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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
1章 冒険の始まり
12/48

5 レクサス

 大猫を排除して出た通路の先はすり鉢のような地形の底だった。左に枯れ葉混じりの土色の沼があって、据えた泥の匂いが立ち込めている。足元は落ち葉でふかふかしているけど、下に何か折り重なるように長いものが横たわっているらしく、時々足を突き上げるような感触が返り歩きにくい。

 そう思って周囲を見回すと太い幹のまばらな木立。ポツリポツリと低木が固まって生え、草はあまりない。


 振り返ると出て来た穴は自然の洞穴にしか見えない。中では明るく見えた通路も眩しい陽光の下では陰鬱に見える。

 陰鬱といえばこの窪地も出口の辺りだけ陽が差しているが、周囲は木立で見える範囲は薄暗い。


「クレハ、ここってどこなんだろう?あの峡谷には見えないよね?」


 確かに木の隙間から見えるのは空で、岩壁など見えない。

 あたしはその場でまっすぐ上に跳んだ。見下ろす一面の森。左に山脈が迫り右手に大きな切れ目が見える。あれが峡谷だろうか?

 シルバは下へ降っていると言ってなかったか?なんで上の森?


 さらに上空へ跳ぶとこの辺りの全容が見えた。やはりあの出口は渓谷の上の森だ。後ろにレクサスの大倉庫から続く屋根付き橋と谷底の湖、その遥か先にレクサールの街並みが見える。前方にはまだ暫く地峡が続き数10ケラル先で狭まって谷が森に飲まれている。

 レクサスの駅からは6ケラルといったところか。ずいぶんと離れてしまっている。


 あたしが地上に戻るとシルバがナックと待っていた。


「駅側の谷の上だね。結構離れているよ」

「え?下じゃなくて?」

「うん。なんでか通路を歩いた距離よりずっと離れてる」

「やはりなんらかの機構で転送されたようですね。ナックさま、クレハさま、どうしますか?」

「上から見たけど、この出口周辺に道はないよ?」

「うーん。隣のチューブ路線は見つかってないんだから、シルバの言ってた音響探査ってのをやってみるか?」

「そうだね」


 シルバは背嚢から筒状に巻いたボードを取り出し周辺の衛星画像に、ここまで歩いたルートと重ねて表示した。歩いたルートは途中で切れて、あの折り返し通路を辿ったのちまた途切れて、ここの出口まで飛んでいた。

 この出口付近にも転送の仕掛けがあるらしい。


「これで見ると4、50メル間隔で音響センサを配置して、やってみるほかなさそうです」


 打撃音を発生させる道具と音響センサを作るためレクサスの倉庫へ戻ることになった。

 アカメ由来の転移陣は一方通行なのでどこへ出るか心配だったけど、ここのは来た時と同じルートを戻って行く。仕組みが違うのだろうとしか言えないけど、面倒がなくて助かった。



 駅の通路から出て橋に移ろうとした時だった。クレハがビクッと周囲を警戒する。


 その直後、右手に突き出た空を覆う庇の下をを掠めるように、クレイドスが飛び込んで来た。広げると8メルはありそうな翼をやや縮め、両脚の鉤爪を大きく広げ、獲物に向け滑るように飛び込んでくる。

 正面にいたナックをシルバが突き飛ばし、剣を半ば抜いた辺りでクレイドスの爪がクレハとシルバを捕らえた。

 そのまま左の壁にドカッとぶつかり、クレイドスが羽ばたいて立ち上がろうとする。


 ナックが起き上がり振り返ると、その爪に捉えられていたのはシルバだけだった。


「あっぶね!」


 声を聞いてナックが見るとクレハがクレイドスの向こうに浮いている。危うく難を逃れたようだ。が、シルバは両腕を鉤爪で抑えられ動けない。

 ナックが腰の剣を抜き突きを放つ。クレイドスの注意を引いたのを見て、クレハが短剣を頭上に振り上げた。ナックの軽い突きに合わせ、クレハが腕を振り下ろすと同時にクレイドスの首筋に跳んだ。

 狙いは過たず、首筋に短剣が半ばまで突き刺さる。クレイドスが痛みに羽を振り回す。

 クレハがサッと離れた。


 巻き起こる風を躱しナックが振る剣が正面から喉元を叩いた。大きなクレイドスの喉元は羽毛がびっしりと覆っていて、その弾力でナックの軽い剣は弾かれた。

 クレハが短剣を振り上げもう一度跳ぶ。


 ナックは突きの構えをとった。ふたつ目の刺し傷に暴れる脚からシルバが跳ね飛ぶ。

 金属製とは言ってもヒョロリとしたシルバはクレイドスと比べ軽い。

 振り回す羽が収まる頃合いを見て、ナックがクレイドスの胸に体当たりをかけた。


 ギギェーー!


 つん裂く悲鳴、同時にクレハの短剣もまた3つ目の穴を首に穿つ。

 クレイドスは右足を一歩踏み出そうとして、潰れるように通路に倒れた。


「ふいー。こいつ、あたしらが出てくるのをどこで見てたんだろ?こんな狭い通路に飛び込んでくるなんて」

「クレハ!おまえ、よく爪にかからなかったな!」

「そりゃあね、伊達に親なしを何年もやってないって」


 そうは言ってみたものの、あれはギリギリだったよ!爪がお腹をかすめたからね!


 多分、親なしの意味がわからず、コテンと首を傾けるナックを他所に警戒しながらシルバが起き上がった。


「ナックさま、クレハさま、お怪我はありませんか?」

「あたしは危なかったよ。でもシルバが一番被害があったみたいね」


 立ち上がったシルバの丈夫な生地の上着に大きな穴が二つ空いていた。

 シルバの眉が額の白黒の鉢巻を超えて跳ね上がった。


 いつも思うんだけど、あの眉ってどうなってるんだろ。


「ああっ!

 アリスさまに作って頂いた上着がっ!

 なんとお詫びすれば良いのか!」


 シルバって慌てるんだ?

 それよりあたしは空が気になる。さっきから屋根の向こうに気配が3つ、大きく旋回している。


 あたしの顎が上を気にしているのに気づいて、シルバがクレイドスの死骸を屋根のかかった橋の上へ引きずって行く。またあいつらに狙われては敵わない。

 この鳥だって7、80キルはあると思うんだけど、シルバは細い見た目の割に力が強い。ただデカいので脚を持って背を引き摺り血の筋を引きながらシルバは平然と歩いて行った。


 橋を渡切り屋根が途切れる。

 あたしらは一層の警戒をしながら宿舎へ向かった。


 クレイドスが3羽、橋の向こう、駅の入り口上空で舞っている。100メルも離れているが油断なんかできない。


 あたしは振り返りながらシルバの後を付いて行った。幾らも進まないうちに上空でキエェェーと声が上がった。クレイドスの軌道が大きく変わる。

 数度羽ばたいて高度を上げ、大回りにこちらに向かって来る。


 見つかった?


 大きく旋回しながらクレイドスは更に高度を取った。

 先に登っていた水色の1羽が急降下に入った。


「来るよ!」


 シルバが引きずっていたクレイドスの死骸から手を離し、ナックを背に庇うように背の長剣を抜いた。


 あたしは見えている相手ならいくら速いったって、転移で逃げられる。ただ逃げるつもりは無いけど。


 大きな羽をほとんど畳んで石のように落ちて来る。だが一直線ではないところを見ると、僅かに突き出した背の羽でコントロールしているのだろう。

 視界の隅にもう1羽が羽を畳むのが見えた。


 時間差か。


 シルバを見ると足は広くとっているがまだ剣は構えていない。

 ナックはそのやや後ろ、右にずれた位置で剣を構えている。


 クレイドスが急速に近づいて来る。


 こりゃあ2羽目が厄介かも?

 あたしは空へ転移した。クレイドスの速度に合わせるのはちょっと大変なので、2羽目の軌道のやや前方に跳ぶ。


 あいつの頭にこの短剣を食らわしてやる。

 あたしが現れた位置は想定通り。これなら脳天に!

 短剣は背を抉って手からもぎ取られてしまった。空中で回転しながら感覚を頼りに横へ跳ぶ。3羽目の急降下はあたしを狙ったのか?

 あたしの短剣を持ち去ったクレイドスは肩翼を広げ錐揉みに入った。それに反応して3羽目は速度を落とす。


 あたしの陽動は成功だね。


 なんとか回転を止め下を見るとシルバが急降下を迎え討っていた。

 直前で大きく翼を広げ急減速するクレイドスに対し、長剣を背負う形に構えタイミングを待つシルバ。

 どれだけの風圧を受け止めているのだろうか、クレイドスの軌道が不規則に揺れる。あの大きな両翼を持ってしてもあれほどの急減速は相当の負担だろう。

 もちろん減速しなければ地上に叩きつけられ、それでお終い、そこは承知でシルバは間合いを待っているのだ。


 クレイドスがシルバに向かうと見えた一瞬、その頭上を飛び越え、後ろのナックへ襲い掛かる。減速したとは言えここから見ても速い動きだ。大きな翼を器用に操りナックの側面に回り込む。


 と。

 シルバの姿が消えた。

 あたしが見失う?!


 突然シルバがクレイドスの背後で剣を振ったような残像が見え、辺りに血飛沫が舞う。


 何が起きたの?!


 あたしはクレイドスのすぐ上に跳んだ。

 クレイドスの左の翼が宙にあり血を撒き散らし回転している。

 本体はナックの右に頭から突っ込んで行った。上でシュンと剣を振る音がして、見るとシルバが跳躍の頂点で剣を納めるところ、反動で回転を始めた体をどうにかしようとバタバタしている。


 案外ドジだよね。


 あたしはシルバの脇に跳び、腕を掴まえる。

 安定を待って地上へ。後ろでドシャっと大きなものの落ちる音、あれは2羽目が落ちたのだろう。3羽目は上空へ登っている。


 あ!短剣、回収しないと!予備はあるけど、こっちは軽いからちょっと頼りないんだ。無茶すると折れちゃいそうなんだもの。

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