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フロウラの末裔 2  作者: みっつっつ
序章
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序 ナック

 ミットの息子ナックと系譜の少女クレハが辿るテトラインの旅


 物語は50年ほど前、ジーナが田舎町でエイラを保護したところから始まった。


 エイラが行商で身を立て30数年、本拠地ナーバスを洪水が襲う。おりしもナーバス開駅に訪れていたアリスとミットが街を救う。


 この少女たちは敗残兵ガルツが掲げる『飢えない世界』を目指し、太古の遺跡《チューブ列車》と新たな輸送手段、トラク輸送で世界を変えて行くと言う。


 道はまだ遠い。


 その苦闘にナックとクレハが身を投じる。

「坊っちゃん、こんなところに居られましたか。今日は元気がありませんね。このシルバと遊びましょう。どうぞこちらへお(いで)ください」

「あっち行け!くんな!」

「どうされましたか、これはまた随分ご機嫌が悪い事で」

「ぷい!」


 ナックさまは私に背を向けると隣家の物置の隅に座り込んで、向こうを向いてしまいました。

 この物置には物持ちの良いご隠居が集めた、失礼ながらガラクタとしか言いようのない様々なものが雑然と押し込まれております。

 ナックさまが潜り込んだのはその一角、戸口から入って右手の隅でございますが、なんの器具なのか長い柄のついたものが10数本立てかけられ、その柄の隙間を縫うように小さな体を押し込まれたようです。

 とは言えもとより隣家の所有でございますから、緊急でもなければ私が勝手にそれを退けてナックさまをお出しする訳にも参りません。

 それでこうしてお声がけを続けているわけですが、拒絶されてしまいます。

 私もこうした幼いお子様の育児記録を検索し該当しそうな例など見ておりますが、なかなか難しいのです。対処法として示されるものに矛盾が多く、うまくいかなかった事例、時間が必要だったものを見ながらここ数日、私は途方に暮れているのです。


 今日はナックさまの居場所が確認できたので、隣家にお断りを入れて私は家へ引き上げることにしました。

 隣家はお年寄りの一人暮らし、2〜3日に一度娘さんが子供を連れ様子を見に来ています。

 今日は丁度その日だったようで、みなさんから了承をいただきました。

 私はナックさまのお好きなおやつを作って待つことに致しました。


 私がオーブンに向かってナックさまのために胡桃入りのクッキーを焼いていますと、外から子供の遊ぶ声がしました。まだ家から少し遠いのですが、お一人はナックさまのようです。


 ああ、あの暗い物置から外へ出られたのですね。私はオーブンの火加減を確認し玄関へ出ました。外には隣家の12歳になるお嬢様、レイドルさまにお相手していただき、ボール遊びをするナックさまのお姿がありました。


 私の背を駆け抜ける脱力感が何であるのかわかりませんが、人間の仕草を真似て細く息を吐き出してみました。


 ナックさまは今年で6歳になります。

 私はナックさまが生まれた頃からお付きを命じられているのでした。

 ナックさまはこれまで奥様とジーライン探索に付いて行っていたのですが、危険の多い毎日ですので奥様か私、あるいは同僚のシロルと必ず一緒でした。

 どんな行動にも危険が伴うため制限が多く、少しも自由にはさせられません。自立心の芽生えられたナックさまは一昨日(おととい)の朝、奥様のお出かけのお誘いを断って私と留守番と相成りました。

 いつものように奥様は、一旦出かけられると数日は帰って来ないのです。


 ナックさまはもちろん夜には通信で奥様とお話しされていますが、昨夜も私の硬い体にしがみ付くように眠っていました。

 もちろん冷たいままではお可哀想なので、ヒーターを入れ36セッシドには表面温度を調節いたしますが、やはり私では奥様の代わりにはなりません。


 奥様は自ら掲げる理想を追ってジーラインの探索を続けているのです。

 そのお姿は大変に立派ではございますが、ナックさまがこうしてお心を痛めておられるのを見ると、強化され滅多なことでは傷もつかないはずの私の胸部プレートが、引き裂かれるように感じてしまうのです。


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