第144話 始祖
私の手を握り締めているフローレンスの姿が徐々に薄くなり、半透明になっていく。
フローレンスは全てを悟ったような、どこか達観しているような、何とも言えない表情をしている。
「フローレンス!!」
「マリー・・様・・。全て思い出しました」
フローレンスの姿は更に薄くなり、瞳からは涙が溢れだしていた。
「私は、いいえ・・・。ヴェランデゥリング王国は、遥か昔に滅びていたのです。私も、父も母も、民も全て亡くなった・・・」
「ど、どういうことなの!?少なくとも、フローレンスと私は一緒に過ごしていたじゃない!!」
「なぜそうなったのか、それは分かりません。ただ、ヴェランデゥリング王国は滅びたのです」
フローレンスがそう言って地上を指差すと、体が激しく黄金色に点灯し始めた。
同時に私の体も点灯を始めると、フローレンスの服装が変化する。
これまではこの世界で一般的に着用されているワンピースだったのだが、今は胸と下半身部分を簡易的な布で巻いている姿に変化している。
刹那、どこか地球に似た近代的なスカート衣装に変わると、最後は民族的な衣装に変わった。
服装は変わっているが、姿はフローレンスのままだ。
「マリー様・・・。いえ、私自身よ、お別れです」
「フローレンス、何を言ってるの??」
「あなただけは、私を忘れないで・・・」
フローレンスは物悲しげに微笑むと、光の粒子が空へ舞い上がり、完全に姿が消えた。
先程まで繋いでいた手にあるはずの温もりも完全に無くなった。
私は力無く地上に降りると、両手両膝を着き、込み上げる気持ちを必死に押し殺すが、俯いているため地面に涙が次々と落ちる。
「フローレンス、どうして・・・」
地面に着いて拳を作る右手に自然と力が入ると、拳を地面に叩きつけた。
地面は抉られ、辺りに砂埃が舞い、私の視界を奪ったが、一度だけ光が見えたのを見逃さなかった。
「フローレンス!?」
砂埃の合間から時々光る何かを目指して、私はゆっくりと近づいた。
光の前に来た時、私の体は驚きからその場に立ち止まり、しばらくの間、動くことが出来なかった。
光は人工物・・・
少し違うけれど、私もよく知っているもの・・・
「どうして、これがここにあるの・・・」
私はその人工物を手に取ると、砂埃を手で払った。
「なんで、携帯電話があるの・・・」
私の手にあるのは、10センチ程の液晶パネルが嵌められた黒い物体で、どこから見ても携帯電話にしか見えなかった。
『ようやく、会えた』
背後から男性とも女性とも、この世のものとも思えない声が響き、素早く振り返った。
「ふ、フローレンス・・・!!」
背後に立っていたのは、先程粒子となって消えたフローレンスだった。
「えっ!!」
フローレンスだと思った姿は瞬時に別の人物に変わった。
ここに来てから起こっている全ての現象が理解できず、何とか平静を保っていたが、フローレンスの後に現れた人物を見て、それすら保てなくなった。
「なんで、私がいるの・・・」
そこにいたのは、私自身だった。
『フローレンスも榎本マリも、同一人物なんだよ』
「何を言ってるの!!あなたは、誰!?」
『私は、誰でもない・・・。ただ、全ての世界を守っているもの、かな』
目の前にいる榎本マリがそう言った瞬間、悪神の力を解放しているにも関わらず、私の毛は逆立ち、歯と歯が当たるカチカチという音が鳴り始めた。
本能的が伝えているのだ。
攻撃された瞬間、私は一瞬で存在が消されると・・・。
恐怖で身体中が震えながらも、私には分かった。
「あ、あなたは、わ、私が死ぬきっかけになった悪神なの!!」
『半分正解だよ』
「は、半分?」
『そう。榎本マリが死ぬきっかけになったのは正解。だけど、私は悪神じゃない。神達はそう言ってるみたいだけどね』
榎本マリの姿をしたその存在は、話しながら私の周りを後ろに手を組んで歩いている。
『なぜ、神様シンの裁きが人間である榎本マリに当たったか分かる?』
「えっ・・・」
私は神様シンの悪神を狙った『神の裁き』が当たり、地球で死んだ。
そもそも『神の裁き』は人間には当たらないらずなのに私に当たってしまったと、以前、シンは言っていた。
『それはね、榎本マリは始祖人の転生者であり、神の血を引いた者だからだよ』
「私が?神の血?全然、分からないよ!!」
榎本マリは顎に手を当てて少しの間考えると、パチンッと指を鳴らした。
すると、今いる砂地が景色を変え、緑あふれる景色へと変わった。
そして、私の体を貫通しながら見知らぬ男性とフローレンスが通り過ぎて行った。
『これが始祖星であり、フローレンスは榎本マリの生まれ変わりだよ』
それだけ言うと、榎本マリは再び指を鳴らした。
次に現れた景色は、白い輝きを放つ空まで届きそうなほど高い塔と、周辺に様々な建物が広がるものだった。
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歳を取らない姉妹
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