぞりながら歩いてみたけど全部壁、今度は転移陣はないみたいだ。

 この先が外に通じるならテトラインにトラクや馬車が乗せられるんだよね。

 とはいえ今はどうしようもないか。


 仕方なく戻っていくとテトラインの乗り場にシルバがいた。センサの配置がここまで終わったってことだ。


「おやナックさま、クレハさま。そんなところにも通路があったのですか?」

「広い通路だよ。でも行き止まりでさ」

「岩の隙間から風の音がしたからどっか地上に近いとは思うんだけどね」

「ふむ」


 シルバはその通路を調べてセンサを3つ配置していた。


「ここなら良く響くでしょう。クレハさま、遮蔽材(タングステン)の球を天井まで浮かせて、そのまま床に叩きつけて頂けますか?

 危ないので少し離れた場所から。

 出来ましたら当てるのは床1回だけですぐに回収したいのですが、いかがでしょう?」


 難しいこと言うなあ。

 浮かすのも叩きつけるのも浮遊で問題ないけど、離れて?

 どのくらい離れてできるかな?

 あと、1回だけって?

 あ、跳ね返って天井にも当たるのか。放っとくと床と天井でバンバン往復になっちゃうとか?ありそう……

 でもそれを回収?むーーー

 あ。叩き付けたらそのまま抑え込んじゃうとか?


「なんとかなる……?でもそんな離れては出来ないと思う」

「そうですか。出来そうな距離でお願いします。ではこの耳栓をしてください。ひどく大きな音がすると思いますので」


 あたしは言われた通り耳栓を付け、遮蔽材の操作を何度もイメージした。ナックは通路から追い出され乗り場で待機だ。ナックの耳栓は付けたまま。

 シルバは床が砕けてカケラが飛ぶといけないと言って、あたしの前で盾になる。

 距離は5メル少々と言ったところ。浮遊はそれ以上離れると難しい。


 床の遮蔽材を持ち上げる。天井まで浮かせるのはなんの問題もない。

 ここからだ。


 下向きに叩きつけるように浮遊の力を思い切り()つける。そのまま床へ抑え込む。

 耳栓をしていてもクラッとくるくらいの衝撃が襲って来た。前にシルバがいたけど、こいつ細いから。左右から壁に跳ね返り襲う衝撃波で、あたしは数歩後ろへ引き摺られた。


 抑えはうまく行ったようでそれ以上の動きは無かった。

 膝の力が抜けあたしは床にへたり込んだ。


「クレハ!」


 背後でナックの心配そうな声が耳栓を通して小さく響く。


 音が転移の膜を超えたんだろうか?


「クレハ、大丈夫か?乗り場が一瞬揺れたぞ。キーンってすごい音がしてた!」


 駆け寄りながらナックが捲し立てるのがぼんやり聞こえた。


 あたしが覚えているのはそこまでだった。


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