第145話 昔の榎本マリ、今のマリー・アントワネット
現れた景色はどこか地球と似ているが、明らかに文明レベルは地球より高い星だということが分かった。
『これが、始祖星が誕生して約100億年後の世界。折角、ここまで発展したんだけどね・・・』
次の瞬間、激しい地響きが起こり、煌びやかに輝いていた塔と建物が空中に放り出される。
目の前で起きている現象に思わず身構えるが、放り出された建物は私を貫通していく。
『始祖星はね、今の星と違い宇宙空間になかったんだよ。大きな、それこそあなたのいた地球がすっぽりと収まる台座に置かれていたの』
『台座には6本の柱があって始祖星を支えていたんだけどね、ある時、1本の柱が壊れて始祖星が傾いたんだ』
榎本マリは少し悲しげな表情でそう話すと、指を鳴らした。
辺りは砂地が広がり、所々に建物の残骸や先程手に取って携帯電話もあった。
元の世界に戻ったようだ。
『台座の柱が壊れてから50億年後が今の姿だよ』
『あの時から、私はね、台座から始祖星を浮かせるために宇宙空間を作ったんだ。それと、星を自立させるために爆発を引き起こし、引力を作り、それを維持するために宇宙空間の膨張を続けた』
『少し、難しかったかな?』
話自体は難しいのだが、自然と頭の中にその時の景色や思いが流れ込んでくるため、不思議と理解でき、目の前の私が話している内容は真実だと感じていた。
恐らく、目の前にいるのは、私の得意なファンタジーアニメに出てくる創造神なのだろう。
今は榎本マリの姿をしているが、本当は神々しい光に覆われたお爺様か、綺麗な美女が本来の姿なのかもしれない。
そう考えると、先程までの恐怖は薄まり、体の震えは収まっていった。
『どうして笑っているの?』
私は無意識に笑っていたようだ。
ファンタジー世界、ど真ん中の話をされたらそれは笑ってしまうよ・・・
「ひとつ、聞いてもいい?」
『いいよ』
「どうして地球に、私の所に来たの?」
ここまでの話からすると、私は神の血を引いたフローレンスの生まれ変わり。
そうならば、偶然地球にいる私の前を横切った可能性は皆無だ。
必ず理由があるはずだ。
『150億年・・・。実際にはもっと前から私は存在していたんだよ。たった1人で・・・』
『だから、会いに行ったんだよ。まだ神になっていない、始祖人の生まれ変わりに』
神になっていない始祖人・・・
神様シンは、転生を繰り返して、徳と善を積んだ者の中から神様を選ぶと言っていた。
実際には、始祖人だけが神になれるということなのだろうか・・・
『始祖人は、いずれ必ず神になるんだ。今は神達が管理しているから他の人間もなれるみたいだけどね』
『榎本マリも、悪神になってしまったけどね。それでも、他の神と違い、私を敵視している様子はないからこうして会いに来たんだ』
『探すの大変だったんだけどね、あなたが遮断されていた壁を壊してくれたからようやく見つけることができたよ』
榎本マリは1人で話し続けているが、その表情は明るく、楽しそうだった。
まるでこれまでの孤独を取り返すように会話をしている。
「フローレンスの姿をしてまで、私に近づいたのも会ってみたかったから?」
『そう。フローレンスの記憶には悪いことしちゃったけど、あなたと、過ごして見たかったから』
「最後に、あなたは創造神なの?」
榎本マリは困った表情をすると、首を左右にゆっくりと振った。
『違うと思う。少なくとも、始祖星を作ったのは私じゃないから』
『だけどそれはね、The truth that cannot be exceeded』
『超えられない真実』
神様シンに聞いたこの世のタブーに触れる際に使われる言葉・・・
神達も目の前にいる存在を悪神と勘違いし、悪戯に星を爆発させていると、誤った認識でいる。
それだけ、触れられない、触れても分からないことなのかもしれない・・・
「それで、あなたはこれからどうするの?」
『宇宙の膨張は何もしなくても数億年続くし、どうしようかな』
目の前にいる創造神に近い存在は、今の私や神々で攻撃しても少しのダメージも与えられず、一つの攻撃で星を壊せる強大な力を有している。
けれど、今は、昔の私・・・
ただの榎本マリに見える・・・
悲壮と孤独
笑顔と幸福
たった14歳の生涯だったけど、色々あったな・・・
その色々は、この世界での、私の源・・・
目の前の榎本マリは、寂しそうな顔をして、遠くを見つめている。
榎本マリを救えるのは、昔の榎本マリ、今のマリー・アントワネットしかいないよね。
「しょうがないな。なら、一緒においでよ」
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《新作》
歳を取らない姉妹
〜追放・魔物、色々あるけど、寿命スキルで乗り切ります〜
是非、ご覧下さい。




