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第87話 グラタンと、胴上げ



メレディスさんは『王都ラミリアでマリーラ開店』と書かれた書類をみんなに配る。

手渡された書類を見ると、店舗開店の場所、採用した料理人•従業員、収支予測が書かれていた。


「ルミナーラ様に伺ったのですが、店舗開店する上でマリー様が1番気にされること、それは信用のおける料理人!!ですので、今回は王宮料理人から5人を採用いたしました」

「えっ!?」


渡された書類に料理人の採用人数と名前、年齢は記載されていたが、王宮料理人とは書かれていなかったため、メレディスさんの言葉に私は驚いた。

確かにアントワネット王国でお店を出す際、私はレシピの流出を恐れてルミナーラさんに相談し、その結果、王宮料理人のドミニクさん達を紹介してもらっていた。


「あの、王宮料理人の方達は納得してるんですか?」

「もちろんですわ。マリー様のお店の評判は王都中に広まっていますし、そこで料理を作れるのは幸せ意外の何物でもありません」

「うっ!!」


どうしよう。

私は王都でお店を出すならクレープ屋さんと思っていた。クレープ作りで王宮料理人が納得するだろうか。

アントワネット王国では『マリーラ•パスタ』があるので、ドミニクさん達も新たなパスタ作りを目標にモチベーション高くやってくれている。

パスタとクレープは流石に違うよね?


「それでマリー様。どのような料理のお店を始めていただけるのでしょうか?」

メレディスさんは目を輝かせ、私に聞いてくる。

他のメンバーも前のめりで答えに期待している。


「う、う〜ん•••」


私がこの世界で作ってきたスウィーツ以外の料理、牛丼、鳥の唐揚げ、ステーキ、カレーライス、トンカツ等、これらをお店で出すには大きな問題があるのだ。

まず、ご飯は私のスキルでしか用意できない。

次に、材料となる牛肉、鳥肉、豚肉とも、こちらの世界では高ランクモンスターであるため流通しておらず、私達ファミリーでしか用意ができない。


『マリーラ•パスタ』では、トマトパスタ、カルボナーラ、ペペロンチーノを出しているが、カルボナーラにベーコンは入ってない。

そう、どのパスタも肉を使ったものではないのだ。


王都ラミリアでもパスタ屋さん?

いや、あまりにも捻りがない。

パスタみたいなご飯がなくてもお肉がなくても美味しい料理は•••。


「グラタンは?」

「へっ??」

「だから、グラタンよ」

いきなりのユキの提案に私は椅子から落ちそうになる。


「な、何で私の考えてることが!?まさか、この家にいると心の中まで読まれちゃうの!?」

「てか、マリー普通に声に出てたよ」

「えっ!!嘘!!どこから??」

「あまりにも捻りがない、からかな•••」

「おーのー」


私は恥ずかしさのあまり、頭を抱える。

けど、グラタンは良いアイデアかも。


「グラタン、いいね」

「でしょ?まぁー、本当は鶏肉入れたいけど、パスタとじゃがいも、玉葱、チーズで充分美味しいしね」

「うん、ありだよ」

「ベシャメルソースなんて以外と作るの難しいし、王宮料理人も納得するんじゃない」

「確かに!!ベシャメルソースってフランス料理だもんね、ちょうどいいかもー」

「私ってば天才」

「うんうん。ユキは天才•••。んっ?なんで王宮料理人の方達が満足できるか心配してたことを知ってるの?」

「•••」


部屋中にユキの口笛を吹く音が響く。

私はメレディスさん達を見ると、みんな優しく微笑んでいた。



どうやら、最初から私の考えは声として発せられていたらしい。



「ま、マリー様。グラタン、とはどのような料理なのですか?」

「マリーちゃん。大きな独り言は忘れて、今はグラタンのことを考えましょう」

「それって、アイリスさんが食べたいだけですよね」

「てへぺろ」

アイリスさんは舌を出して戯ける。

完全にユキの影響だ。



私は恥ずかしさを忘れるためにも、1階のキッチンに移動してグラタン作りを開始した。


鍋にバターを入れて溶かし、薄力粉を数回に分けて加え混ぜる。クリーム状になったら牛乳を入れて混ぜ、胡椒で味を整える。

『料理スキル』のお陰で、ダマひとつできずに綺麗にできた。


私が料理をしていると、いつの間にかラーラ、ナーラ、サーラ、ユキ、サクラ、ヒナがキッチンの周りに集まっていた。


「マリー様。これはもしや、新たな料理では?」

「そうだよ」

「おぉぉぉーー」

「ま、マリーの料理、わ、私好き」

「ピーピー」


私の眷属として振る舞っている時とは正反対のラーラ達のかわいい反応、サクラ、ヒナの頑張ってキッチンを覗き込むかわいい姿に癒される。


癒された私は張り切って30皿分のグラタンを作った。


オーブンから次々と現れるグラタンを目にして、ラーラ達、サクラ、ヒナのテンションが一気に上がる。

ベシャメルソースのほのかに甘い香りとチーズが焦げた食欲そそる匂いに3階で待機していたメンバーもたまらず降りてきた。


「さぁ、みなさん。これがグラタンです」

「「「「おぉぉぉぉぉーーーー」」」」

「マリーちゃん、食べてもいいのかしら?」

「はい。それではみなさん、いただきます」

「「「「いただきます」」」」


みんな冷ましながらグラタンを口に運び、咀嚼を始めた瞬間に固まった。

熱かったのかな?と思ったが、みんなの顔は蕩けそうなほど幸せな表情をしていたので、満足しているようだ。


「美味しいーーー!!」

「「「ぅまぁ〜」」」

「ま、マリー、て、天才」

「ピーピーーーー!!」

「あぁ、この世界に来る前はグラタンでこんなに感動するとは思わなかったよー」

「いや、それは!?」


ユキの発言にヒヤリとするが、みんなグラタンに夢中で気にしていないようだ。

そもそも、グラタンを提案したのはユキなんだけどね。



「マリー様。グラタン、本当に素晴らしいです!!これをラミリアで出していただけるんですか?」

「うん。グラタンの材料なら王都でも揃うし」

「嬉しいですわーー!!」

メレディスさんがいつも通り私に抱きついてくる。


「マリーお姉様。ガーネットにもスウィーツ以外のお食事ができるお店をお願いします」

アイラもまた、抱きつきながら言ってくる。


「そうだね。何か考えておくね」

「はい!!」



その日はグラタンを食べて、そのままみんなお泊りとなった。

もちろん、仕事から帰ったアリサにもグラタンを振る舞ったよ。



次の日、朝からアントワネット王国に行き、従業員全員にポイントカードの仕組みを説明した。


「ポイントカードの説明は以上です。次に、日頃一生懸命働いて貰っている皆様にボーナスを支給したいと思います」

「ぼ、なす?」

「野菜が貰えるのかしら?それは助かるわ」


予想通りの反応に対し、私は『アイテム収納』から現金の入った封筒を人数分取り出す。


「ボーナスとは、みなさんのお陰でお店の売上が好調なので、それを還元しようという仕組みです」


みんなまだポカーンとしている。

あぁ、ユキがいれば•••。

私はボーナスなんて貰ったことも、ましてや支給したこともないからどう説明すればいいか分からない。


こうなったら


「今から、みんなに臨時で賃金を支給するよー。並んで下さーーい」

「臨時で、、、賃金を」

「臨時ってことは、、、月の賃金とは別に?」

「そうです。月の賃金とは別に、臨時で給料を渡します」


お店に集まった全従業員はお互いの顔を見合わせて、静かに、いや、無言で確認し合っている。

そして•••



「「「「ぅお、よっしゃーーー」」」」

従業員の殆どは女性だが、店内に野太い声が響く。


「あぁー、また子供の洋服が買えるわ」

「娘の誕生日プレゼントが買える」

「なんて素敵なお店なの」

「働けて幸せだわ」

「聖女様に全てを捧げます」


異様な雰囲気で店内は盛り上がり、私は一人一人に現金の入った封筒を配ると、中身を確認した従業員達がまた歓喜に湧く。


店内の隅で見守っていたルルミーラさん、ルミナーラさんは優しく微笑んでいた。

私はその笑みにピースをして返した。


と、次の瞬間、私の体が中に浮いていた。


「えっ!?ちょっ!!」

「「「「マリー様、バンザーーーイ!!」」」」


みんなに胴上げをされていた。

照れ臭いけど、みんなが笑顔だったから私も嬉しくなって体を任せた。



そして、ガーネットの街でも同じことを説明し、私はこの日、2回目の胴上げをされるのであった。




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